第18話 台所で淫れる
(遊子視点)
「ただいまー」
と言っても、お母さんはお仕事なんだけどねっ。
今日はハルキに付き合ってプロテインを買ってきた。
私たち淫魔は、食事を摂ろうと思えば採れるが必須ではない。
男から十分に精気を吸えていればそれで足りるし、その上さらに食事を摂るとなると、確実に太ってしまうだろう。
だから私たち淫魔の食事は、本当に嗜む程度なのだ。
今日買ってきたプロテインは、万が一、精気が不足してしまった時の非常食にしようと思っている。
「それよりも……♡」
スーパーで買ってきたコンニャクとキュウリの方が重要だ。
この間、ハルキがコンニャクの夢でエッチな気分になったというので、その件に関して、スマホで色々と調べたのだ。
「まずはコンニャクに穴を開けて……」
果物ナイフでスッとよこから切れ目を入れる。
「そして、そこにキュウリを……」
ズブズブズブ――。
「んまぁ!♡」
なんという卑猥な結合!
どおりでハルキがもよおしてしまうわけだ。
もう完全に、男と女のアレである。
コンニャクって食べ物なんだよ!?
そこからこんな発想に持っていくなんて……。
「男の子って、本当にエッチィ……♡」
――グポッ、グポッ♡
「うへへ……♡」
私は台所で1人、しばし食べ物で楽しんだ。
* * *
(春木視点)
家に帰えるとすぐに、風呂場でシャワーを浴びる。
いつもの習慣だ。
そして……。
「さっそくさっそく……」
俺は部屋で1人、プロテインの袋を開ける。
「うおっ、なんか美味そうな匂いがする」
想像以上に甘ったるいフレーバーが、部屋いっぱいに広がる。
それをプロテインシェイカーに1匙入れて台所に下りる。
水を入れてシャカシャカ――。
「で、できた……」
粉ミルクのような液体が出来上がる。
人生初プロテインだ。ドキドキしながら一口飲む。
「うおっ! 甘っ!」
炭水化物は殆ど入っていないのに、お菓子のように甘い。
これは、おやつ代わりにいけてしまいそうだ。
でもけっこうお高いものなので、やはり大事に使いたい所。
俺は1日の使用量を、付属の計量スプーン3匙までにすると決めた。
「もったいないな……」
飲みきった後も、シェーカーの中に残った分がもったいなくて、水でゆすいで飲んでしまう。
貧乏性だ。
その後さらに、買ってきた低脂肪乳もグビッといっておく。
あとは普通に夕飯を食えば、本日のタンパク質はばっちりなんじゃないかね?
120グラム? そんなのはただの目安だ。
「むんっ!」
俺はボディビルダーのようなポーズを決め、筋肉の張りを確かめる。
なんだか、プロテイン飲んだだけで強くなった気がするんだ。
まだ筋トレ始めて3日目だし、効果なんて出ているはずがないのだが、ついついその気になってしまう。
「ふんっ! ぬうううん!」
家に誰もいないのを良いことに、調子に乗ってポージングを決めていく俺。
「コホオオオオオ……」
さらに、ゆらりと腕をまわしつつ、独特の呼吸とともに気を練り上げる。
「はいいいい……!」
ホアタァー!
最後は鋭い気合とともに左拳を突き出し、すっかり世紀末覇者の如きムキムキマッチョになりきった!
テンションあがる!
――カシャ!
「ぬわっ!?」
だがその時、台所の入口の方からシャッター音が響いてきたのだ。
「ゆ、遊子!?」
「えへへ、みーちゃった!」
何と、いつの間にか遊子が侵入してきていた!
「ま、まさか今の……!」
「うんっ! 台所で怪しげなダンスを踊っているところ、ばっちし撮ったよ!」
「ぬわー!?」
やられた! またもや弱みを握られたー!
というか恥ずかしい!
ある意味、テントを撮られるよりも恥ずかしぃ!
「ど、どうするつもりだ……!」
まさか、ここでスクワットやれとか言わないよな。
まだバリバリ筋肉痛なんですけど!?
「んふふー。ハルキにはー、バツとしてこれを食べてもらいます」
「えっ……!?」
言われて見てみれば、遊子はもう片方の手に小鉢を持っていた。
「なーんてね、作ってみたんだ。食べてみて」
「おおっ!?」
なんとそれは、コンニャクとキュウリの酢の物だったのだ!
「い、いいのか!?」
幼馴染の手料理なんて、俺、生きている間に食えるとは思わなかったよ。
「うんっ、言っとくけど、味は保障しないからね?」
「そ、そんなことないって、何か美味そうじゃん!」
コンニャクは細く切って湯通ししてある。
キュウリも丁寧に細切りにされている。
小料理屋の一品にありそうなクオリティーだぞ?
「いま食べていいか?」
「えっ、別にいいけど……」
「うんっ! じゃあいただきまーす」
俺はさっそく箸を取ると、一口パクっと頂いた。
「おおっ、美味いじゃん!」
甘さ加減も塩加減も、酢の効かせ具合もばっちりだ。
キュウリのアクも、コンニャクの生臭みも、上手に抜けている。
一体、どんなテクを使ったんだ!
なんと遊子は、お料理できる系の幼馴染だった!
「そ、そう?」
「すげー美味いよ! 運動したから、酸っぱいものがすごく美味しく感じる!」
「う、ううん……そんな褒められると照れるんだけど……」
と言ってポリポリと頬を掻き、珍しく恥じらいの表情を浮かべる遊子。
なんか俺いま……普通に幸せです。
「ありがとな! 遊子!」
「よ、良かったら、お代わりもってこようかっ? まだ沢山あるし……」
「マジで!? でも、遊子のお母さんの分くらいは残しておけよなっ」
「そ、そこまで気を使わなくてもいいって……!」
と言って、やはり照れくさそうに台所を出る遊子。
あんな一面もあったんだな……。
遊子がお代わりを取りに行っている間に、俺は果物のミックス缶を開けて、フルーツヨーグルトを作った。
そしてお返しとばかりに、遊子におすそ分けをした。
「でもなんで、キュウリとコンニャクなんだ?」
「えっ……!♡」
酢の物を作る研究だったのだろうか?
「そ、それを私に言わせるの? ハルキのエッチ!♡ そっちがネタ振りしたんじゃなーい!」
――バシバシ!
「いででっ!?」
何故か背中を叩かれてしまった。
俺がネタ振り?
はて、まったく身に覚えが無いのだが……。
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