04. 想い人
雄太は自宅への帰路へと就いていた。今日は色々なことがあった。
文化祭の出し物の件で、自分勝手なクラスメイト相手に声を荒げてしまった。大人げないと自分でも思っているが、我慢できなかった。確か春の体育祭の出し物決めの時にも同じようなことがあったなと思い当たる。
そして教室で気絶した夕海を保健室に(お姫様だっこで)送り届けた。さらに保健室のベッドで起きた瞬間に、再び気絶させてしまった。
…後者は雄太の責任ではないが。
夕海がベッドで絶賛2回目の気絶中の時に養護教諭が言った言葉が脳裏をよぎる。
『彼女は線が細い見た目によらず、一人でがんばろうと無理をするタイプである』
『身体が弱いため、保健室の常連である』
『しかし今回のように気絶したのは初めてだ』
『それも二回!二回もだぞ?…責任は感じてるのか?』
『同じクラスメイトとして、もっと彼女に気をかけてやれ』
『じゃないと、あることないことバラまくぞ』
半ば脅迫である。
(分かってる…分かってるさ…)
(そんなの承知の上で絡んでるんだ)
雄太は思う。そして誰かに問いかけたい衝動にかられる。もし彼に気を許せる親友がいたらこう聞いていただろう。
『なぁ、初恋って成就できるものなのか?』
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彼が夕海に気をかけるのは理由がある。初めて彼女と会ったのは、小学4年生の頃に泣いている彼女を慰めたときだ。
黒い髪を肩あたりまで伸ばし、服装もジャンパーワンピースで可愛くコーデされており、清楚というイメージを思い出させた。しかし、そんな彼女はブランコに泣きながら乗っていた。その姿を見た瞬間、雄太は一目惚れした。マセたガキである。
『お前、どうしたんだ』
放っておけなくなった雄太は彼女に泣いてる理由を聞く。
『あのね…ピッピちゃん見つからないの…』
(何だ?ピッピちゃんって?おもちゃ?いや、鳥?鳥のおもちゃ?)
最初は小学生ならではのあまりにも要領を得ない説明のため、理解できなかった。自分も小学生ということを棚上げしているが。
ただおもちゃを無くしただけではここまで泣かないのでは?ひょっとして生き物の鳥がいなくなったのでは?小学生のくせにここまで推理してしまう雄太少年。
目の前でしくしくと泣く少女。探している者が生物と分かった段階では探し出すのは難しい。『それじゃ、頑張れよ』と言えたら気が楽だった。
しかし彼は少女に一目惚れしてしまった。どうにかして彼女を慰めたい。それにはまず泣き止ませないと。彼女を泣き止ませる術が自分にないことに、少年だった雄太は歯がゆく感じたのだった。
そんな時、母親が購入した花束を思い出した。
(花を嫌いな女の子はいない)
『ちょっと待ってろ』
泣いてる少女にそう告げ、母親に持っているものを欲しいと頼み込んだ。目的のものを手にした少年は、
『…とりあえず…元気だせ…これやる…から』
自宅に飾る予定だった桔梗の花。それを母親からもらい彼女に渡す。たった一輪だが、目の前の少女を泣き止ませるには十分だったようだ。
『あ、ありがとう…』
驚き・照れ・感謝…色々入り混じった顔ではあったが、少しだけ笑ってくれた。そのぎこちないながらの笑顔に、雄太は完全に堕ちた。
『ピッピちゃんって…鳥だろ?鳥ってよ…きそーほんのーってやつがあるからさ』
『ひょっとしたらよ…家に帰ってる…かもしれねぇから…』
『もし…帰ってなかったら…その花見て元気、だせよ…』
それはもう、照れを隠すために、まくし立てるように一気に少女に言った。ただ雄太のその姿は少女を元気つけるには十分だったようで、
『う、うん…ありがとね』
とほほ笑んでくれた。
(やべ、可愛すぎてこっちが恥ずかしいわ!)
この時期思春期特有の『異性を意識する』を身をもって体感した雄太は、
『うっ!じゃ、じゃあな!』
と捨て台詞を出すのがやっとだった。
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間違いなくこれが初恋だと、雄太は胸を張って言える。しかし少女とはこれ以降絡みがなく、再開したのは中学の入学式だった。新入生が体育館に並んだ時、隣のクラスの列に見覚えのある顔があった。
(あの鳥の女の子だ!)
雄太の胸が大きく鼓動した、ように感じた。
中学3年間では同じクラスになることはなかった。
名前だけは『中村 夕海』ということだけは分かったが、しかしそこまでだった。
生来、仏頂面の雄太であるがため、友人ができにくかったのが災いした。彼女と共通の友人ももつこともなく、そもそも雄太に友人と呼べるものがあまりいなかった。よって、中学時代は彼女と会話するどころか、絡むこともなかった。
風の噂で彼女が進学を希望する高校の名前を知ったとき、彼は決心した。
(俺も彼女と同じ高校を志望する!)
(例え仲良くなれなくても、初恋の女の子と一緒の学校にいたい!)
彼は決意のもと、猛勉強し見事に同じ高校に入学することができた。
そして現在。雄太は夕美と同じクラスになることができた。陰ながら彼女をサポートしていきたいと思いながら、春の体育祭と今回の文化祭と口出しをしてきた。
まったく陰となっていないことに彼が気付かないのは、恋は盲目とかそんな感じなのだろう。
「あそこまで口出しをしたんだ。文化祭が終わるまではサポートさせてもらうから…まずは当日までの段取りを決めないとな…」
誰に言うともなく雄太は呟いた。頭の中には文化祭を成功させてあわよくば夕美に…という考えを広げていた。
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