第7話 スクワットで淫れる


「よーしハルキ、今日も頑張ろーって……うわぁ!」


「げええっ!?」



――オナシャアアアアッス!


――シャアアアアッス!


――チイイィィィッス!



 俺と遊子がトレーニング用の服に着替え、ジムに入ろうとしたその時だった。


 玄関の方から突然、汗だくの集団が乗り込んできたのだ。


「な、なんだ……?」


「はわわ……!?」


 俺と遊子は目を丸くする。


 受付の前があっという間にいっぱいになり、マミさんがその対応に追われる。


「学生証は持ってるー? 免許証でも良いですよー? 登録用紙に名前と住所を記入してくださいねー」


 どうやら、近所の大学の人のようだ。


 ここまで運動着のまま走ってきたんだな……。


  

――ウラー! デヤー!


――ガッシャンゴッシャン!



 ウォーミングアップはすでに十分なわけで、みんな一斉にマシンやらフリーウェイトやらを使ってトレーニングを始める。


 空いている設備はまったくなく、なんなら行列まで出来ていた。


「マミ姉さん、これは……」


「あらあら、ユーコちゃん、ハルキくん。ごめんねー、いま大学のグラウンドで工事をしているんですってー。おかげで入れ喰い♡……じゃなかった、ジムがいっぱいになっちゃったのー」


「あらら……」


 それで体育系部活の人が、大挙してやってきたというわけか。


 こっちとしては迷惑な話だが、ここは等しく市民に開放されているジム……運が悪かったと思うしかないな。


「あーだめだこりゃ、今日はこれで切り上げるわー」


「ごめんねナオミさーん」


「ううん、あたしのメニューは大体終わったから……って、おや? あんた達」


 ナオミさんがタオルで汗を拭きつつやってくる。


「こんにちわ! ナオミさん!」


「こ、こんにちわ……」


 昨日のこともあって、思わず目をそらしてしまう俺。


 今日も今日とて、ナオミさんはセクシー極まりない姿だ。


「残念だねー、今日はまともなトレーニングにはならないよ?」


「ですよねー、せっかく来たのに……」


 まあ……俺としてはこのまま早上がりでも良いんだけど。


「じゃあ、外でスクワットでもやろっか!」


「えっ! 外でやるんですか?」


「うんうん、何もジムでやるだけがトレーニングじゃないからね! 私で良ければ指導するよー?」


「わーい、やったー!」


「あわわ……」


 なんと、ナオミさんの指導の下でスクワットをやることになってしまった。


 俺は、昨日の帰りに見た地獄のバーベルスクワットを思い出し、軽くブルってしまう。


「ごめんね二人とも、今日の料金は返すわ」


 マミさんから利用料の150円を返してもらう。


 そして俺たちは、そのまま外へと向かうが……。


「じゃあマミさん、ごゆっくりね! うふふ……♡」


「はぁーい♡ うふふふふ……若いオスがいっぱい♡ うふふふふふふふ……♡」


 去り際に見たマミさんの笑顔が、何とも言えずに悪魔めいていたのだ……。



 * * *



 俺たちは、玄関を出てすぐの広場に来た。


 壁の近くで、ジム内の様子も見える場所だ。


「1……2……3……」


 そこで2人してスクワットをする。


 正しいフォームなんて今まで意識したことがなかったけど、改めて教わってみると、なかなかに奥の深いものだな。


「膝を前に出さなーい、背中を曲げなーい」


「はーい!」


「は、はい……! 6……7……8」


 こう……お尻をかかとの方に落としていくイメージだ。


 2セット、3セットと繰り返すうちに、だんだん太ももの裏側や、ケツの筋肉が痛くなってくる。


 正しいフォームでやると、太ももの前だけじゃなく、下半身全体に効き目があるのだ。


「ああーもうー、あたし足パンパーン!」


「いいねー、ノーマルスクワットだけで足が張るなんて、羨ましい限りだー」


 やっぱりそういうもんなのか。


 鍛えれば鍛えるほど、キツくなるんだろうな……。


「おや? ハルキ君はまだまだ『イケそう♡』だねー?」


「えっ!? いや……そんなことは!」


 げげ!? ここで物足りないなんて言ったら、さらにスゴいトレーニングを課せられそうだ!


「またまたー、顔に書いてあるぞ? まだまだ全然『ものたりない♡』って」


「そうなのハルキ? すごいなー、やっぱり『男の子♡』だねっ!」


 いやいやまてまて!


 あからさまに露骨なイントネーションで、人をおだてようとしないでくれ!



――デヤアアアア!


――グワアアアア!


――あらー、みんな素敵ー♡ 格好いいー♡



 ジムの中からは、やる気みなぎる男たちの雄叫びが響いてくる。


 明らかにマミさんの存在に煽られているな……。


「いやまあ……また明日もあることですし……」


 と言って俺は、やんわり回避しようとするが……。


「道具なんてなくても、工夫次第でいくらでも『激しく♡』出来るんだよ! そうだな……例えばハルキ君、ユーコちゃんを背負ってやってみるとかどうだいっ?」


「えっ! 遊子を?」


 人を背負ってスクワットをするのか!


 確かにそいつは効きそうだが……。


「えっ! なにそれ美味し……じゃなくて、楽しそう!」


「お、おい……!?」


 なんでそんなに目を輝かせている!?


 俺もお前も、もう子供じゃないんだ。


 そんな、体と体が密着するようなこと……イケないだろ!?


「ねえねえやろうよハルキ! 私を背負ってスクワットしてよ!?」


「えっ、いや……でも」


「なんか楽しそうじゃん! ねーねーやろうよー!」


「う、うう……!?」


 遊子が目の前でピョンピョン跳ねる度に、スポブラに包まれた胸がぽよんぽよんと弾む。


 おへそ丸出し、下はスパッツ……。


 そんなもん背負った日には、俺はまたナオミさんの目の前でテントを張る羽目になってしまう……!


「ははは、これは逃げられないねーハルキ君。いっちょ覚悟を決めてやってみようか!」


「は、はあ……」


 仕方なく俺は、その場で膝を降ろした。


 まあ、スクワットは前かがみになるし……きっと大丈夫さ。


「わーい!」


 そこに、子供みたいに無邪気な遊子が乗っかってくる。


 本当に、男の純情なんてどうで良いんだな。


「はうっ……!」


 次の瞬間、幼馴染の重みと柔らかさが背中に乗った。


 にじむ汗の感触さえもが露骨に伝わってくる。


 スパッツに包まれた太ももは、本人が言うようにプリプリに張っている。


 運動で体温も上がっていて、まるで溶けたゴム人形を背負っているみたいだ……!


 くふうっ……! これは……!?


「うふふ……♡」


「この青臭さ……たまんないな……♡」


「えっ?」


 2人が何かブツブツと言ったが、俺はそのまま遊子を背負って立ち上がった。


 思いのほか軽くてビックリだが、このままスクワットをするのは安定性に欠けるような……。


「壁に手をつくと安定するよ?」


「なるほど……」


 言われて建物の壁に向って手をつく。


 おっ、これならバランスを崩さずにいけそうだ。


「遊子ちゃんは落っこちないように『しっかり♡』ホールドするんだよ? 絶対に逃しちゃだめだよー?」


「はい! ありがとうございます、ナオミ先輩!」


 うむ? いつから2人は先輩後輩になったのか。


 あと、俺の逃げ場はもやはどこにも無いぞ?


「よーしじゃあ、イってみようかー! せーの!」


「ふぅん!」


 そして俺は、幼馴染をウェイトにしたスクワットを開始する――!


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