9.3 体育倉庫は健全じゃないの?
放課後。
「小月さん、どこいこっか」
小月さんと行き先の相談。
でだ。
ちょっと俺、主体性なさすぎるんだよね。今の状況にいろいろ考えて工夫してるのは小月さんだし、小月さん用のグッズ作ってくれたのは日向さんだし。
今日放課後出かけよう、って言い出したのも小月さんだし。
俺も少しは役に立たなければ。
「池辻くんはどこか行きたいとこある?」
ここだ。いいかんじの提案をして小月さんポイントを稼ぎたい。
学校終わってからの短時間でも楽しめるやつ。
いや、もちろんアイディアなんてないって。だからなんか教えてくれ。ん? おしゃれなカフェ? ……上大座ならあるかも。知らないけど。
手多高校近辺だと行く場所限られるんだ。
高校にあるのは坂。あとは、そうだな。学校前に駄菓子屋っぽい小さな商店が二軒ある。運動部のやつらがよく遅い時間に溜まってる。
あとは、まあほら。駅まで行けばいろいろあるよ。本屋とかだんご屋とか。
いや、団子いいじゃん。たこ焼きとかも売ってるんだ。だめか。味はおいとくとして大きいから好きなんだけど。うーん。
「ない。どこでも」
「どこでもは困るよ」
「だって小月さんと一緒なら本当にどこでもいいんだよ」
「でも物置とか言ったら嫌でしょ」
「……大歓迎だけど」
「……物置でなにするつもりなの。私もちょっと例がよくなかったなって言ってから思ったけど」
一瞬いろいろと想像してしまった。
「じゃあ本屋」
「いいけど、どかな」
小月さんの反応が芳しくない。あれだ。どこでもいいって言っておきながらじゃあ、って希望を挙げると否定されるやつ。
……違うな。どこでもいいとか言ったの俺だ。小月さんじゃない。あと本当にどこでもいいと思ってるし。
「あのね、私たち人が多いところとか室内ってアウェーだと思うんだよね」
「じゃあやっぱり物置しかないね。室内だけど、人はいないよ」
「そこ、引っ張らない」
「体育倉庫とかでもいい」
「やだよ」
「じゃあ公園でぼけっと」
「今度は健全だね」
「体育倉庫は健全じゃないの?」
「い、池辻くんが言い出したんでしょ! 違うからね? 何も起きないから。マットも2枚敷いて別々に寝ればいいんだし」
「泊まるんだ」
「……もう体育倉庫の話はおしまい。でもアウェーだから避けようってのはちょっと消極的かもね。最初に比べれば随分慣れたし、むしろ人混みにこそ突っ込んでくべきかもしれない」
小月さん男前。
「池辻くん、私の買い物に付き合わない?」
「いいよ。なに買うの」
「パジャマ。じゃなくてもいいんだけど、寝るとき用の服を見たい」
「俺も一緒でいいの」
「もちろん」
「責任重大だ」
「いやいや、決めるのは私だから。でも池辻くんの意見は聞いてみたいから丁度いいかなって」
「じゃあ上大座?」
「うん。途中で降りよ」
俺と小月さんが住んでるあたりは都市近郊のベッドタウン。手多高校のまわりは、なんというかこう、ちょこっと田舎だ。通学路から畑とか見える。
有機野菜そのものはあるんだけど、有機野菜を使ったおしゃれなレストランはない、ってかんじ。
普段乗り換えている上大座は商業施設も多くて、近場で買い物といったらここ。
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