第3話 野蛮な男子高生

 突然横から現れた男子高生が、ガン! とベンチを蹴る。


「どけクソ猫」

「ギニャ!?」


 気持ちよく寝ていたところを起こされた子猫は驚いて大きく飛び跳ねると、そのままベンチから飛び下り、そそくさと茂みへ逃げて行ってしまう。


「あー! せっかくチャンスだったのに……っ」

「ふう」


 女子たちが悲鳴を上げる中、男は肩に下げたバッグをベンチに放り、空いたスペースにどさりと腰をかけて足を組んだ。両腕をベンチの背に乗せて満足そうに息を吐く。


「なにしてんのこいつ!? まじあり得ないんだけど!」

「あ?」


 くつろいでいるところに水を差され、男は気怠そうに顔を上げた。そこには抗議の視線を送る萌が仁王立ちしており、両サイドの女子たちも目を吊り上げている。


「なんだお前ら? 乳臭ぇからあっち行けよ」

「私たちの方が先にここにいたんですけどっ。ていうか今の酷くないですか? 子猫が寝てるのを乱暴して退かすなんて。私たちも絵を描こうとしてたのに!」

「邪魔だから追い払っただけだろ。猫一匹で大袈裟に喚くな」

「なにこいつ、いきなり出て来てウザいんだけど」

「こっちは真剣だってのにバカにしてさぁ」


 女子たちは男を睨むと小声で言い合った。男はその悪態が聞こえていたが、別段気にした様子もなく、妙に大人びたパッケージの箱から煙草を一本摘まんで口に銜える。

 空いた方の手で着火したところで、またもや女子たちが声を上げた。


「あー! 未成年がタバコ吸っちゃいけないんだぁー!」

「お兄さん学生だよね? こんな時間に出歩いてなにしてんの? 学校は?」

「んだよ急に。お前らに関係ねーだろ。行きたくねーから行ってないだけだ」


 当然とばかりに男は胸を張る。そこには誰にも有無を言わせない威圧があった。しかしまだ小学生である彼女たちに、その空気を読む能力は備わっていない。


「そんなにうるさいならあんたがどっか行けば!?」

「そうだよ! あっちへ行けロクデナシの甲斐性なし! 出来損ないの不良! あんまりうるさく言うと先生呼ぶよ!? そしたらあんたの学校に電話してやるんだから!」

「すぐに住所特定してSNSにアップしてやる!」

「最近のガキはそこまで言うのか? 見ず知らずの相手によくそこまで……」

「ふむふむ。神崎悠人、ぴちぴちの17歳と……」

「!?」


 不意に本名を呼ばれ、悠人は急いで身を起こす。

 振り返ると真名が勝手にバックを漁り、生徒手帳を広げていた。


「なに人のバッグ勝手に漁ってんだ!? 返せ!」

「あぁっっはああぁぁぁ~~んっ」


 悠人は真名から生徒手帳をひったくると、次いで少女たちを睨みつける。


「お前らもどっか行け! とっとと消えねぇと本気で痛い目に合わすぞ!?」

「男って思い通りにならないとすぐこれだよね。ほんと野蛮」

「もうこんなのほっといて向こう行こ。ニコチンと肺癌がうつる」

「ちんちんが二つ!?」


 各々はそれぞれの心情を漏らしがら、そそくさと悠人から離れた。


「なんだったんだ、あの異常なガキどもは……?」


 そんな中、悠人は困惑しながらも、肺いっぱいに煙を吸い込むのだった。

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