5.3 放課後残ってもらっていいかな?
(さっきはこれでいけたよね。……え、まさか露出が足りないの? さすがにこれ以上はちょっともう自分で戻るのとかわらないレベルなんだけど……)
やっぱり勘違いしたまんまだったのか。
(小月さん、さっきは小月さんが痛々しかったから萎えたんだよ。今は痛々しいどころか艶めかしいよ。エロくて可愛くてもうどうしていいかわからないし、これだと『千穂ちゃん』はもうどっかいっちゃったまま帰ってこないよ)
(そっか。なんか間違ってたんだね。……っていうか急に名前呼びとかずるいんですけど。えへへ)
着衣を直す小月さんがめっちゃ尊い。
こんな可愛い子が彼女とか泣きそうに嬉しい。
と、撮っちゃだめかな。思わずスマホを構えてしまってから、シャッターを押すぎりぎりのところでふみとどまる。さすがに教室、さらに静まりかえった小テスト中にぴろん、とか撮影音が鳴ったらまずい。
自分でも小月さんが勃っている状況に慣れてしまい、感覚が麻痺してた。この姿を人に見られるわけにはいかない。
そんな中、自然な流れで「横から」話しかけられた。
(だいじょぶ。もうさっきから撮ってるから。あとで池辻くんにもファイルあげるよ)
(お、ありがと)
すっきりした柔らかい話し声につられてお礼を言う。
(ほんとかわいいなー。いいなー。池辻くん、あとでID交換しよ)
(りょ)
(あ、千穂もこっち気付いた。真っ赤から一気に真っ青になっちゃってほんとかわいー)
……真っ青?
小月さんが俺の右を指さしてぶんぶん手を振っている。
そういえば俺、今誰と話してたんだっけ。
驚きすぎると人間声は出ないもんだな。
小月さんと全く同じ表情でかたまってしまった。
そこにいたのは日向奈美さんだった。
俺の右下でかがみこんで小月さんをスマホで撮影している。
小月さんの仲良しさんだ。
(日向さん!?)
(よ)
(なにやってんの!?)
(いやいや。それこっちの台詞だから。池辻くんたちこそなにやってるの……あ)
ぽん。
(あれ。千穂?)
小月さんが戻った。
今は突然の事態に活力を失った『千穂ちゃん』がうなだれている。
(あ!)
スマホをいじっていた日向さんがなにかに気づき、声を上げる。
(?)
(……ごめん、最後ちょっと撮れちゃった)
なにが?
(大丈夫、ここは後でちゃんと消しとくよ。無修正はまずいしね。千穂の動画もちゃんと送ってあげるから許してね)
なにを?
(でもよかった、ネットとかで出てくるの結構グロいからさー。ちょっとやだなー、って思ってたんだよね。池辻くんのは全然怖くないよ。大丈夫、可愛くていいかんじだよ!)
だからなんの話――っ!
(とりあえずいろいろ話聞きたいし、放課後残ってもらっていいかな?)
真っ青になって固まったまま頷く。
そして小月さんが戻った後の自分の姿を確認し、あわてて服を直す。
違うんだ日向さん。さっきの『千穂ちゃん』は100%じゃないんだ。さっきの可愛すぎ小月さんが正しいサイズなんだ。あれ、どっちにしろ可愛いってことになっちゃうのか。
もうだめだな、俺。
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