2.2 池辻くん、ごめんなさい。朝のあれ、私のせいです

 学校に着き、小月さんの後ろに座る。

 後ろ姿だけど今日も可愛い。まだ朝なのでおだんご髪も綺麗にまとまっている。


 今朝のことがあってちょっと話しかけづらい。

 あれは夢だ。さっさと忘れて楽しく小月さんとお話したい。


 と、思いつつ一言も話さないまま放課後になってしまう。

 ホームルームが終わって、三々五々クラスメイトが部活やら帰宅やらで散っていく中、小月さんがこちらを見る。


「池辻くん、放課後ちょっといい?」


 今日全然話せて無くてへこんでいたところだ。しかも小月さんから話しかけてくれた。嬉しい。


「朝のこと」


 ……はい?

 思わず聞き返そうとして固まる。やっぱり夢じゃなかったのか。

 やはり朝、勃っていたのはまぎれもなく小月さんだったのだ。

 

 俺と小月さんはそのまま、教室に人がいなくなるまで無言で止まっていた。


 窓の外からは部活のかけ声や球音が届く。それでも、随分長いことふたりで粘ったせいか、教室には誰もおらず、廊下も静かになった。

 

「あれ、なんだったと思う?」


 ようやく口を開いた小月さん。

 思い詰めた顔で、本題からスタート。

 

「分からない」


 嘘だ。全部俺のせいだ。ごめん。


「やっぱりそうだよね」


 どうしよう。きちんと説明して謝るべきか。でもどこから? どこまで?

 小月さんが好きなことはまあいい。どうせいつか言おうと思っていたことだ。でもオナ禁はどう説明したらいいんだ。


 すぐ元に戻ったからいいというものではない。思春期の女の子がいきなり男子の股間に勃っていた。あまりあることじゃない。さぞショックだっただろう。


 それが俺のせいだと分かったら、彼女は俺にどんな感情を抱くだろう。そんなものは考えなくても分かる。


 だが、ごまかすわけにはいかない。

 俺のせいでこうなったことはきちんと告げ、謝罪しなければいけない。小月さんに嫌われると分かっていても。


 決意を持って小月さんを見つめるが、何も言えない。嫌われたくない。

 

 ……だめだ。ちゃんと言え。これは自業自得だ。


 小月さんを真剣に見つめ、言葉を探す。

 つばを飲み込んで、口を半開きにし、やっぱり言えなくてまた閉じる。


 そんなことで時間が流れてしまい、それでも今度こそさあ言うぞ、と思ったそのとき。


「池辻くん、ごめんなさい。朝のあれ、私のせいです」


 すくっと立った小月さんは、深々と頭を下げてそう言った。

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