第13話 最後の世界 A
世界に降り立ち、まずはシエラの死の真相を探ることにした。俺は天界で貰っていた、シエラの情報が載った紙を読んだ。感想としては――あまり良いものではなかったが。
フィンというハンターに狙われ、シエラは命を落とした。そもそも両親もハンターによって殺されており、この世を大きく恨んだことだろう。しかもそれが恋人と信じていた人物に裏切られたとあっては、シエラが絶望するのも頷けた。この世は、理不尽だらけだ。
シエラが家に戻るのは夕方頃、それまでに決着をつけなくてはならない。この手で、ハンターをどうにかする他無い。
渚とは合流できていない。周辺を探索しても、その姿はなかった。
その探索でわかったのは、この世界は中世の町並みに似ている。しかし地球ではないのは、街に並ぶ食物や生物が見たことのないものであることから推察できる。まずはシエラの家を把握しなければならない。
そう思う矢先、突然と背後で爆発音がした。いや爆発というより、建物の倒壊音というべきか。まあ何だとしても、この平穏な街の雰囲気には似つかわしくないものであることは確かだ。
不安を胸に抱きながら、振り向く。
道沿いに並ぶ住宅地に一つ大穴が開けられていた。そこからぬっ、と巨体が出現する。
人間の十倍はありそうな体格だ。あまりにもでかすぎる。重々しい鎧と剣は銀色に光った。 天使だ。造形は全く見覚えが無いが、そう感覚で理解した。
「グルルルル……」
鎧の隙間から覗く赤黒い双眼が、俺を標的に捉えた。
「ヴォオオオオオオオオ!!!」
道の幅にアイツは収まってない。でも、そんなことお構い無い。周りを壊しながら、通行人を巻き込みながら、しかし俺だけを目標にその巨躯を動かしていた。
逃げ出すしかない。対抗なんて出来るはずもない。
そして何より、早すぎる。
アイツはまるで今までここに居たように現れた。
いや――初めから居たのか。ずっとここで潜んでいたのか。
シエラを根本的に助けようとするならば、この世界へとやってくるしかない。ならば初めから天使を用意しておけばいい。のこのことやってくる俺を、害虫駆除用の罠が如く殺せばいいのだ。
やられた。完全に。
図られていた。
「ヴアアア!!」
大剣は少し背後を掠めていく。
本当にシエラを救えるのだろうか。
*
冷たい廊下を進んでいく。手と足に付けられた拘束具がずしりと重い。逃げ回ってたこともあって、もう体が泥のようになっているが隣に立つ天使がいちいち背中を押すものだから休んでいる暇もない。
そして私の前を行くもう一人の天使。エル。神に最も近い天使だ。彼が直接に罪人を連れ行くのは、余程の重罪ではない限りありえない。まあ私はそれ相応の罰を受けるということだろう。死ぬよりも辛い目、か。
ここは新魔裁判所。神が裁きを下す場所。私は罪人としてここへやって来た。
「止まれ」
エルが制止をする。
「この扉を開ければ神の御前だ。無礼があれば――」
「はいはい、わかってるよ。早くしてくれ」
エルは毅然とした態度の私に顔色一つ変えず、その扉を開けた。
光で視界が染まる。瞳を開ければそこは――
「ひっろ……」
そこは金色の世界だった。装飾が卑しい程に光り、この空間を満たしている。ドーム状のように広がった空間で、真ん中にぽつりと一つ椅子がある。そこが私が坐する場所ってことか。
硝子の様に透き通り、大理石のように固い床は、私の姿を鏡のように映す。そこで自分の顔がまるで化け物に睨まれたかのように恐怖していることに気づいた。ここは、圧が凄い。押しつぶされるような思いだ。神々の視線が刺さっているからなのだろうか。冷たく見るもの、怒りに顔を歪ませるもの、好奇心に溢れ微笑を浮かべるもの。それの一つでさせ顔を合わせるのが何故か恐ろしい。
「行け」
エルが私を前に突き出した。そのようなきっかけがなければ一歩も進めなかっただろう。
私の心音が逸る一方で足取りはひどく重かった。
ようやく証言台に辿り着く。エルは私の前に立った。
「私が今回の陳述を務めさせていただきます。罪人、名を告げ素性を晒せ」
「……荒海唯。異世界管理局に務めている」
「罪状は天界の逃亡の援助、ならびに金のカギの窃盗。間違いないな」
「さあ、どうでしょう」
「生前の出来事を見れば明確だかな。神よ、少々お時間を私にお与えください。この罪人の過去を申しあげさせていただければと」
「いいだろう」
その言葉を聞き、エルは語り出す。
私もそれに合わせ、あの日のことを思い始めていた――。
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