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 と、まぁ、ダラダラと思考を巡らせていたのは、単に暇だったからだ。


 今日は、朝早くからある家の前で立ちんぼをしている。学校には後で行くとして、今やるべきはこれだった。


 整然とした碁盤目状に並んだ家屋。道幅も広くて、静かで、ちゃんと剪定された木々が並んでいる。家屋の一つ一つが延床で五十坪はありそうで、シャッター付の駐車場にはベンツやBMが置かれている。


 平均年収は軽く一千万を超えているだろう。良好な住宅街。そんな住宅街で、私は堂々と張り込みをしていた。


 家のチャイムを鳴らしてもインターホンはうんともすんとも鳴らないし(おそらく、向こう側だけに映像と音が見えるようになっている)、リビングのカーテン越しに人が居るのは分かっているけど、誰も出て来ない。


 だから仕方がなく、春の直射に近い角度の日光を浴びながら門の前で待っているのだ。

 日射は強いが、幸い風は肌寒い程度であり、数時間ここに立っていても平気であった。ついでに、こうして立っているだけでも、私は退屈をしない。

 思考するのに場所は関係が無く、起きてさえいれば幾らでも考えるものはあるのだから、ここ数日と今後数年を考えるには丁度良い暇だった。


 ここへ来た理由は三つある。


一つは、千歳と三津谷の差が想定より広かったからだ。

 話を聞いてみるに、彼女の何が凄いのかを理解できなかったようだ。こうも言っていた。


「何かが、根本的に違うのかも」


 根本的に違うほどのものがあるのに、それが理解できない。単純な話で、相手を理解できるレベルに到達していないのだ。


 二つ、三津谷は、千歳をある程度のところで認めている。

 だからあえて、千歳には難解となる演奏をした。このパターンは、想定していた中で一番悪い。

 上手にも色々と種類があるものだが、彼女は決してお人好しではない。むしろ、冷徹というジャンルに入る。

 力は認めるから、ある程度のレベルで演奏するのだが、それを理解できないとして、だったら理解できるレベルになってみろと、突き放した演奏だったと推測できる。


 今後の千歳の成長を考えると、彼女だけではやりきれない。


 三つ、だから、近似の戦友が必要だ。

 別にライバルである必要は無い。ただ、理解のできる範疇に誰かがいるというだけで、人の成長は促進される。


 その適任が、坂之上弥子である事は明確だった。


 よって、その家の前で待ち伏せている。彼女は昨晩、ミラノの空港から帰国している。直行便の帰路で、羽田からここまでの時間を計算すると、そろそろ到着するはずだ。

 概ねこの時間だと分かっていながら、数時間前から待ち伏せている。


 私は、無駄が嫌いだ。


 そんな私の計算を知っているかのように、並木道の先からタクシーがやってきた。その助手席にはスーツ姿の男性、その背後にも人が座っているのが分かる。


 タクシーが家の前に到着すると、直ぐにその男達が出てきて私の元に来た。

「なんだい、君は」

 なかなか威嚇的だ。


 というか、この采配は如何なものだろう? 


 私を舐めすぎだ。


 あからさまに首を傾げてみせ、金色のスカートを指の先でつまんでみせた。


「同級生に決まっているじゃない。どこを見てるの? おっぱい?」


 男二人は浮ついた顔も、咳払いすらもせずにまだ睨んでくる。

 こんな態度が、色々と私に情報を与えている事が分からないのだろうか? ろくなもんじゃないな、江戸和楽器も。


「もういいですよ。別に、喧嘩を売りに来た分けじゃないですし、火を付けに来たのでもないし、彼女のパパラッチに来た分けでもないです。てゆーか、警戒するなら警察でも呼べばいいのに」


 無論、そんな事ができないのは承知している。

 男二人は顔を見合わせ「どうする?」「とりあえず社長に」などと、この場に来てから対応を練っている。こんな連中が手下だと、社長様も気が滅入るだろうね。


「二度、同じ事は言わせないで。もう、いいから。邪魔」

 睨みつけると、大の男は一歩下がる。


 当然だ。

 私は、死ぬ覚悟で動いているのだ。


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