7.7 いるわけないでしょそんな人

「なにこれ?」


「これを、池辻くんが下着の下に入れておくんだよ。そしたら最低限の空間ができるでしょ」

 

 自転車用のヘルメットを小さくしたような形状にゴム紐がついている。なんというか、急所を守るプロテクターみたいな。

 ゴム紐は支えるためだろうけど、これはなんだろ。


 長い管みたいなのが伸びているのと、いくつか棒みたいなのが内側についている。


「この管はなに?」


「換気用。池辻くんがくわえて息すれば空気入れ替えられる」


「吐いた息じゃ苦しくない?」


「別に酸素がゼロになるわけじゃないし。それと、直接吸わなくていいんだ。とりあえず空気を動かせればまわりと入れ替わるでしょ」


「なるほど。このカップの裏についてる棒みたいのはなに?」


「手すり。千穂が立った姿勢のとき掴まるとこがあると楽でしょ。長い時間だと疲れちゃうと思うけど、そのへんは千穂が頑張れるうちに池辻くんがなんとかして」


「……すごいよ、日向さん。ありがとう!」


「いいよ。ギブアンドテイクってやつだよ」


「テイク?」


「可愛い千穂が見たい」


「そういうことなら」


「可愛い千穂を見てほしい」


「それはだめ」


「大丈夫だよ、会員制のとこだから。秘密厳守」


「ほんとなにやってんの日向さん。駄目ったらだめ! ……大丈夫だよね、ネットに上げたりしてないよね?」


「千穂に許可もらってからのつもり。まだ何もしてないよ」


「俺の許可は?」


「千穂だけでいいでしょ。みんなが待ってるのは千穂だし。誰も池辻くんには興味ないよ」


「そうだろうけど! その、どこ? 上げようとしちゃってたの。サイトの名前とか」


「サイトっていうか。『いきにんぎょう』、ってドールハウスのサークル」

 

「……はい?」


「だからドールハウスのサークル。健全な。ふふん。ねえ池辻くん、なにを想像してたの?」


「……なにも」


「千穂のえっちな姿が配信されちゃうと思ったの?」


「滅相もない」


「千穂があられもない姿を晒して誰とも分からない男達のなぐさみものになっちゃうと思ったの? そんな千穂の姿を見ながら、池辻くんは悔しいけど画面から目を離せないまま興奮しちゃったりするの?」


「しないよ!」


「奈美ちゃん。それぐらいにしといてあげて」


 小月さんが助けに入ってくれる。


「池辻くん、奈美ちゃんはこんなだけど、人の道にもとることはあんまりしないから安心して。たぶん」


 小月さんがそう言うなら。というかまたからかわれてるんだろうな。


「そうそう。プライベートで楽しむ以上のことはしないよ。信用して!」


 信用できない。


「ところで池辻くん。時間的にそろそろ戻る時間かな、って思ったんだけど今回は少し長いね。まだかかるのかな」


 少し心配顔の小月さん。

 確かに自然に収まってもいいぐらいの時間がたった気はする。

 

「は! 千穂、これはあれだよ。池辻くん、さっきの話でまた元気になっちゃったんだよ」


 小月さんが小首を傾げる。可愛い。


「池辻くんは千穂が他の人にえっちなことされると喜ぶってことだよ。なんだっけ、寝取られ? ってやつ。そういうのが好きなんだよ!」


「……奈美ちゃんはまたそういう。もう騙されないよ。いるわけないでしょそんな人。え、あれ、違うよね、池辻くん?」

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