世界を滅ぼした災厄は心の中に

 気づくとルカはまた違う世界にいた。既に鋏が入っており世界の半分が切り取られている。もはや驚いたり悲しんだりすることに疲れてしまったルカは、ぼんやりした頭のまま世界を彷徨う。町が倒壊し住民たちの悲鳴や断末魔が聞こえるが、それが心を動かすことはない。


「こいつだ! このウサギ野郎がやったんだ!」

「よくも我々の世界を!」

 屈強な男たちに囲まれるが、ルカは危機感を覚えない。普段どおりの彼であるならばおっかなびっくりで謝りながらその場から飛び逃げているところだが、今は「誰か」に身体の主導権を握られており、操り糸のついたマリオネットさながらである。糸を繰る手に逆らわず大鋏を持って飛べば人間は瞬時に肉塊へと変わる。魔法も火力が弄くられ大幅に増強され、都合の悪い連中をまとめて焼くのに数秒もかからなかった。


 ルカは何の罪もない人間を殺していく。それなのに、罪悪感が麻痺してしまったかのように機能しない。むしろ自分に逆らったのだから殺されて当たり前だろうとぼんやり考えている。その思想は「誰か」のものなのだが、友情が砕け散ってぐしゃぐしゃになった心は乱れ、自分のものであると混同してしまっている。


 意識の混同は悪いことばかりでもない。持っていないスキルがついている事も知った。最初に訪れた世界で怖くなるほど運が良かったのは、自分に付与されているスキル【絶対幸運EX】のおかげだと、誰かに言われたわけでもなく自然と理解できた。しかしいつどこでそんなものを手に入れたのかが、思い出せない。


 ルカは切り取った世界を持ち帰り、袋を天使に向かって投げた。

「早く縫い付けろ」

「ええ、わかっています」

 天使に対して偉そうな態度を取ってしまうが、これが当たり前のことのように思えた。そうだ、俺はあんなことをされたんだから、これくらいしてもらって当然だよな。早くうっとおしい魂を潰して、この体を完全に自分のものにしたい……?


 そこでルカはハッと我に返った。やけに心臓が熱い、うっとおしい魂って自分のこと……? 誰かが自分の中にいると気付き、目を閉じて自身に語りかける。

「お前は……誰なんだ?」

「俺? 俺は、お前だよ」

 返事があったことにルカは驚いて目を開けた。姿こそ見えはしなかったが、確かに自分の中に誰かがいる。今までぼんやりしていた時に悪事を働いていたのはきっとそいつだと、ぎゅっと心臓に圧をかけてみる。自分が痛いだけだった。


「それなら」

ルカは鑑定スキルで自分を鑑定した。宙に画面が開き魂の数が二個あり、自分でない魂は【絶対幸運EX】の他に【錬金術絶対成功】【一撃必中】【詠唱破棄】【千里眼EX】【攻撃特化EX】【魅了EX】【未来予知】【剣聖】を持っている。ステータスは一律9999でカンストしており、出身国は「現代日本」と表示された。そして。


「名前はカルラ……? ランディアの英雄貴族じゃないか! どうして」

「おっとそれ以上は詮索してもらいたくねぇな」

心の内側から声がして、ルカの意識はまた闇に沈んでしまった。

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