転移者は異世界になじめない

さとりーど

『転移者は異世界になじめない』

「お,カセンが戻ってきたぞ!」

「あの依頼を成功させたってのかよ!」

「カセンだぞ! あたりめーだろ!」


討伐依頼を完了させ,ギルドへ戻っていると町の人や冒険者たちから迎えの言葉や賞賛の声がかけられる.


「相変わらず無傷だぜ,すごいよなぁ」

「といっても装備はボロボロだ.やっぱきつい依頼だったんだな」


確かに強い魔物だった.

せっかく作ってもらった装備だったけど,また新しいの作ってもらわないとな.


人にもまれながらギルドに入る.


「カセン戻ったか! 無事なようで何よりだ,ははは!」

「何とか無事にこなせました.ちゃんと証明部位も取ってきましたよ」

「流石だな! おい,確認してやってくれ! ははは!」


ギルドマスターの豪快な笑い声を背に受けながら受付嬢に討伐の報告を行う.

驚かれながらも手続きはスムーズに行われ,相変わらずかけられるお祝いの声から逃げるべくギルドロビーの端へ足を進める.


「はぁ……今日はなんかすごいな」

「そりゃああんな危険な依頼をソロで受けるからよ.みんな心配してたのよ?」


多すぎる声に疲弊していると,女戦士のクレイが声をかけてきた.

その後ろにはクレイとパーティを組んでいる女魔法使いのライラもいる.

二人とはよくご飯を食べに行ったりする仲である.


「いやぁまいったね.まあ倒せてよかったよ」

「まったくもう,カセンらしいわね…….今度は私たちも連れて行ってよね」

「ああうん,その時はよろしく頼むよ」

「よし! カセンの依頼達成祝いに飲みに行きましょ! 今日大丈夫そう?」

「ああ,大丈夫.道中休んでるしね」

「よかった.じゃあ早く荷物置いてきなさいよね.ライラ行きましょ」


来てからずっと黙ってこちらを見ていたライラだったが,クレイの言葉に首を振る.


「……ごめん.ちょっとやることがある……先に行ってて」

「やること? まーいいけど.二人とも待ってるわよ」


「じゃ,じゃあオレは荷物を「ねぇ」……なに?」

「たくさん回復魔法使ったでしょ」


冷や汗が背中を伝う.

これを追及されるのは何度目だろうか.


「いや,そんなには「魔力跡,体中に残ってる」うぐっ」

「また,いっぱい怪我したんだ……」

「ま,まあこうして無事に戻れてるんだし,いいじゃ「よくない」……」

「ねぇカセン君.やっぱり私たちとパーティ組もう.私たち,足を引っ張らないように頑張るから」

「……」


こうしてパーティに誘われるのは今まで何度もあった.

最初は気軽な感じで誘ってくれてたのに,今はとても辛そうな,悲しそうな顔で誘ってくる.


……そんな顔,しないでくれよ.


「ごめんな.前も言った通り,オレの戦い方じゃ二人に迷惑かけちゃうからさ」

「……でも「ありがとうな,オレを心配してくれて」っ……」

「さて,せっかくお祝いしてくれるんだ,早くいかないとな.ライラも早く用済ませて来いよなー」


話を打ち切るようにギルドから出る.

あのまま話しても良いことなんてないから.



「ありがたい,なんて……全然そんなこと思ってないくせに」




ギルドから出ても町の人から声を掛けられるため,人通りの少ない道を選んで宿に向かう.

高難度の依頼を達成したからか,いつもよりも声をかけられるな.


はぁ……疲れる.


いつからだったかな,こうやって町の人やギルドの人が良くしてくれるようになったのは.

いつからだったかな,その声が苦痛に思うようになったのは.



********



ある時目覚めたらオレはここにいた.


直前に何をしていたとか,どういう経緯があったとかは全くわからない.

元の世界の姿と変わらないため,転生ではなく転移なのだろう.

異世界転移ってやつだ.

一応そういった知識は持ち合わせていたからすぐにステータスを確認し,自分が最近プレイしていたゲームの勇者みたいな力がなぜが宿っていることに気づけたんだけどな.


取り巻く環境は大変で生きるのに必死だったけど,力に気づいた当初は楽しかった.

