第8話 スクワットでさらに淫れる


「いーち……にーい」


「……ふぬっ! ふおおおっ!」


「さーん……しー」


「はぐうううっ!?」


 ぬああっ! やってみると結構キツい!


 すでに足にきてるし、10回連続は厳しいんじゃないか!?


「わあー! すっごーい♡」


 背負われているだけの遊子は楽しそうだけどな……!


「ごーお……ろーく……ほらほらー! ちゃんと腰を落とすー!」


「は、はい……! うおおおー!」


 ついつい体が楽をしようとする。


 ナオミさんに喝を入れられ、改めてしっかりと腰を落とす。


 背中に遊子が乗っかっている分、その重みでさらに深くしゃがみ込めるのだ。


「は……うっ!?」


 い、いかん! 急に脚に力が入らなくなった!


 このままでは崩れ落ちる!?


「気合い入れろハルキー! せっかく私が乗っかってあげてるのにー!」


「ぐぬぬぬぬ!?」


 何とか力を振り絞って持ち上げる。


 不覚にも、遊子に喝を入れられたことで力がみなぎってしまった。


 何故だろう?


 俺は、今のこの状況を『ご褒美』だとでも認識しているのだろうか……。


「ほらほら休まなーい! あと3かーい!」


「おふうううっ!?」


 ナオミさんに言われて絶望する。


 あと3回!? なんて遠い数字だ……。


 次しゃがんだら、絶対にそのまま崩れ落ちてしまう!


「ちょ、まって……もう!」


 俺は思わず音を上げようとするが……。


「……だーめ♡」


「ふがっ?」


 耳元で遊子が、怪しく囁きかけてきた!


「……テントの写真、バラまいちゃうよっ?」


「ゆ、遊子……てめっ!?」


 ここでそのネタを!


 そこまでして俺をムキムキにしたいのか!?


「くっそ……!」


 だが、致命的な弱みを握らている俺に抗う術はなかった。


 こうなったら、本当に崩れ落ちるまでやるしかない……!


「うおおおおー!」


 俺はさらに深く腰を落とし、壁を手でかきむしる程の力を込めて立ち上がった!


「ひゃあっ♡」


 何故か背中の上で喜んでいる遊子を無視して、俺は決意が鈍らぬうちにと、もう一発ぶちかます!


「ぐぬおおおおおおー!?」


「しゅ、しゅごい……! こんなの初めて♡」


「はぁ……! はぁ……!」


 俺だって、こんなに力を絞り出すのは初めてだよ!


「らす……とぉおおおー!」


 これで10回目のケツ下げだ!


 もってくれ! 俺の下半身!


「ぬぐううううぅ!?」


 あっ……! あかん! ダメだ全然力が入らない!


 ただプルプルするだけで、まったく体が持ち上がらない!


「が、頑張れハルキ! もっと……もっとちょうだい!♡」


「えっ!?」


 何がだよ!? 


「ぎゅぅー!」


「!?」


 だが、俺が疑問の言葉を口にするよりも早く、遊子は両手両足に力を込めて、さらにギュっと俺にしがみついてきたのだ。


 まるで、俺に力を分け与えようとするかのように……。 


「ふ……ふおおお!?」


 その瞬間――俺の中で眠っていた『何か』が目覚めた。


 遊子は、ただ俺を苛めているわけではない。


 何かを期待している――期待されている!


 そう感じた瞬間に、ならば応えなければという思いが弾けたのだ!


「んがあああああああー!」


「き……きたっ!?」


 俺は全身のエネルギーをかき集めて、下半身に込めた。


 骨の髄から絞り出すようにして、幼馴染を背負って立ち上がる!


 全身全霊!


「ぬおおおおおおー!」


「ふわあああー!♡」


 そして俺は上げきった。


 絶望的と思われていた残り3回を、消化しきったのだ!


「ナイスファイトだ! ハルキくん! よく絞り出した!」


「はぁ! はぁ! ありがとう……! ございま……! ぜえぜえ!」


 心臓がバクバク言って、口から飛び出しそうだ。


 でもこれで少しは、ナオミさんも見直してくれたかな?


 やはりモッコリの代償は、全力のトレーニングで払うしかないようだ……。


「はぁ……はぁ……♡」


「お、おい遊子……降りてくれよ」


 だが、遊子がなかなか降りようとしない。


 もう足がプルプルで、立っているのもツラいのだが……。


「や……やだぁ……もうちょっと♡」


「えっ!?」


 なんでだよ! 俺はちゃんと10回やりきったのに!?


「しょ……しょうじょう……いじょう……うへへ♡」


 そんなに『上下動』が楽しかったのか!?


 俺は遊園地のマシーンかよ!


 余韻まで楽しんでいるじゃねー!


「うんうん……よかったねぇ……ユーコちゃん」


「うん♡ うへへ……じゅるり♡」


 何故か自らの体を抱えてブルリと震えるナオミさん。


 冷えたのかな?


 そして遊子……! お前はヨダレを垂らすな!


「うーん……やっぱりあたし、もう少し鍛えてくるわ! ハルキ君の頑張りを見ていたら、なんかみなぎってきちゃって!♡」


「えっ……!?」


「食ってくりゅうううー♡」


「ええ……?」


 と言ってナオミさんは、体育会系な男達が犇めくジムへと戻っていってしまった。


 食ってくる?


 そうか、ナオミさんほどにもなると、トレーニングも食いものになるのか……。


 取り残される俺と遊子。


 未だに幼馴染は、俺の背中から降りようとしない。


「おい、遊子……いい加減に」


「はぁはぁ……うん……じゅる」


 俺が腰を下ろすと、ようやく遊子は背中から降りてくれた。


「あー、きつかった……」


「ああ……美味しかった……」


 うん? 楽しかったの言い間違えか?


 その場に座り込むと、遊子はコトリと、俺の肩に頭を乗せてきた。


 な、なんだよ……ベタベタと。


「やるじゃん、ハルキ……すごかったよ♡」


「お、おう……」


 いつも以上に色っぽい表情でこちらを見上げてくるので、俺は目のやり場に困ってしまう。


 そんなに俺の『上下動』が楽しかったのだろうか……。


「う、ううん……」


「はぁはぁ……♡」


 俺の肩でいつまでも呼吸を荒げていた遊子は、やがて口を開く。


「ねえ……少し休んでからでいいからさ……」


「え?」


 そして、とんでもないことを言ってきた!


「もう1回……しよ?♡」


「!?」


 弱みを握られている俺に、拒否権などなかった……。


 このあと滅茶苦茶……スクワットした!


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