4

 

 昨晩の話を思い出していた。夢の中で思い出していた。


 私は、夢と現実を区別できる。夢の感覚がある。

 ぼんやりとした白い光が真っ暗な部屋に差していて、そこで寝そべっていると声が聞こえてくる。

 目を閉じているのに、映像も浮かんでくる。それが、夢の時間だ。


 これが夢の時間である事を証拠として集めて論拠を作成する為、毎日起きた瞬間に日記を書いた。今、見た事、聞いた事をノートに書いた。そこで書き連ねたものは、概ね現実世界とリンクしていた。現実の些細な言葉から、その後の夢妄想に展開されている。

 

 つまり、記憶の整理として夢という機能がある。それを、十二歳の頃には証拠を保持した上で知っていた。

 

 ただ、この日の夢は不思議なものだった。

 

 通常、現実で起きていた些細な部位を誇大化するのが夢なのだが、この日の夢は、まるまる昨日の話だった。


 神社の境内から長い石階段を下る際、彼女は訊ねてきた。


「なんで、初めの私が違うって、分かったんですか?」

「後半の貴女が出てきたから」

「不思議なんですよ、あの子、勝手に出ちゃって」

「前の人が凄かったから、負けるのが怖かったんじゃない? 本体が」

「あぁ……」


「別にどうでもいい。結果的には、貴女の一人勝ちだし。半分の力でも勝てたって証明……。ま、あのチビっ子が、半分以上の力を出していたかは懐疑的だけど」

「あぁ……。です、よね」


「また、嘘言ったね。いちいち、嘘から入らないといけない人間なの? 貴女」

「嘘……じゃ、ない。ですけど……」

「嘘だよ。貴女が途中で交代しなければならなかったのには意味がある。チビっ子の演奏が五十パーセント程の力だと推察していたから。故に、それより少し前に始めなけば間に合わなかった。チビっ子が百パーセントだったら、貴女も初めからそうしてたんじゃないの?」

「そんな事……ないと思いますけど」


「じゃあなぜ、バンド形式にしたの?」


「それは……誘われたからで」


「違う。あの時、金髪は『何しよっか』と演奏方法を模索していた。自主的にギターを持ったのは、貴女。

 その寸前までピアノを見ていたクセに、なぜロックに変更したのか? 

 メンツが揃ったからが理由ではない。だって、あの金髪が貴女についていけるレベルか否か、判明していないから。でも、賭けてみた。このジャンルなら、勝てると見込んだから」


「すごい、推測の範囲じゃ……」


「さっきの動画、もうアーカイブに上がってて一部始終が見れるから、検証してあげようか? 素っ裸にされるから、恥ずかしいよ? 人に見せれる体じゃないでしょ、貴女」

「うぐっ……」


 彼女は私の前を下っていたから顔は見えなかったけど、驚愕の顔を作っていたはずだ。


「な、んで……そういうの、分かっちゃうんですか」

「貴女の十倍論理を想像して、貴女の百倍人を考察してるから」


 石段を下り終えるまで、彼女は無言だった。

 でも、一段上で、一段背後に居る私には見えてしまった。

 その頬が、震えている。

 私はそっと背中に手を添えた。

 暖かい。

 大丈夫。


「私が、貴女の言葉になってあげる。大丈夫」


 背後が震え、声を枯らした呻き声が聞こえた。

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