似たような景色ばかり広がる異世界
扉を開けたルカを待っていたのは、またもやランディアに似た世界だった。大自然が広がり、人もケモノも魔族も存在し、言葉は違えど同じような文化が形成され、魔法と剣が息づいている。
(異世界って、もっと何もかもが違うものだと思っていたけれど、どこも似たような景色だな……)
ルカはホッとしたような、残念なような気持ちになって、何を考えているんだと自分の頬を叩いた。誰かの大切な世界を切り取ってしまった罪悪感で押しつぶされそうなのに、心のどこかでは世界を旅することを楽しんでいる。
「ボク、どうしちゃったんだろう……」
ふわふわの耳を垂れてとぼとぼ歩いていると、海辺に出た。ルカは山に住んでいたので、青々と地平線まで広がる海を景色を知らないでいた。
「わあ……!」
さざ波が寄せては返し、磯の香りが漂い、白い砂浜に太陽が照り返す光景に、ルカは心が躍る。世界を救う旅の途中で見たかったものが、今目の前に広がっているのだから。砂を蹴り、海水に触れ、少しだけ舌を伸ばし舐めてみる。
「うわっ! 辛い!」
話には聞いていたが、本当に塩辛いことに驚く。こんなに冷たくて気持ちいいのに飲めないなんてもったいないなと思いながら、砂浜を歩き波と遊ぶ。
「……?」
辺りには自分だけで人気がないのに、風に乗って誰かの声が聞こえてきた。声のする方へはねていくと、岩場に人魚が乗り上げてキツネのような生き物と一緒に歌っている。
(人魚だ……! 異世界にはいるんだ!)
ランディアではその存在は伝説でしかない(魚系のケモノビトは存在しない)人魚が生きて目の前にいることに、まるで幻を見ているかのような気持ちになった。
(なんて美しい歌なんだろう。あれが欲しい……)
ルカは無意識に鋏に手をかけていた。頭の中でぼんやりと、海と人魚が空白の世界に繋がれた様を思い描いて。
大鋏を開いた瞬間、赤いスーツに身を包んだ男が目の前に現れた。
「どーもルカクン。君になんの恨みもないっすけど、この世界から出ていってもらうっす」
「だ、誰!? なんでボクの名前を知っているの?」
声をかけられてふと我に返ったルカは無意識に構えていた大鋏を収め、飛び跳ねて間合いをとる。ルカの半分は母親譲りのウサギケモノビトであるから、一飛びで近距離魔法の攻撃範囲から脱出出来る。
「悪いけど話している暇はないっす。ここをお前に切り取られるわけにはいかないんすよ!
ルカが状況を飲み込む前に、男が発動した魔法によって吹き飛ばされ、背後に出現していた大扉から空白の世界に戻されてしまった。
「いたたた……あれ? 戻ってきてる」
「おや、どうなさいました?」
戻ってきたルカに天使が声をかけてきた。切り取らず戻ってきたことにいささか不機嫌そうな表情が伺える。ルカが赤い服の男に魔法で戻されてしまった事を伝えると、表情がこわばった。
(あの男はボクのことをルカクンって呼んでいたのに、魔法を使う時はお前と呼んだ。そしてその目は顔を見ていなかった。どっちかというと身体、それも心臓を見ていたような……?)
ルカはたった数秒間の出来事に違和感を覚え、心臓のあるところを擦る。ふわもこの身体は、触っても押しても痛むことはない。
「赤い服の男……ですか。厄介な相手に見つかってしまいましたね。ですが安心してください、貴方の優位は揺るぎませんから。さあ、別の世界へ参りましょう」
天使は笑顔で別の大扉を用意して言ったが、後ろを振り向いた時に舌打ちした音を、ルカは聞き逃さなかった。
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