第六話 介抱
薫が意識を取り戻した時、事故現場から少し離れた寺の門柱にもたれるように座らされ、ネクタイの結び目も少し緩められていた。
「えっ……?」
慌てて周囲を見回すと、板塀と板塀の合間から事故現場らしき町屋が見てとれる。
車はクレーン車で路地まで引き出されたのか、原形をとどめないほど焼けた鉄の塊と化していた。
消防車の放水も続いていて、救急車への怪我人の搬送に救急隊員が追われている。
警官は規制線を張り巡らせて、野次馬の人垣を押し戻すなど、路地一帯が殺気立ち、上空ではヘリも数台回っていた。
薫自身は背中に見覚えのあるディパックをクッション代わりにあてがわれ、両手の血糊も拭き清められている。
「気がついた?」
薫がきょろきょろしていると、先程の彼に穏やかに声をかけられた。
手にはコンビニ袋を下げている。
「あの、僕……。えっ……と」
「あの後、倒れちゃったんだよ。だから僕が移動させたんだ。怪我はなかったみたいだし。少し休ませれば気がつくと思って」
彼は薫の前にしゃがみ込み、コンビニの袋からペットボトルのお茶を一本取り出した。
「飲む?」
「す……、すみません。あの、本当に」
「誰か家の人に連絡して、迎えに来てもらった方がいいと思うけど」
「あっ……と、そういえば……!」
我に返った薫は片手でペットボトルを受け取りつつ、片手で携帯を掴み出す。
見れば時刻は午後五時近い。ということは、三十分近く失神していたことになる。しかも四時半までには帰ると告げたのだ。店の者は心配しているに違いない。
「すみません。先に電話だけ掛けさせて下さい」
その
とはいえ、このまま礼だけ述べて帰らせるのも失礼だ。
こんなに親切にされたのだ。
連絡先を聞き出したかった。
薫は改めてお礼に彼を伺うべきだと思っていた。
慌てて店に電話して、三十分前に起きた事故に巻き込まれかけたと事情を告げ、予定の店番には入れそうにないことを、平身低頭謝った。
薫は事故現場に背を向けていたのだが、救急車のけたたましいサイレンは途切れることなく鳴っている。と、その時、
「何すんだ、てめえ!」
若い男の怒声がして、薫は思わず振り向いた。
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