夜。


いつもとは、違う街の景色。

人がいない。ネオンが少ない。


「なにこれ」


『自粛期間だってさ』


「自粛。なんで?」


『なんか、よくわかんねぇのが巷で流行ってるらしいぜ』


「この街では」


『流行ってない。おれの調べたかぎりでは、入ってきてもいない』


「じゃあなんで」


『偉いほうが画面に出て自粛してくれってさ。言ったんだと』


「それだけで」


『信じ込みやすく、人に対してやさしい』


それが、この街の人間。


『今日ここにいるのは、たぶんおれとお前だけだ。ゆっくり歩こうじゃねぇか』


「あんた画面越しでしょ」


『そう言われると思ってな』


目の前。


赤いスカート。赤いドレス。そして、なぜか青いリュック。


『来たぜ』


「寒くないの」


『まだ寒くない。でも』


リュックを手繰りはじめる。


『大丈夫。上着あるから』


「スウェットじゃん」


『いいんだって。誰が見るわけでもなし』


「あ」


雪。


『やっべ。もうスウェット着ないと』


誰もいない街。いつもと違う景色。


赤いスカートに、スウェット。

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