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 このモードで、こんな事を言われたのは初めてだったのです。


 誰が言ったのかは、顔を上げる必要も無く理解できました。私の俯けた眼前に、真っ白い足が通り過ぎて行ったのです。


 連れて出たくせに、勝手に帰って行ったのです。


 不快でした。

 不愉快でした。

 ……それよりも、私は恐怖しました。


 55点。


 変な数字です。何を、どう採点されたらそんな数字が出てくるのでしょうか? 

 底知れぬ不安が、私を支配しました。

 その先もオーディションは進行していたのですが、そんなものは目にも入りませんでしたし、それより、何がバレていたのか……。

 

 兎に角、早くここを離れたかったのです。気の触れた女神が、また、気まぐれに私に話しかける前に、そんな事態になったものならば、私は生きては行けないのかもしれないのですから、早くここから去りたかったのです。

 

 オーディションが終わった瞬間に、一目散に部室を抜けました。(とは言え、突如として走り去ると不自然になる分けで、至って平然とした装いで退室したつもりです)


 部室棟を出ると人だかりになっていましたが、それらを振り払い、学校の校門を出ました。でも、そこにも人が大勢いて私に話しかけてくるのです。あの人形を出そうにも、疲れ果てて眠っているのでしょうか、まったく応じる気配がありませんでした。

 タイミングが良くないのでしょう。

 

 私は、近くの路地に逃げ込み、進み、迷走するうちに小高い山を見つけ、そこに逃げ込む事にしたのです。

 

 石の階段を駆け上がり、鳥居を抜け、ボロボロになった神社の境内に座り込みました。

 

 鬱葱とした木々が高く伸び、ロマンティックな夕日を遮り、黒い影だけを朱色の地面に落とすだけの、薄気味悪い神社でした。


 まるで、私の心でも投影しているかのような、黒とオレンジの禍々しいまだら模様の地面。


 私は、私が、何をしたいのかが分かりません。

 今は、あの女神から逃げたかった。逃げたかったのには、理由があるはずなのです。


 でも、その理由を、考えたくなかったのです。

 この世界は、今や、どこからでも、いかなる情報でも日の本に晒されます。

 あの女神が、悪魔だったのならば、私は、今ここで死ぬのかもしれません。

 こんな汚い色合いの世界の中で、死ぬのかもしれない。

 そんなのは、嫌だ。


 こんな場所で、こんな死に方なんかしたくはないのです。


 でも、たぶん……、絶対、あの人は知っているのです。私が、人として生まれてこれなかった事を。


 私なんか、獣と同じです。光に反応して、動く物に反応して、火を見ては遠くに逃げ出し、雷を聞けば怯えて震えるだけの獣です。朝になったら起き、昼になったら食べ、夜になっても食べ、湯に浸かって垢を取り、布団に入って自慰をして、夢想に満足して眠るだけの生体反応でしかないのです。


 人など、結局はそんなものなのでしょうが、私は、なまじ賢いのです。馬鹿みたいに、賢いのです。


 だから、こんな当たり前に、いちいち躓いてしまうのです。

 

 この解決ができる日は、永遠に来ないと確信しています。

 

 でも、世界は広いのです。

 こんな論理も何もあったものではない感覚を、見抜く者もいるのです。

 きっと、私は、あの学校には二度と行けません。たぶん、ここから動く事すらできません。これだけ手入れの成されていない神社です。神はお留守という事で、私がここに居を構えます。


 もう、私は、駄目なのです。

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