友情の喪失

 ルカが目を覚ますと、見知らぬ家にいた。朝日が差し込んで窓辺は明るく、ベッドは白く、隣にはスパークが裸で寝ている。起こさないようにそっとシーツをめくると、その裸体が女のものであることがわかる。てっきり男だと思っていたルカはショックを受け、状況を理解出来ていない。自分も装備の一式を外して、同じベッドに横たわっていたのだから。

(あれ……? どうなってるの? 確かスパークと話をしていて、追いかけられて捕まって、牢獄から逃げて……。それから、どうしたんだっけ)


 ケモノビトはそれ同士で恋愛や繁殖行動をする為、殆どの場合人間に欲情したりしない。むしろ人間と交わることは下賤で卑しいこととされており、間の子を産めば災厄と呼ばれ殺されてしまうことも、ランディアの歴史上少ないことではなかった。


 まさか、そんな、自分に限ってそんなことはありえない。そう思って自分のシーツをめくると、局部が混ざりあった体液でべしょべしょに濡れていた。萎えたモノが、ヒクヒク軽い痙攣を起こして白濁液がベッドに大きく染み付いている。


「う、わ」

 震えた手で抑えても、ルカの口からは悲鳴にもならない声が溢れる。やってしまった、自分はスパークと、異世界の人間と夜通し交わっていた。そう自覚した瞬間、夜に起きた出来事が鮮明に蘇る。軋むベッド、嬌声を上げるスパーク、それに興奮して腰を振り続ける自分。何度も何度も、欲望を吐き出して快楽にふけっていたことを。した覚えがないのに記憶だけが鮮明で、そこに自分の意志があったかどうかすらわからない。


「んん……」

 スパークが目を覚ました。ルカの顔を見るなり頬を赤らめている。

「お、おはよう。昨日は、その、すごかったね……」

 もじもじしている様子を、愛らしいとはもう思えなかった。異世界で初めて出来た友情は一夜にして失われてしまった。


「あ、あの、その……ごめん!」

 頭の中がぐしゃぐしゃになったルカは、いてもたってもいられず家を飛び出した。無我夢中で飛び跳ねて、見たような景色にようやっと正気を取り戻して振り返ると、先程まで寝ていた家は前に切り取ってきた森の中、小川のほとりに建っていた。空間に継ぎ目があることから、天使が縫い付けたものであるとわかる。


「ボクは……なんで、こんな……うえっ」

 ルカは、意識のない間に大鋏で機械の世界からスパークを切り取ってきていたと知ってしまった。異世界を切り取って人まで連れてきて、あまつさえ肉体関係を持ってしまったなど、到底受け入れられない。胃の中のものを全部吐いて、涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになっても、変わることのない現実がそこにある。いっそのこと死んでしまおうかと大鋏を手元に召喚しようとしたが、かざした手は空虚を横切るだけだった。


「どうして……来ないんだよ……」

 感情が乱れたまま泣き続け、気持ち悪くなる度に吐き、ルカはどうにかなってしまいそうだった。魔法で自殺を図ったが何故か攻撃系のものを使うことが出来なくなっており、自分の体を癒やすだけに終わった。

「うう……うぅぅ……」

 絶望と自己嫌悪に呑まれ、心はどす黒く染まっていく。その様子を天使は遠くからただただ笑って見守っていた。

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