第6話 夢の中でも淫れる


 おや……ここはどこだ?


 真っ白な空間に、俺は横たわっている。


 うーん……なんかお腹すいたな。


 ベンチプレスをやったからか? 無性に腹が減りよるな。


 それに……。


「パクパク、もぐもぐ……」


「……おまえ」


 気づけば、俺の腰の上に遊子がまたがっていた。


 上は肩が見えるほどぶかぶかのシャツ、下はショートパンツというラフな格好で、パクパクとドーナツを食べているのだ。


「どうしたの? ハルキ」


「どうしたのって……何やっているんだよ」


 寝ている幼馴染の上でおやつを食うとか、お行儀が悪いな。


 そういや俺も、Tシャツにトランクスという姿だ。


 遊子の太ももが直接肌にあたる感触が生々しい。


「よっこいしょ……」


 体を起こすと、遊子の顔が目と鼻の先だった。


「もにゅもにゅ……」


 本当に美味そうにドーナッツを食べているな。


「ハルキも食べる? 私のドーナッツ♡」


「えっ……?」


 と言って遊子は、食べかけのそれを俺の口元に近づけてきた。


 いいのだろうか?


 確かに腹は減っているんだけどさ……。


「まだまだいっぱいあるんだよ? ほらっ」


「おっ?」


 すると遊子は、まるで手品みたいに、両手にいくつものドーナッツを出してきた。


「いーっぱい食べていいんだよ?♡」


 と言って、熱っぽい視線とともに舌なめずりをしてくる遊子。


「う、ううーん……」


 俺は……何故かムラムラしてきた。


 ドーナッツも美味しそうだが、それを食べる遊子の口唇まで、美味しいそうに見えてしまってな……。


 それに、ドーナッツというリング状のオブジェクトが、何かの暗示のようにも思えるのだ……。


 遊子は大量のドーナッツを指に引っ掛けて、フラフープのようにクルクルと回している……。


「いらないの……?」


「い、いや……その」


「なんなら……『口移し♡』してあげよっか……?」


「えっ……!?」


 と言って、俺の腰の上で腰をくねらせてくる遊子。


 そのまま俺の背中に手を回して、その瞳を細める。


 そして、ドーナッツを含んだ口を、俺の顔に近づけてきて――。


「……んー」


「あわわわ……」



 * * *



「……はっ!」


――チュンチュンチュン。


 目覚めれば朝だった。


 どうやら俺は、淫夢を見ていたようだ……。 


「ということは……oh」


 布団をまくり、股間を眺めてため息をつく。


 トランクスにこびりつくカピカピしたもの……今日もやってしまった。


「やれやれ……」


 身も蓋もない話だが、俺はよく夢精するのだ。


 遊子に監視されているせいで、自ら処理することが出来ないからな……。


――カサコソ。 


 ティッシュペーパーで拭けるだけ拭いて、新しいトランクスに履き替える。


 汚れたトランクスは、シャワーを浴びる時などについでに洗うのだ。


「はぁ……」


 何とも言えず、情けない気持ちになるんだよな、これ。



 * * *



「おっはよー!」


 家を出ると、遊子が待ち構えていた。


 小学1年の頃から続く習慣であり、俺がイジメられる原因でもある。


 女子からはイヤらしいとからかわれ、男子からは死ねと罵られる。


 ほたして遊子は、そんな俺の事情を自覚しているのだろうか。


「おはよう……」


「どうしたのー? 元気ないなー」


「いや別に……」


 夢の中でチューしかけたことを思い出して、つい顔をそむけてしまう。


 わざわざ玄関の前で待っていてくれた幼馴染に対して、あまりに素っ気ない態度なことは自覚している。


 俺が見た夢だって、遊子には知る由もない。


 だがそれをわかっていてなお、俺は自分の気持ちをどうすることも出来ない。


「もしかして……エッチな夢でもみた?」


「なっ!?」


 こいつ、やはり超能力者か!?


「図星ー? うけるー! それで何かシオっとしてたんだー!」


「お、おまえ……!」


 訂正する。


 流石は幼馴染だった。


 きっと俺のことを、無意識のレベルで理解している!


 それになんか、俺の夢精癖まで見抜いてないか!?


「ねえねえ、どんな夢だったの? 聞かせてよー」


「ど、どうでも良いだろそんなこと……」


 と言って、俺はさっさと歩き出すが。


「えー! 気になるー! ねえ教えてよ? ねぇねぇ!」


 遊子は、情け容赦無く追求してきた。


 お前の夢を見たんだよ!


 ……とは流石に言えなかった。


 いかに遊子が可愛くてセクシーだからと言って、幼馴染のことをエッチな目で見るなんて許されないことだ。


 それに、またもや遊子に弱みを握られることになるし……。


「よく覚えてないよ……」


 だからそう言って誤魔化すが。


「ううん、その顔は覚えている顔だね! ユーコちゃんにはわかるよ!」


「ぐぬぬぬ……!?」


「ねぇねぇ、教えてよー! 教えてくれないんだったらねー、そうだな……うふふふ……マミ姉さんに、昨日のモッコリのこと話ちゃおうかなー?」


「な、なにぃ!?」


 遊子の追求は止まらない。


 お前という奴はどこまで!


 そんなに俺に恥ずかしがらせたいのか!?


 くううっ……!


 ここはさらに、適当なことを言って誤魔化すか……。


「そ、その……こんにゃくだよ……!」


「ほえっ?」


 我ながらひどい誤魔化し方だが、咄嗟に思いついたのがそれだった。


 もはやヤケクソである。


 とある少年マンガのネタに、こんにゃくの差し入れというのがあってだな……。


「こんにゃくがエッチなの? なにそれ? 意味分かんないだけど!」


「そうだよ……時としてこんにゃくはエッチなんだ……」


「そ、そうなの……!?」


 するとどういうわけか、遊子は酷くショックを受けていた。


 そしてブツブツと小声で何かを言う。


「なにそれどういうこと……? ドーナッツじゃ印象弱かった……? 何がこんにゃくに見えたんだろう……」


「えっ?」


「う、ううん、なんでもないよ! とにかくハルキは、こんにゃくの夢を見たんだね? それが良くわからないけどエッチな夢だったんだね!?」


「こ、声がでけえ……!」


 ほら! 通りがかりのおじさんが口をポカンと空けてる!


 恥ずかしいから!


「も、もう夢の話は良いだろ! いくぞ!」


「あーっ、まってよー! もう少しkwsk……」


 もうー! 俺の幼馴染はどうしてこうもシモいんだ!


 学校に着くまでずっと、遊子は淫夢の話ばかり聞いてきた。


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