あきらかに元の世界にいた時よりも動けるようになったし,男のあこがれである魔法――支援型の光魔法だったが――を使えるようになってたし,新鮮さにあふれていた.


魔法はとても万能で,明かりになったり除菌したりと生活的な問題を解消でき,火さえつけることができれば周辺の魔物を狩猟して,ある程度の食事にありつくことができた.

高いステータスのおかげで魔物を狩るのは簡単だったし,テンションが上がっていたからか魔物狩猟も抵抗なくできた.

この世界の魔物は魔力をもっているおかげで味付け無しでも味を感じることができ,初めてのサバイバルだったのもあって焼いただけの肉がめちゃくちゃ美味く感じたのを覚えてる.


何日も野宿しながら人や町村を探す旅を行い,一週間は経ったかというところでようやく人に出会えたんだ.

大きな斧を振り回す大きな魔物をはじめとした魔物の群れと戦う男たちと.





「な,なんだあの魔物は……」


今まで狩っていたウサギ型の魔物やゴブリンみたいな魔物とは比べ物にならない.

元の世界の知識でいうなれば,ああいうのがオークと言ったりするのだろう.


そのオーク相手に苦戦している男がいる,助けないといけないはずなのに足を踏み出せない.


あんなにでかい魔物に勝てるのか?

でも,助けないと今にも倒されそうだ.

大丈夫,高いステータスがあるし回復魔法だってある.少なくとも時間稼ぎぐらいはできるはずだ.

助けないと!


しかし,覚悟を決めるには遅すぎた.

ようやく一歩を踏み出せるころにはオークが男の間横に斧を振り下ろしており,男の腕が吹き飛ぶ.

腕はくるくると回転しながら飛んでいき,男が痛みに叫ぶ.


そこで俺は再び足を止めてしまう.

腕が飛んだからとかではない.それ以上に目の前の光景が異常だったからだ.



血が,出ない?



男の肩先の断面からは血ではなくきらきらとしたオブジェクトのようなものが流れ出ており,吹き飛んだ腕も同じものを散らしている.

血ではない,まるでポリゴンのような.


「あ……あ……あぁあああぁああ!!!!!」


その瞬間,俺の頭はぐちゃぐちゃになった.


ただえさえ腕が吹き飛ぶなんてショッキングなもの見せられた上にそこから出るのは意味不明なもの.

俺は無我夢中でオークにとびかかった.


後から思うに,思考が飛んだことで逆に無駄なくステータスを発揮して勝てたんだろうけども.


落ち着きを取り戻すころには周囲の魔物は討伐されており,巨体なオークも死んでいた.

腕を飛ばされた男以外に部位欠損レベルで大けがした者はおらず,各々で治療や剥ぎ取りにとりかかっていた.


男は未だにもがき苦しんでおり,男の仲間が治療薬のようなものをかけている.

それでももがいているあたり,飲めば痛みが消える万能ポーションではないみたいだ.


「そうだ,回復魔法」


魔法なら痛みを抑えられるかもしれない.

折角使えるんだから,できることをやらないと.


「あ,あの」

「おう坊主.さっきは助かった.坊主がいないとやばかったかもな」

「そ,それは何よりです……あ,あの.回復魔法使ってもいいですか?」

「坊主回復魔法使えるのか! ぜひ頼む! 持ち合わせのポーションじゃごまかしもできねえんだ」


やべぇ,使ったことないから効力わからないんだが……

期待が重い.


「ひ,ヒール」


ヒールはゲームにおいて初級回復魔法であり,HPを微量回復する魔法.

これで多少は傷がふさがるかもしれないし,ダメならもっと上位の魔法を使おう.

そんな軽い気持ちでヒールを唱え,魔法の光が男の傷口を包む.すると――


「うぅぅうぅ……ん?」

「んな!?」

「え!?」


――傷口を覆った光は見る見るうちに大きくなり,吹き飛んだはずの腕を形成して光を止めた.


「い,痛くねぇ……う,腕が,ある」


男の腕は未だに転がっており,きらきらとしたオブジェクトを地面にしみこませている.

にもかかわらず男の腕は再生した.生え変わったのだ.


