第13話 2人の背筋が淫れる

――カシャン、カシャン!


「はっ……! ふっ……!」


「おっ、おおっー!?」


 す、すごい……!


 遊子の『いかにも肉!』って感触が、ダイレクトに伝わってくる!


(は、はぁ……! ヤベえ……!)


 筋肉がビクビクッ、肩甲骨がコリコリッ。


 遊子という存在そのものが、俺の手の平から侵入してくるみたいだ……!


「ハルキくん! 声をかけてあげるんだ! そうすると『もっと♡』テンションがあがるよ!?」


「はっ、はい! でもなんて?」


「いいよいいよーとか、キマってるよーとか、とにかく褒めちぎるんだ!」


「はっ、はい! い、いいぞ、遊子! キマってるぞっ!?」


「はぁ……!♡ んふぅ……!♡ ほんと? 遊子の背中、そんなにいい?♡」


「あ、ああ! 最高だ! 何だかすごく、最高だ!♡」


「ああんっ♡」


 い、いかん……。


 ナオミさんや遊子のイントネーションに乗せられて、俺までツヤのある声になってしまう!


 ここは気を取り直して、真面目にいくんだ!


――カシャン、カシャン!


「い、いいぞ! 背中の筋肉、張ってきているぞ!?」


「う、うん! 頑張る!♡ あっ♡ でもキツくなってきた……!」


――カシャン……カシャン!


 一番軽いウェイトとは言え、何度もやればキツくなってくるだろう。


 だんだんリズムが悪くなってきた。


 俺は、背中に触れた手に力を込め、さらに気合を入れて励ましてやる。


「頑張れ! ここからいいところだ! まだまだお前の筋肉は元気だぞ!?」


「あんっ♡ そんな! 『いいところ♡』だなんて……! ハルキのエッチ!」 


「ば、バカ! 真面目にやれって!」


「だ、だって♡ ハルキの手つきがイヤらしいから……!♡」


「そ、そんなことないぞ! ほら! お前がもっと頑張れるよう、力を注入してやる!」


 と言って、筋肉をギュッと掴む感じでさらに力を込める。


「あ、ああんっ♡ 入ってくりゅ!♡ ハルキの力が入ってくりゅううー♡」


「が、頑張れ! 後もう一息だ!」


「う、うにゅううー!♡ もうひとイキぃいいいい!♡」


――カッシャン!


 そして遊子は、最後まで筋肉を追い込みきった!


「ナイスファイトだ遊子ちゃん! ハルキ君も、なかなか良い『しばきっぷり♡』だったよ!」


「は、はい……! はぁはぁ……」


 なんかすでに疲れているんだが……。


 手の平から体力を吸い取られたような実感がある。


「さあ今度はハルキだよ! 頑張ってね!」


「お、おう……!」


 そして俺は、遊子と入れ替わりでラットプルに座る。



 * * *



 それから俺と遊子は、背中に手を添え合いながら、互いに2セットづつ背中を追い込んだ。


 背筋の疲労というのは不思議だ。


 腕や足ほどには露骨にこないが、背骨の周りがボーッとしてきて、腫れて厚ぼったいような感覚になってくる。


 まるで、リュックでも背負っているみたいだ……。


 そして遊子の3セット目が終わり、俺の最終セットとなる。


――カッシャン! カッシャン!


「すうー、はっ! すうー、はっ! うあ、きっつ!」


 背中と腕に疲労がたまり、バーが思うように下がらなくなる。


 そしてつい、変な部位に力が入ってしまう。


「体が前傾しているよ! 腹筋で引いちゃってる!」


「は、はいぃ!」


 背中に集中なければ……。


 だが、わかっていても体が逃げようとしてしまう!


「よしっ、遊子ちゃん! ハルキ君の胸を支えてあげるんだ!」


「はーい!」


 そこで、俺の体が前傾しないよう、遊子が手で補助を入れるが……。


――クリクリッ!


「あっ♡ はぁん!」


 何と遊子は、俺の『B地区』に指を当ててきたのだ!


「ちょ……! どこ触ってる!」


「えっ? なになに? 私なにか変なことしているっ?」


 あ、アホー! この大変な時に何をー!?


「お、おまっ! わざとやっているだろ!」


「えー? 全然わかんない! ここを触ったら何がマズいの? ねえ? プークスクス♡」


「こ、こらああー!」


 やっぱりわざとじゃないかー!


「えへへへー、前かがみになったら、『うっチクビ拷問』の刑だからねっ?」


「な、なにぃ!?」


 なんてひどいことを!?


 そんなことをされたら、ますます前かがみになるわいっ!


「く、くそうっ!」


 だがやるしかない! やるしかないぜ!


「ふううっ!? くは! ぬうう……!?」


――カッシャン! カ……シャン!


 リズムも呼吸も淫れているが、とにかく必死になってバーを下げる。


 前かがみにならないように……背筋を意識して……意識してぇ!


「うおおおおー!」


「頑張れハルキ! 鬼の背中を目指すんだー!」


 それは流石に!?


 だが、広くて逞しい男の背中には憧れるぅ!


「くっそおおお!」


 肩甲骨のまわりがボーッとして、まるで麻酔を打たれたみたいに言うことをきかない!


 どうしたらいい! どうしたらもっと絞り出せるんだ!


――ガッション!


――ぽよんっ。


「あっ!♡」


「えっ?」


 その時、勢い余って後ろに反ってしまった。


 遊子の胸に、背中が少しあたってしまった……。


「す、すまんっ!」


 俺はすぐに謝るが……。


「う、ううん……はぁはぁ♡ 別にいいよ……」


「そ、そうか……?」


 また『エッチ!』とか怒られると思ったのだが……。


 まあ事故みたいなもんだし、良かったのかな?


「ねえ……ハルキきつい?」


「あ、ああ……! 背中が……! 言うことを……! 聞かない……ふぬっ!」


――カッシャン!


「じゃ、じゃあ……もっと頑張れるように、こうしてあげる……♡」


「えっ?」


 一体何をする気だ?


 遊子の両手は、俺が前傾しないよう胸のあたりに添えられたまま。


 そこから少ししゃがみこんで――。


――ぽよよんっ♡


「うほぉ!?」


 何と遊子は、俺の背中の意識すべき部位に、自らの『胸』をあててきた!


「お、おまえっ!?」


「さあ頑張って!♡ 遊子のために頑張って!♡」


「ふ、ふおおおお!?」


「これだけしてあげてるんだから、頑張ってええええー!♡」


 こ……これは流石にヘタレられねえ!


 そして完全に、俺の全意識が背筋に集中したあああー!


「すっ……!」


 俺は深く息を吸い込むとともに、無心でバーを引いた。


――カシャン!


 なんだ、まだまだやれるじゃないか俺の筋肉!


 このまま、行けるとこまでイッてやるぜー!


「はぁああああ……すっ!」


「はわっ! きた……!」


 そこから、怒涛の背筋ラッシュが始まる――!


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