コンビニ
コンビニに入った。
徒歩五分のよくある緑色と白の看板のコンビニ。
ATMで適当な額の現金を下ろし、財布にねじ込む。現金が落とされるまでの機械の動く音を聞きながら待つ間に、通帳に記入するか迷い、並んでいる人の気配を感じてやめておいた。
案の定数人が待機列に並んでいる。
会釈しながらドリンクコーナーを通りすぎ、自社ブランドの炭酸を手に取る。本当はミツヤが飲みたいが、少しの節約のために税抜90円の方を選ぶ。約50円がこれで浮いた。
弁当か、カップ麺か、レトルトカレーかで悩む。
買いだめより自炊の方が結果的に安くあがるが、今はお手軽に食べるものが欲しかった。
レトルトカレーにすることにした。これも自社ブランドの中辛を2パックを途中で持ったカゴにいれた。
あとはチョコケーキがあれば最高。濃厚なチョコレート味と重めのブラウニーは一時期滅茶苦茶はまった。
今日はあるだろうか。──あった。最後の二個のひとつを手に取る。こういう贅沢は一度に一個でいい。例えすぐにリピートすることになったとしても。
飲み物、レトルト、チョコケーキ。とりあえずこれでいいと思えるラインナップを持ってレジへ行く。
店員はいつもの気だるそうなお兄さんじゃない、明るそうなお姉さん──初めて見る顔だった。
徒歩圏内だけあって常連である自覚があるので新人さんかなと思いながら、ポイントカードをトレイに置く。
「ご利用ありがとうございます」
今日めっきり聞かなくなったお礼と共にカードがスラッシュされ、両手で返された。
この時点でカードのポイントより好感度が上がる。何気ない丁寧な接客されると、また来ようかなと思える。
受け取って財布にしまっている間に、お姉さんはあっという間にバーコードを読み取ってレジに通してレジ袋に入れた。
「以上で780円です」
「これで」
下ろしたばかりの新札の千円を置いた。
さらば新札。お前のことは忘れない。
「120円のお返しです。ありがとうございました」
手が接触しないように配慮しながら持ちやすいように袋を渡すお姉さん。
笑顔と共に視線が合う。ちょっとキラキラが多いアイシャドウ。その輝きよりお姉さんの笑顔の方がよかった。
会釈をしてレジ袋片手に外に出る。
梅雨入りしたのに降ったり止んだりの気まぐれな空。曇りで少し蒸し暑い徒歩五分の帰り道。
チョコケーキがなくても、またあのコンビニに行くのは確定だ。
あの笑顔はなんというか、和む。
惹かれていると言ってもいい。
今度行ったら、まずはレジ確認だ。お姉さんとは限らなくても、弁当を買おうかと早くも次の買い物を考えている。
運よくお姉さんだったら、弁当を温めてもらおう。手料理じゃないけど、その手で温められたレンチン料理だと思えばもっと美味しいに違いない。
──我ながら気持ち悪い妄想をしてしまった。けれどあの笑顔は、何かと薄暗い思考に囚われる自分を明るい気持ちにしてくれた。
ただそれだけのことが、恋に似た何かを感じる。
これがあるから、まだ生きててもいいのかなと思える。決して自分と彼女を結びつけないものだとしても。
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