3.6 でもこれ中にめっちゃ可愛い女子高生入ってるんですよ、見ます?

「小月さん、むり。空けられない」


「あついー」


「そんなことしたら俺が死んじゃう」


 社会的に。


「……それはやだな。じゃあ我慢する。でももう汗びしょびしょだよ。電車動いてる?」


「うん。もう少しで上大座につくよ」


「そっか」


「ついたらすぐトイレいくから。そしたら出してあげられる」


「男子トイレはやめてね?」


 小月さん何言ってんの。股間を手でわざわざ押し出した男が女子トイレに突っ込んできたら下手すりゃ全国ニュースだよ。


「無理だよ」


「違うよ、多目的トイレでいいでしょ」


 ああ、なるほど。必要がないのに使うのはもちろん駄目だけど、この状況で使う分には差し支えない気がする。

 

 ようやく電車が上大座駅につく。

 なるべく目立たないように人混みに紛れてトイレを目指す。

 先ほど立ち位置に困っていた若い男性も乗り換えだったらしく、すぐ前を歩いている。つかず離れず、と気をつけていたのだがなにもなくても混む駅だ。今日は大幅な遅延の影響もあっていつも以上に人であふれかえっている。


「ちょっとせまい」


「もう少し、我慢して」


 左手でズボンを押し出し、右手でスマホを持って鞄をその小指に引っかける苦しい態勢。詰まって人が動かなくなるすきに素早く小月さんに返信を送る。


 人の目が気になり、ついズボンの押し出しが小さくなってしまっていたか。小月さんがつぶれないよう空間を作り直す。ぐい。


「?」


 前にいた男性がこちらを振り返る。しまった、小月さんスペースの拡充に気を取られてあたってしまった。


「……え」


 自分の身体にあたったのが、男子高校生が手で押し出したズボンであることに気付く男性。


「すみません」


「……いえ」


 明らかに変態だ。

 すっごい見栄っ張りの。

 

 動揺した男性は、混雑の中を必死に前へとすすむ。とはいえこんな状況でも無理な進み方はしていない。……いい人なんだろうな。ほんとごめんなさい。


 でもこれ中にめっちゃ可愛い女子高生入ってるんですよ、見ます?

 ……だめだ、やっぱり完全に変態だ。

 

 あ、でもこれ。


 がんばって逃げてくれるおかげでくっついてくと進むのめっちゃ楽。


 そのままついていって、無事トイレまでたどりついた。男性は人混みを抜けた途端に猛ダッシュで逃げていった。


 ほんとごめんなさい、そしてありがとう。

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