5.7 しょんぼり体育座りに戻る小月さん

「池辻くん!」


 ミニサイズとは思えない大音声で小月さんが話に割って入る。顔を真っ赤にしてご立腹だ。

 

「その話はいいでしょ! 池辻くんが興奮すると私がち……その、ち、そう、ちっちゃくなるってことだけ説明すればいいでしょ!」


「いや、こういうのって最初から説明しないときちんと伝わらないんだよ」


「待って、池辻くん。24時間? 千穂、まさか私が言ったのほんとにやったの?」


「……」


「やったんだね?」


「……やりました」


「あれは。その、身につけてるもの、はどうしたの?」


「前にハンカチ借りたことがあって。返すときは新しいのを買って渡して、そのときのは手元に残してあって」


「そう。ごめん、まさか本気にすると思わなくて」


「謝んないで」


「ほんとごめんね」


「……うまくいったんだからいいの。奈美ちゃんもやったらいいさ。そしたらばっちり恋愛成就だよ、はは」


 投げやりにつぶやいて、体育座りでしょんぼりしている小月さん。

 小月さんは一旦置いておいて、日向さんに俺たちの状態を説明する。


 昨日の朝、小月さんが勃っていたこと。

 コントロールができなくて苦戦していること。


「そっか。なんか大変そうだね」


 日向さんが小月さんにスマホを向ける。


「日向さん、スマホ。また撮ってるの?」


「うん。 大丈夫、今撮ってるやつも後で池辻くんにあげるよ」


 日向さんは小テストのときと同じようにスマホで小月さんを撮影しはじめた。あまりスマホの扱いが得意ではなさそうな小月さんが、やたらと録音しようとしたりするのは日向さんの影響だな、多分。


「私もちょうだい」


 小月さんがようやく顔を上げる。本人が嫌がってなければいいかな。


「いいよー。じゃあ折角だからなんかやってよ」


「なんかってなに?」


「くるっと一回転とか」


「分かった」


 小月さんがつま先立ちして両手を上に上げる。バレリーナみたいなイメージだと思う。


 そのままくるん、と一回転。

 最後まで身体の軸がぶれることなく、元の姿勢でぴたっと止まる。

 ふわっと広がったスカートが綺麗に円を描き、小月さんがまわりきったのを追うようにゆっくりと落ちる。


 見とれてしまった。

 いや、普段からさんざん見とれてるんだけど少し意味が違う。


 リスが口いっぱいに木の実をつめこんで、ほっぺをぱんぱんにしてる、みたいなのが小月さんの可愛さだ。愛らしい小動物っぽいかんじ。

 

 こう言ってはなんだが、小月さんにこんな可憐な動きができるとは思っていなかった。どちらかというと、こういう印象は日向さんっぽい美しさだ。すごいぞ小月さん!


 ――とか感心していたら、ぐりっと逆回転して顔からべちゃっと倒れた。

 

 小月さん、足の裏でおれとつながってるからね。ゴムみたいなもんだよね。回転したら元に戻っちゃうよね。


 俺はどうにか笑いをこらえきったが日向さんはだめだった。大爆笑だ。


「なにこれ! あ、そうか池辻くんとつながってるからだ。それでかー。もう一回! 千穂、もう一回やって!」


「……絶対やらないよ」


 しょんぼり体育座りに戻る小月さん。

 顔まで膝に落としてしまって口をきいてくれなくなってしまった。

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