「き,奇跡だぁ!」

「救世主だぁ!」

「うぇぇえ!?」


俺自身わけがわからないまま,男たちから救世主のように扱われ,居心地の悪さを感じながら男たちの傷にヒールをかけて回る.

腕を再生させるレベルなのだからそれ以下の怪我も当然治り,男たちから感謝され続けた.



男たちの案内で町にたどり着き,ようやくこの世界で文明に身を寄せることができた.

宿に泊まり,この世界に来てから初めて柔らかいベッドで横になり息を吐く.


安心はできたが先の出来事での奇妙な違和感は抜けず,むしろ気が抜けてしまったことによってなぜここにいるのか,元の世界はどうなっているかと思いをはせる余裕が生まれてしまう.


元の世界ではどういう扱いになっているのか,両親に心配かけてしまってるのか,それともご都合されてるのか.

まだ親元も離れてない年齢であり親孝行もろくにできていない,それなのに自分はこんなところにいてしまっている.

そんな考えが頭を巡る.



もう十分楽しんだんだ,はやく元の世界に戻らないと.





後日,助けた男たちがお礼にとそこそこのお店でおいしいご飯を奢ってくれた.

その時にダメ元で転移のことを聞いてみると,意外にも転移者について聞くことができた.

転移者は少ないものの前例があり,のちの転移者が困らないようにある程度の情報を記録して残してくれていたのだ.


しかし,都合がい良かった反面,とても残酷な事実を突きつけられたのだった.




「え……帰る方法が,ない?・・・・・・・・・

「ああ.今まで何人も異世界人がこの世界に転移してきたが,誰一人帰れていないらしい」

「で,でも! 記録できてない事例だってあるかも……」

「そうかもな.ただ,割と最近の転移者が残してしまってるんだ.何十年も帰る方法を探したが,ついぞ叶わなかった……と」

「そ,そんな……」


血の気が引いていく.

思考がまとまらず,オーク戦の時以上に頭がぐちゃぐちゃになる.


「おい……大丈夫か?」

「え,あ……ごめんなさい.さすがにショックでしたけど,それなら仕方ないですね」

「お前にもいろいろ事情があると思うが……今は飲もうぜ!」

「そうですね……って,自分は飲めないですからね!」


気づいたら俺は宿のベッドで横になっていた.

なんとか平静を保ちつつあの場は乗り切れたみたいだ.

しかし,静かになった瞬間に現実から逃げるなとばかりに事実が流れ込む.



帰れない? 


じゃあ俺はずっとこの世界に?


父さんと母さんに何も返せてないのに


諦めないで探さないと


でも,帰る方法は……


 

何とか前向きにとらえようとしたが,最後に勝ってしまったのは絶望だった.

俺はもう元の世界には戻れないんだと.

勇者のステータスをもって転移したのだから,この世界で勇者になれという神の思し召しなのだろう.


そうやってこの世界で生きていこうと思うしかなかった.

俺はもう,諦めてしまったから.



あのきらきらとしたオブジェクトは……?





抜けない違和感を隅に追いやりつつ,オレは勇者として生きるために戦闘技術を鍛えることにしたんだ.

高いステータスを持っていても使えなければ意味がない.

男たち教えを請い,訓練してもらった.

勇者のステータスは吸収面でも優秀であり,数日の訓練でめきめきと対人戦,対魔物戦能力を伸ばすことができた.


魔物がいる森へと踏み込み,魔物との実践を交えて身に着けた能力を確認する.

実力は問題なく,以前相手したオークでも問題なく相手できると判断した.

いざってときは魔法を使って逃げればいいだけだったしな.


ある程度の確認を終えつつ,最後に奥地を覗いてから帰ろうとしたところ,オレはまたしても遭遇してしまったんだ.

前のとは比にならない量の魔物たちと,その近くできらきらに包まれながらうずくまっている二人の女性と.





あの量は絶対に勝てない……でも助けないと!

今度は迷わず,俺はすぐに飛び出した.


「大丈夫ですか! 意識はありますか!」

「ぐすっ……ひぐっ……人? わ,私は大丈夫.でもクレイが……」


どうやら片方の女性が重体みたいだ.

戦士風の女性が倒れており,魔法使い風の女性が泣きながら寄り添っている.


