第16話 最初の世界へ A
「あ~、もしもし」
ハスキーな声が気だるげに聞こえる。これが真人が言っていたユイという人物だろう。
「私のこと覚えてるかい?」
「……? いえ」
「――まあ、いいか。悪いねわざわざ真人クンから離れてもらって」
携帯を受け取った時、第一声が「真人クンには聞かれないように」だった。
「少し相談事があってね。君に救って欲しいんだ」
「……おれが?」
「ああ。真人クンも私も、そして君もね」
「あの言ってる意味が良く――」
「たけど、シエラちゃんは救えない」
そうユイさんは言った。
「やってくれるかい?」
おれはユイさんの計画を知り、それを呑んだ。シエラちゃんを切り捨てるということすらも。
おれは真人よりも前の時代に世界に降り、修行を行う。暴走したシエラちゃんを止める程の。何十年もの時を重ねて。
月日は流れ――真人はシエラちゃんが来るよりも先に、決着を着ける。そうなればシエラは間違いなく真人を殺す。おれは見計らってその現場へと入っていく。
そして――次段階に進む。
「落ち着いたかの?」
老人が手を伸ばしてくる。まだ体が熱いが体は動かせる。一時期は全く動かなかったはずなのに。怪我一つ無かった。この老人が何をどうしたのか、全くわからない。
腕を振りかぶるが、あっさりと老人に止められる。
「そなたも気づいておろう?何故君の彼がここに居るのか?」
「――それは」
「見よ。あの銀色の銃を」
老人が指差したのは、彼の傍に落ちている銃だ。吸血鬼ハンターがよく使うと言われている、あの。
「真人……君が殺めたあの男は君を救おうとしたんじゃよ」
「そんな――違う、嘘。だって……」
今までの全ては幻だったということなのか。私が掴んだはずの幸せはありもしなかったということか。そんなの、あまりにも辛すぎる。
そして私を助けようとした人を、自分の過ちで、この手で。
受け入れようもない苦しみが胸を締め上げる。
「また君は絶望の淵に立とうとしてる」
老人の口調が変わる。真っ直ぐな眼差しが私を見つめる。
「そういう君を真人は救おうとしてた。でも――もう彼は居ない。だから逃げないで欲しい。今度こそ自分で立ち向かって欲しい。――それが真人が望んでいることだよ」
「――少し、一人にさせて」
「……わかった」
私は自分の目を自分の腕で抑えた。何も――見えなくなっちゃえばいいのに。
自分の頭がようやく冷えてきて、老人の話を聞いた。私が本当は死んでいたこと。天界を抜け出して私と旅をしたこと。私が捕まって、別世界の私を真人君が救おうとしてくれていたこと。――私がその真人君を殺してしまったこと。
全部が全部飲み込めたことじゃないし、理解したわけじゃないけど。老人はありのままを話してくれた。信用は、する。
「どうして真人君はそこまでしてくれたんだろう」
「ああー、それ昔も聞かれた。君――ではないけど。――見に行ってみる?」
「え?」
「この鍵を使えば、真人に会うことができる」
その鍵は真人君が持っていたものだ。
「行ったことのある世界と時間がここには保存されている。シエラちゃんと真人の旅が見られる――行く?」
「――行かせて」
老人は頷いた。
「僕もそれがいいと思う」
部屋の一部が白み出す。それは扉の形となった。
「それじゃあ、行こう」
私は物怖じしながらも、その先へと進んでいった。
それはまるで夢のようだった。私が見る悪夢ではなく、幻想のような夢。
見たこともない技術に囲まれた街、仮面をずっとつけた住人、空を泳ぐ龍。巡っていく世界の全てが鮮やかに映った。
そしてその世界を征く真人君と私も、輝いて見えるようだった。
旅を見守り続けてしばらくして、星が夜空を瞬く世界に来た時、大きな出来事が起こった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます