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※
昨晩の話を思い出していた。夢の中で思い出していた。
私は、夢と現実を区別できる。夢の感覚がある。
ぼんやりとした白い光が真っ暗な部屋に差していて、そこで寝そべっていると声が聞こえてくる。
目を閉じているのに、映像も浮かんでくる。それが、夢の時間だ。
これが夢の時間である事を証拠として集めて論拠を作成する為、毎日起きた瞬間に日記を書いた。今、見た事、聞いた事をノートに書いた。そこで書き連ねたものは、概ね現実世界とリンクしていた。現実の些細な言葉から、その後の夢妄想に展開されている。
つまり、記憶の整理として夢という機能がある。それを、十二歳の頃には証拠を保持した上で知っていた。
ただ、この日の夢は不思議なものだった。
通常、現実で起きていた些細な部位を誇大化するのが夢なのだが、この日の夢は、まるまる昨日の話だった。
神社の境内から長い石階段を下る際、彼女は訊ねてきた。
「なんで、初めの私が違うって、分かったんですか?」
「後半の貴女が出てきたから」
「不思議なんですよ、あの子、勝手に出ちゃって」
「前の人が凄かったから、負けるのが怖かったんじゃない? 本体が」
「あぁ……」
「別にどうでもいい。結果的には、貴女の一人勝ちだし。半分の力でも勝てたって証明……。ま、あのチビっ子が、半分以上の力を出していたかは懐疑的だけど」
「あぁ……。です、よね」
「また、嘘言ったね。いちいち、嘘から入らないといけない人間なの? 貴女」
「嘘……じゃ、ない。ですけど……」
「嘘だよ。貴女が途中で交代しなければならなかったのには意味がある。チビっ子の演奏が五十パーセント程の力だと推察していたから。故に、それより少し前に始めなけば間に合わなかった。チビっ子が百パーセントだったら、貴女も初めからそうしてたんじゃないの?」
「そんな事……ないと思いますけど」
「じゃあなぜ、バンド形式にしたの?」
「それは……誘われたからで」
「違う。あの時、金髪は『何しよっか』と演奏方法を模索していた。自主的にギターを持ったのは、貴女。
その寸前までピアノを見ていたクセに、なぜロックに変更したのか?
メンツが揃ったからが理由ではない。だって、あの金髪が貴女についていけるレベルか否か、判明していないから。でも、賭けてみた。このジャンルなら、勝てると見込んだから」
「すごい、推測の範囲じゃ……」
「さっきの動画、もうアーカイブに上がってて一部始終が見れるから、検証してあげようか? 素っ裸にされるから、恥ずかしいよ? 人に見せれる体じゃないでしょ、貴女」
「うぐっ……」
彼女は私の前を下っていたから顔は見えなかったけど、驚愕の顔を作っていたはずだ。
「な、んで……そういうの、分かっちゃうんですか」
「貴女の十倍論理を想像して、貴女の百倍人を考察してるから」
石段を下り終えるまで、彼女は無言だった。
でも、一段上で、一段背後に居る私には見えてしまった。
その頬が、震えている。
私はそっと背中に手を添えた。
暖かい。
大丈夫。
「私が、貴女の言葉になってあげる。大丈夫」
背後が震え、声を枯らした呻き声が聞こえた。
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