どうにか魔物たちを退かせて回復させないと!


「なんとか生きてください! こいつらは俺が引き受ける!」


彼女たちの周囲に聖域を展開させ,魔物の意識をこちらに向ける.

勇者のステータスをいかんなく発揮し,その場から離れる.



大丈夫,魔物たちはこっちに来てる.




「よし,ここまでくれば彼女たちにはいかないはず」


そう呟いて魔法を構える.

後ろからは魔物たちが現れ,俺を取り囲もうとする.


数的有利で余裕だと思ってるだろ?

その隙をつく!


「フラッシュ!」


初級光魔法フラッシュ.ただまばゆい光を放つだけ.

ただ,俺の動きに目を向けている今は効果的だ.


そして次なる魔法を発動し,その場から離脱する.

上空から魔物たちに向かって光が降り注ぐ.


「ま,殺傷力はないんだけどな.ただ,その場にはいたくなくなるだろ?」


広域聖域魔法.それを奥地に逃げたくなるように展開した.

魔物たちはその中にいるのを嫌がり,身近な逃げ道へと逃げていく.



こっちに流れてきそうな魔物はいなさそうだ.

よし,すぐに戻ろう.




さっきの場に戻ると,彼女たちは依然として聖域に包まれていた.


「大丈夫ですか!」

「……戻ってくるなんて.まさか,あの魔物たちを倒したの?」

「それこそまさか.遠ざけて逃げてきただけです.それより,様態は?」


戦士は未だにきらきらに包まれているが,さっきよりは顔色が良くなっている.

どうやら魔法使いは回復魔法が使えるようだ.


「このままじゃ,クレイが……」

「任せてください.俺も回復魔法使えます」


彼女が何かを言う前に魔法を唱える.

中級回復魔法,ミドルヒール.ヒールの上位版だ.

ヒールの時よりも大きな光が戦士の体を包み,体を癒す.


光が止まるころには戦士の顔色は良くなっていた.


「ん……」

「……なにこの回復力」


俺も驚いている.

体中傷だらけだったのが今はきれいさっぱりだ.

この異常な再生力にはまだ慣れそうにない.


クレイと呼ばれた戦士の様態が良くなったことで魔法使いの顔も和らいだ.


……それにしても,やっぱりきらきらはなくならないな.

そこら中にもきらきらが散っている.血みたいに.


「……あの,この女性はどのくらい・・・・・出血してたんですか?・・・・・・・・・・

「結構前から出血はしてた・・・・・・.それが長引いてふらついたところを一気に攻撃されて……あなたがいなければたとえ魔物たちから逃げられたとしても絶対に助からなかった..クレイと私を助けてくれてありがとう」

「ソ,ソウデスカ……」


出血という言葉が通じた.

血は存在する.元の世界と同じように赤い血が体に流れている.


じゃあ,なんで俺には血が血に見えない?


「ぅん……あれ……生きてる?」

「クレイ!」


思考の渦に飲み込まれる前に戦士が目覚める.


「この人が,助けてくれた.すごい魔法だった」

「あなたが,治してくれたの? それはとても,うっ……」

「あ! 動かないでください.傷を治しただけなので」


血はまだ戻っていない.そんな状態ではさすがに体は動かせないだろう.


「お礼は後でいいので,とりあえずここを離れませんか? あなたさえよければ俺が背負っていきますので」


魔法使いは戦士よりも小柄なため,背負うのは俺じゃないと無理だろう.


「そ,それはいいんだけど……ごめんなさい,なにからなにまで」

「大丈夫です.ではすぐに行きましょう」


壊れた鎧で怪我をしてはいけないので鎧を外してもらってから背負う.

一応,少し柔らかくて役得だったとは言っておこう.

……もちろん,そんなそぶりは欠片も出さなかったけども.





戻る道中で二人の名前を教えてもらった.

戦士はクレイ=カトラス,魔法使いはライラ=メギオンというらしい.


二人からは命の恩人と感謝され,できる範囲でお礼をさせてほしいといってきた.

二人はだれが見ても明らかなほどの美少女であり,そんな女性たちからお礼といわれると若干不埒な考えが頭をよぎってしまったのは我ながら未熟だったな.

もちろんすぐに振り払ったが.


