第16話 スーパーでも淫れるだと?


「きちゃったね……ハルキ♡」


「ああ、買い物にな……」


 ラブホにでも来たみたいに言うな!


 俺の幼馴染は、何故こうもいちいち色っぽいのか……。


 やってきたのは、近所のスーパー『モモヤ』である。


 ド派手なピンクのネオン看板が目印だ。


「よし、じゃあ何か、安くてタンパク質が豊富なものを買うぞ!」


 買い物かごを手に店に入る。


 実は俺、夜は大抵自炊なのだ。


 冷蔵庫に作り置きがあれば、それで済ませたりもするけど。


 両親が共働きで、いつも帰りが遅いからそうなっている。


 遊子の場合は言わずもがなだ。


 家に帰る頃には、お母さんは仕事に行ってしまっているから、自分で何か用意して食べなければならない。


「あ、キャベツが安い……買っておこ」


 そういうことで、小遣いは多目に貰っているし、スーパーで買い物をするのも慣れっこだったりする。


「ハルキ、タンパク質タンパク質ー♡」


「お、おう……そうだった」


 遊子にせかされて、牛乳などが置いてあるコーナーに向かう。


 タンパク質と言えば乳製品だ。


 プロテインの原料でもあるのだからな。


 1リットルパックを手にとり、いつもはあまり気にしない成分表示のところを見てみる。


「えっ……! 100mlあたり3gしかないのか!」


 タンパク質120gを摂ろうとしたら、4リットルも飲まねばならん。


 これは大変だ……!


「そんなに飲んだら、太るしお腹ギュルギュルにならない?」


「だ、だな……低脂肪にしとこう……」


 味が薄いから好きじゃないんだけど、こっちのほうが安いし大量に飲める。


 毎日、プロテインとともに飲むとしよう。


「遊子は買わないのか?」


「うんっ、わたしは大丈夫!」


「そうか……」


 まあ、牛乳は飲む人とと飲まない人がいるからな。


 さらに俺はヨーグルトも手にとる。


 成分表示をみてみるが、タンパク質の量は牛乳と大差ないようだ。


 牛乳を発酵させたものだもな、当然だ。


「買っておくか……」


 これはいつもの買い物だ。


 俺はブルガリアンヨーグルトを1パック、買い物かごに入れた。


 次に向かったのはお豆腐の置いてあるコーナーだ。


 やはり和製プロテインの代表格は外せないだろう。


「……むむむっ!」


 だが、俺はその成分表示を見て驚いた。


 なんと100gあたり8gしかタンパク質が入っていない。


 1パック300gとして、5パック以上も食べなければならないのか!


「これは大変だ……!」


 俺は1日120gのタンパク質を摂取することが、いかに難しいことか、身に沁みて理解した。


 ひとまず一番安いのを2パック、買い物かごに入れる。


「こ、これは……!」


「ん?」


 気づけば遊子が、コンニャクの袋を手にとってジーっと見つめていた。


 何をそんなに興味深げに……。


「コンニャクがどうかしたのか?」


「う、ううん! なんでもないよ!」


「??」


 そして、自分の買い物かごにそっと入れる。


 変なやつだな、コンニャクくらい普通に買えばよいのに。


「でもそれ、究極のローカロリー食品だぞ?」


 タンパク質どころか、カロリー自体がないんじゃないかな。


「う、うーんとね……これは研究用」


「そうなのか……」


 煮物の研究でもするのかな?


 そういや遊子のお母さんは、着物姿も綺麗な人だ。


 俺は割烹着を着て台所に立つ遊子を想像して、意外とありかもと思ったりする。


「というかお前、普段は何を食べているんだ?」


 そう言えば、遊子の家にお邪魔して、お菓子以外のものを食ったことがなかった。


「ちゃんと、体に良いもの食べているのか?」


 とまあ、つい余計なお世話で聞いてしまうが。


「もちろんよ! 毎日『搾りたて♡』を頂いているもの!」


「な、なに……!?」


 しぼりたて……だと?


「す、すげーなお前、搾りたてのジュースを毎日飲んでいるのか?」


 生の果物って、結構高いんだぞ!


 すげーな、やっぱり遊子の家はセレブだ。


「そ、そうだよ? だからいつも、肌がツヤツヤなんだから……」


「そうなのか……いいなぁ」


 幼馴染の食生活が思いのほか良好で、俺は何故だが逆に悔しくなってくる。


 だが、やはりコンニャクの煮物と新鮮ジュースだけでは、タンパク質が不足しないだろうか?


「タンパク質はどうしているんだ?」


 そこで俺は、さらに余計なお世話で追求する。


 半分は粗探しみたいなノリだが。


「え? もちろんタンパク質も入っているよ?」


「そ、そうなのか!?」


 ガーン! 幼馴染の食生活に死角なし……だと。


 も、もしかしてあれか?


 『スムージー』とやらを作って飲んでいるのか!?


 俺、テレビとかでしか見たことねえけど、モデルさんや芸能人なんかもよく飲んでいると聞く。


 そしてすごく、体に良いものだと聞く!


「ま、負けた……!」


「どゆこと!?」


 俺は、もっと食生活には気を使わねばと肝に銘じた。


 筋肉と健康はタダでは手に入らないのだ。


「ちなみに私、淫魔なんだけど……しぼりたてっていうのはつまりハルキの……」


「よーし! 俺も頑張って自炊するぞー!」


「聞いてなーいっ!?」


 ええい遊子! 今は買い物に集中させろ!


 そして俺たちは、続いてお肉とお魚のコーナーに向かう。


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