3.3 見ても楽しいもんじゃないから
まあ実際には最後のほうに2人で乗って、俺がドアに両手をつく姿勢を取った。できた空間にすっぽり小月さんが収まるんだ。特に身体が触れたりはしない。
「これでいいかな」
「ありがと。楽だー」
一生懸命顔を上に向けて返事をする小月さん可愛い。
「……」
「……」
……おい、ちょっと誰か話題くれ。な、なに話したらいいの? 普段学校で話すときは平気なんだよ。2人だと思ったら意識しちゃって話すことみつからない。
「朝のあれ、これから毎日続くのかな」
目下共通のホットな話題といえば朝小月さんが勃っていることだ。でも言ってから思ったけど公共の場で話すことじゃないな。
「ど、どだろー」
小月さん下向いちゃったよ。どうしよう、こいつといてもつまんない、とか思われてるに違いない。
「早起きしたら小月さんのパジャマ姿が見られるかなー」
何言ってんの俺! だから朝の話はもういいんだって。なんかしゃべらなきゃと思って出た言葉がただのセクハラだよ。
「そ、そういう話はお外ではやめよ。それに、見ても楽しいもんじゃないから。――週末可愛いの探してくるからそれまではほんとやめて」
下向いたまま返す小月さん。
普段よくしゃべる小月さんも真っ赤になってご立腹のご様子である。
うわー。泣きそう。
そんないっぱいいっぱいの俺にさらなる仕打ちが襲う。
『上大座駅にて不測の事態が発生し、現在列車の運行を見合わせております。お急ぎのところ大変ご迷惑をおかけしますが――』
上大座駅まであと一駅、というところで駅に止まったままの車内に、しばらく動かないというアナウンスが流れる。
……間が持たん。
そんな中、止まっている電車には次々と人が乗ってくる。
俺たちはすみっこにスペースを確保しているので大丈夫なんだがちょっとまずい状態。
やはりこういう場合は、車内のスペースを人数で割った面積が一人分と考えるのがフェアだろう。これだけ混んでいるなか、無駄にでかい身体から両手を伸ばして場所を確保したままなのはやはりよくない。隣の若いスーツの男性とか両足ぴったりくっつけたまま動けなくなってるし。あれ、バランスとりづらくてきついんだよな。
「小月さん、ちょっとごめんね」
伸ばしていた両手を折って、少し前につめる。肘をドアにつけてぎりぎり小月さんが居られる程度のスペースを保持する。
「狭くてごめんね。小月さん大丈夫?」
「うん」
小月さんの頭が真上から見える。朝勃ってたときはもう準備をすませていたように見えたが、お団子髪がもう2限目あたりの状態までくずれてしまっている。朝走ったり、今も人多いしで汗かいちゃったんだろうな。胸元は手前に来過ぎちゃってよく見えない。
あ、でもあご引いたらいけるな。
違う、今のなし。みてない。みてないから。
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