7.4 おうち入ってみて
あんまり反省する気のない日向さんが茶化してくる。
「だいじょうぶ? おっぱいもむ?」
……あれ、ちょっとまって、今なんて言った。
気づいた時には頭を上下にぶんぶんふってしまっていた。
違うんだ小月さん、これは反射だ。石が飛んできたらよけるでしょ? あれと一緒なんだ。
「はいどうぞ」
え、本当にいいの? と思ったら日向さんが俺をえいっ、と横に倒した。でもってその先に小月さんがいるから胸にぱふってなる。……日向さんのおっぱいじゃないんだ。いいんだけど。
「な、奈美ちゃん!?」
急に俺とくっつけられた小月さんが慌てる。可愛い。
「あれ、これだけじゃだめ?」
上から俺の頭をぐりぐり押さえつける日向さん。下で小月さんがおっぱいごとつぶれている。
離れなきゃとは思ったんだよね。でも日向さんにおさえつけられちゃってるからさ。いやー、これはしょうがないなー、とか思ってたら小月さんが消えて床に勢いよく頭をぶつけた。
俺が被害者っぽいわりとバイオレンスな絵面だけど、実際は自業自得だ。
「できた! 池辻くん、千穂出してー」
日向さん嬉しそう。
「……言われなくても出すけどさ」
もう完全にいいようにもてあそばれてるな、俺と小月さん。
小月さんが苦しいのは嫌だ。
ごそごそと小月さんを出す。
小月さんは脇を閉じて顔の前に両腕を立てた防御っぽい姿勢。ボクシング?
「小月さんだいじょぶ?」
「うん。だいじょぶ。うまくいった」
「なんでそんな姿勢?」
「急に小さくなるとき、何もしないと池辻くんの服がずりってして痛いし息も苦しいんだよね。でもこの姿勢なら痛くないし空間も取れるんだ」
サバイバルみたいなことを言い出す小月さん。
朝の麦茶と言い、すごいな。
工夫してる。
「なんかごめんね、小月さん。その、急にくっついたり、ちっちゃくしちゃったり」
「いいよ。今のは奈美ちゃんのせいだし」
その日向さんはベッドに腰掛けていつのまにかスマホをこちらに向けている。目がめっちゃ輝いてる。
「千穂! ほらおうち入ってみて!」
「あ。入るのはちょっと無理かな」
「なんで!? 大丈夫だよ、ドールハウスって縮尺1/12だからさ。今の千穂にぴったりのサイズなんだよ!」
ほんとに? まさに小月さんの縮尺そのまんまじゃん。俺たちが知らないと思っていい加減なこと言ってない? あれか。俺たちと同じ状況の人って実は世界にいっぱいいるんだな、きっと。だからだ。
「計算間違えてないよね? 千穂の身長が144cmだから今12cmぐらい? うん、やっぱり合ってる」
……小数点以下を切り捨てるのはやめて下さい。cmじゃなくmmでお願いします。あれ、これよくない? mm単位で長さ言うとなんか逞しくなった気分になれる。
「足が池辻くんとくっついてるから移動できないんだよ」
「そんなの切っちゃえばいいじゃん!」
うおおぉいっ!
頭の中で日向さんの言葉がこだまする。『切っちゃえばいいじゃん』。いや、切っちゃ駄目だって。おかしい。日向さんおかしい。
「だいじょぶ、私バリ取るの慣れてるから」
大丈夫じゃない。
プラモか。
やすりとかかけちゃうのか。
最後#1000で仕上げか。
それもう、跡形もなくなっちゃうってことだよな。
いや、ちょこっとだけ残ってたら余計悲しいけど。
でも小月さんが反対してくれた。
「奈美ちゃん、き、切るのはなしでお願いします」
真っ赤っかだ。
小月さんもお怒りだったに違いない。
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