戦闘が当たり前のこの世界ではその辺り実は緩かったりするのかねーとか考えつつ,男たちと同じようにおいしいご飯を奢ってもらうことにした.

できることをしただけだからその程度でよかったのだ.





町へと戻り,二人を送り届けてから自分の宿に戻る.

そして,再び部屋で現実と向き合う.

まあ,最初からうすうす気づいてはいたんだけどな.


まるでグロテスク表現を避けたようなフィルター描写,身に宿ったゲームキャラの力,あり得ない効果を持った回復魔法.

まるでゲーム世界のようだ.

でもこの世界はゲームじゃない,現実だ.



ならば俺が,ゲームキャラとしてこの世界に転移したんだ.



フィルターがかかったような描写はそういう設定がしてあるから.

初級魔法にも関わらず欠損部位が再生したのは,俺が扱う回復魔法が傷を治すのではなくHPを回復させるものだから.

HP満タンな状態を怪我のない正常な体とするならば,いくら酷い怪我を負っていようがHPさえ回復すれば相応の体に戻るということだろう.

元の姿のままゲームキャラを引き継いだのは謎だが,引き継いだからこそゲームキャラとしての視点を持つようになったのだろう.



俺は…………なんなんだよ





このときは流石に荒れたな.


すぐに宿を飛び出して森に飛び込み,見えた魔物を片っ端から狩りまくった.

技術も何もない,ただひたすら感情を吐き出すためだけの暴力.

それでもオレは死ぬようなことはなかった.


いくら怪我をしても魔法を使えばたちまち回復したからだ.

肉がえぐれようが何事もなかったかのように完治する.

戦えば戦うほどその異常性が証明されるのは皮肉だったけども.



日が沈むころには冷静さを取り戻していた.


自分の体やあたりはきらきらに包まれていた.

魔物や自分の血で辺りはひどいことになっていたと思う.


残ったのは虚しさだけだった.


勇者とか関係なく,オレはこの世界にとって異物でしかない.

それでも……それでも,もらった力はオレの中にある.

ならば,死ぬ時までこの力を使い続けるのが唯一の使命なのだろう.



そうしてオレは冒険者になることを決めた.



クレイとライラにご飯を奢ってもらったときに転移者であることを明かし,冒険者のいろはを教えてもらった.

その方が細かいところも聞けて都合がよかったからな.


冒険者として依頼を受けるようになり,採取から討伐,おつかいまで様々な依頼を受けまくった.

討伐依頼を受けたときに不運にも明らかな格上を相手する羽目になった時もあったなー.

その時は初めて部位の欠損を経験をするほどの死闘だった.まあ死ななかったけども.

その大けががきっかけで回復魔法がさらに洗練化されたのは儲けものだったな.


クレイとライラとはパーティを組むことはなかったけど,たまに一緒の依頼をこなしたりご飯を食べに行ったりと交流を深めていけた.

途中でクレイが貴族に連れてかれそうになったり、ライラの実家騒動とかがあり,それらの解決に力を貸すことが出来たのもあってさらに仲良くなれた気がする.



********



そんなこんなで,俺は未だ生きている.



もちろん,もらった力がないと魔物には勝てなかった.

ゲーム仕様じゃないと助けられない命がいくつもあった.

冒険者になることで町のみんなや冒険者たちから信頼されるようになり,クレイとライラと友達フレンドになることができた.


でも……それでも,みんなから見えてるオレはゲームキャラのガワであって俺ではない.

みんなが褒めてくれるこの力は与えられた勇者の力でしかない.

そして,俺が見えるこの世界はみんなと同じ世界ではない.

俺は本当の意味でみんなの苦楽を共にできないんだ.



所詮,ただのゲームキャラなんだから.



宿に荷物を置いてお店へ向かう.

お店ではすでに宴会が始まっているのだろう.楽しげな声が外に漏れている.

それを共有する資格は俺にはない.


「ああ,やっぱり俺は一生――」


――異世界この世界にはなじめない


そう漏らしかけた口に手を添える.


こんなことを考えてる暇はないだろ.


「あ! 来たわねカセン!」

「……盛り上がってるよ」



クレイとライラが,みんなが,オレを待ってくれているんだから.



「ああ,お待たせ」


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