第2話

私は花園くるみ。今日から華の女子高生になる。小学校の頃、お父さんの仕事の都合で住み慣れた町を離れ、それから五年。このタイミングで本社に戻ることが決まり、私たち家族も一緒に元の街に戻ってきた。


戻ってきてみると、変わっていないものがいっぱいあった。昔遊んだ公園や、近所にあった駄菓子屋さんもまだやっていた。

でも、変わったものもある。昔はなかった大きなマンションが複数そびえ立ち、昔のような物静かな印象は、町から消えてしまった。多くの人が近くの最寄り駅まで自分の携帯とにらめっこしながら歩いていく。その横を車がものすごいスピードで行き交う。


古き良き昔、というが、本当にその通りだと思う。私は昔の方が好きだった。穏やかな時の中を、優しさに包まれながら生活する。そんな日々はどんなに願ってもきっともう戻ってくることは無いだろう。


でもそれは、しょうがないことなんだ。私だって、この五年で大きく変わった。人見知りだった性格もなくなり、今では明るい女の子っていうイメージで通っている。中には、昔の私を知ったら、そっちの方が良かったという人もいるかもしれない。でも、いきなりそんなことを言われて自分の性格を直せるほど、私は器用な性格ではない。


だから、しょうがないんだろう。きっとこの世の中に変化しないものなんてないんじゃないか。諸行無常とはまさにこういうことなんだろう。


それでも……、私の中には今も昔も変わっていないと断言できるものがある。かつて、私が小学校の頃に一緒に遊んだことがある男の子。知り合ったきっかけは、私のお父さんと、その子のお父さんがクリスマスパーティーを両家合同でやろうと言った時だったと思う。その時、彼と初めて会った。


最初は緊張して上手に喋れなかったけど、時間がたてばすぐに打ち解けられた。私は彼をりょうくんと呼んでいた。彼はわたしをくるちゃんと呼んだ。何とも小学生らしいやりとりに、今思い出すと思わず笑ってしまう。


それから彼とどんどん仲良くなって、私たちは休みの日のたびにお父さんに無理を言って一緒に会って遊んだ。その時の私にとっては宝物のように輝いていた時間だった。


でも、私の引っ越しを機にそんな時間も終わりを告げる。本当に急だった。十分にお別れを言う間もなく私は彼と離れ離れになってしまった。移動中の車の中でひたすら泣いた、彼にもらった手紙を握りしめながら……


それから私は、彼と再会したときに恥ずかしくないように、ひたすら自分磨きをした。髪の毛をおしゃれにして、洋服もいっぱい調べて買いに行って、いわゆるいかにも女子中学生っぽいことをしていたんだと思う。努力の甲斐あって、男の子から告白されたことも少なくない。そのたびに、自分に自信がついて嬉しくなったが、申し出は全てお断りしている。だって、私が好きなのは……、


そして、また思い出のあるここに戻ってきた。彼に会えるかもしれないという期待は私の中でどんどん大きくなっていく。もしかしたら同じ学校に行けるかもしれない、もしかしたら街中でばったり会うかもしれない、もしかしたら、彼と……


いけないいけない。今は彼のことを考えているときじゃない。早く学校に行って、友達をつくらないと。


なにせ引っ越してきたばかりだから、知っている人は誰もいない。そんな環境で始めることには不安はあるけど、いつもどおりにしていれば、おのずと友達も増えるだろう。


初めて歩く通学路。ここをこれから三年間、歩き続けるんだな……。そんなことを考えると、なんだか高校生活ってとっても長く感じるけど、終わってしまえばきっとあっという間なんだろう。彼のことを想ってやまない五年間は、とても長かったけれど……。




そして、高校に着いた。大きな学校だ。生徒数もかなりいるらしい。これじゃあ、仮に彼がいたとしても、会える確率は低いだろう。


世の中、そううまくいくものでもない……。


落ち込んでも仕方ない。とにかく、教室に行こう!


掲示板に貼ってある、クラスの紙を見ると、私の名前は1年3組に書いてあった。他に誰がいたかは見ていない。だって、全員知らない人なんだから。



教室までは迷わずにたどり着けた。こういうとき、たまに迷子になってしまう私だが、今回は平気だったらしい。


教室に入ると、一瞬中にいた全員が私の方を見たが、すぐに視線をそらしてそれぞれやっていたことに戻った。こういう雰囲気、なんだか緊張してしまう。


私の席は、教室の真ん中。本当に中心だった。名字的にそうなってしまうから仕方ないのだが、なんだか周りから監視されているみたいで嫌だ。


私の前の席には女の子が座っていた。おとなしそうな、眼鏡をかけている子。見るからに頭がよさそうだ。後ろは……まだ来ていなかった。一体どんな子なんだろう……。


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