後日談その1



悪魔の灰を神の山に捨てる旅を始めて約一ヶ月後、元第一王子は

国元からやってきた集団に捕まっていた。


「兄上!! 兄上は悪神の呪いに操られていただけで何も悪くないのです。

なので戻ってきてもらえませんか?」


「弟よ、いくら悪神の呪いとはいえ取り返しのつかぬこともある。

なので俺は在野の一人の冒険者として影から国を支えることしたのだ」


「そんなことはありません。確かにあの悪女に騙されていたとしても、

兄上の行いには問題はありませんでした。」



「いいやあの程度では公爵家に対し面目も立たぬ。それに結局メリダも

巻き込んでしまったしな。」


「それは大丈夫です。メリダ様とともにお戻りください。公爵閣下も

妹殿もそれをお望みです。」


「そうですわ、姉上。姉上方は悪魔の手先の復活を防ぐ旅になど行く

必要はありません。王家の方や公爵家の者に責任があるのであれば、

私たちが代わりに赴きますわ。」


「いいえ、私たちに隙があったからこのようなことになったの、

だから私たちが責任を取るべきなの。」



ーー 話し合いは平行線を辿り続けた。 ーー



「兄上、メリダ様。いい加減正直なことを伺いたいのですが、

王や王妃になるのが面倒だしちょうどいい理由ができたから

責任を押し付けて逃げようというわけではないですよね?」


「お・・弟よそんなことはないぞ…」

元第一王子は挙動が不審だ。


「私からも聞きたいのですが、姉上。お妃教育が面倒だし、お妃になるなんて

面倒なことやりたくないからって逃げているわけではないですわよね?」


「そ…そんなことはないわよ」

元公爵令嬢も挙動が不審だ。



「「私たちだって王様・王妃になるのなんて面倒なので真っ平御免です。

スペアの責任がない割に自由度が高い立場がいいんです。」」


「お前たちぶっちゃけてきたな。」

元第一王子が呆れた顔で言った。


「正直に言ってください。兄上たちだってそう思ってるんでしょう。」


「お前がそこまで言うなら正直に言おう。誰があんな激務で自由の少ない

責任だけ多い立場になりたがる?

食事の食材、身の回りの小物、衣服に至るまで各貴族間や派閥間の

バランスを考えなくてはならんし、水利権の争いの調停など

一歩間違えば反乱や内戦に繋がるような難しい裁定を行わねばならん。

それに加えて外交問題、24時間365日休みなくそれを考えないといけない立場だぞ?

王家の面子をあまり潰さずに穏便に逃げ出せる手段があれば誰だってそうする!」


「兄上、私だって嫌ですよ。なので戻って責任を取ってください!」


「いいや、議会の承認を得ての俺の廃籍だ。それを覆すわけにはいかん。」


「それについては、父上からの伝言があります。

『俺の留守中にあの面倒な議員連中を取りまとめ、望んだ議決を出させられるような

優秀な人材は逃すわけにはいかん!! あと俺だって弟に押し付けて逃げたかったのにお前だけ逃げるのは絶対許さん。』 

とのことです。」


「姉上、姉上にも父上からのご伝言があります。

『すまん。このままでは継承位第3位の儂が一時的とはいえ王にならないといけなくなってしまう。頼むから王子を連れて戻ってくれ!!』 

とのことですわ」


「いや弟よ、最悪の場合でも第4位の又従兄弟とかがいるだろう。それに議決が…」


「兄上、それは私が継ぐと思っていたため通っただけで、王位継承を避けるために

又従兄弟を含め王位継承権のある議員全てが議決取り消しのための法案を

準備中です。そもそもなんで騎士団を連れてきてるんだと思います?」


「お前の警護だろう。」


「兄上本当はわかってるでしょ!! 儀礼上呼び戻しに行く使者には私が

行くしかないけど、こんな逃げ出す絶好のチャンスを私が逃すと思いますか?」


「まあ、そうだな私だって同じ立場なら…警護ではなく逃げ出さないように

するための監視役だよな。

ただ俺は神に誓った神聖なる誓いの旅をやめるわけにはいかん。」


「なら終わったら戻ってもらえますか? 兄上?」


「過酷な旅だ、それは保証できない。もしかすると悪魔の手先が現れ旅半ばで

倒れるかもしれない。だが安心しろ何があっても神の山でこれを処分するまでは

絶対に死なぬ」


「そう言って死んだことにして逃げる気でしょ?」


「そ…そんなことはないぞ?」


元王子が貴種たる血の影響から完全に逃れるのは難しいようです。

この先いったい何人の王位継承者と王位継承権で争うことになるの

それはまた次回の講釈で…




蛇足の蛇足

王位継承権XXX位

「俺が王になってもいいぞ…」

「愚王は不要です。死んでください。グサっ」

王位継承とは誠に難しく血で血を洗う争いのようです。

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