7.5 奈美ちゃん遅いねー
「じゃあしょうがないね。ちょっと取ってくるものあるから、しばらく二人でくつろいでてね」
席を外す日向さん。
日向さんのドールハウスを眺める小月さんと、その小月さんを眺める俺。
「ねえ、池辻くん。家具いくつかこっちに置いてくれる?」
「分かった」
目に付いた手頃な家具を小月さんの前に置く。
テーブルにケーキ、クローゼット、テレビ。
「さすがに近くからだと造りが粗く見えちゃうね」
「それはしょうがないかなぁ。今の小月さんが作ったら超リアルなのができるかも」
「家具なんて作れないよ。ちっちゃくなるときに触ってれば小さくできるんだよね」
「それだと戻ったときに一緒に元の大きさに戻っちゃうよ。帰った途端に倒れてきて押しつぶされたりしたらやだ」
「小物ならいいのかな」
「スマホとかちっちゃくなってもちゃんと動くからすごいよね」
「……」
「……」
なんとなく会話が途切れて小月さんを見つめる。
お団子髪の跡地をくりくりいじりながらもじもじしている小月さんが可愛い。
「小月さん」
「ひゃい」
「撫でてもいい?」
「へ? あ、え、いいよ。い、いいとも」
力が入りすぎないように注意して頭を撫でる。
「あ、頭なんだ。でもこれいいね。ちょっと気持ちいい。えへへ」
「どこだと思ったの?」
「どこっていうか全体なのかと思って」
「いいの?」
「違うからね? ほら、奈美ちゃん戻ってくるまでひまだしね?」
何が違うんだかよく分からないが俯いて身体を硬くしている小月さんが可愛い。つい頭から下がって背中もさわさわしてしまう。
「ひぁっ」
「ごめん、痛かった?」
「くすぐったかっただけ。そうだ、肩もみやってみてよ」
「加減が難しそう」
「それがいいんだよ。面白そう。お願い」
両手の親指と人差し指でつまむように肩をもんでみる。
「おー、なんか気持ちいいよ池辻くん。広く押されるのがいいかんじ」
「よかった」
「……っ」
「?」
「指が顔をなでてくのがちょっと」
「ごめん」
「嫌なんじゃないよ。ちょっとくすぐったくて、ぴぁっ、てなっちゃった。えへへ。そ、それにしても奈美ちゃん遅いねー、はは」
「そうだね、何して……」
遅すぎる。
慌ててドアを見る。
微妙にあいた隙間からスマホを構えた日向さんが見える。
「何してんの。日向さん」
こういう人だった。
つい忘れていた。
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