06. 病院
病院はとかく物静か、暗い雰囲気と言われがちだが、実際はそうではない。待合室などは逐一ザワザワしているし、外来患者や医師を呼び出す放送など多々流れる。
受付内では看護師同士の会話。廊下の手すりで歩行リハビリをする子ども。
それを「がんばれ」と応援する親の掛け声。
検査結果が悪かったのだろうか…待合室でうなだれる夫婦。
逆に退院するであろう患者と、それを祝う看護師達の拍手。
病院とは以外と騒々しく、ドラマがある場所である。
そんなドラマティックな場所に、いかにもここにいるのが不服です、という仏頂面な少年-向山 雄太-がいた。その姿は外来で訪れるような私服ではなく、動きやすいスウェット姿である。彼は入院患者であった。
何故彼が入院する必要があったか?理由は…一昨日まで遡る。
自宅での夕食時、いきなり下腹部を押さえて椅子から転げ落ちたのだった。一緒に食事を摂っていた両親は、
『何をふざけているんだ、この息子は』
『ふざけていないでさっさと食べなさい』
としばらく罵っていたが、痛がり様が尋常ではない。
「ちょ……まじ…で……苦しい……たすけ…てくれ……」
これは演技ではなく、本当に痛いのだろうか?しばらく静観をすることとした両親。鬼畜である
痛み始めてから約10分。
「ほ……ほんと……これ………やば…いって……うぅ…」
それでも痛がっていたため、あ、これは本気だと救急車を手配した。
119番通報から5分程で救急車が到着した。さすが日本の救急車、優秀である。余談だが、彼が仏頂面になったのは少なからずこの両親の影響があるに違いない。
痛み始めてから救急車に乗り、病院につくまでの間、雄太は脂汗ダラダラ、意識朦朧、下腹部が殴られたようにズキズキと痛みながら耐え抜いた。病院に到着し、レントゲン検査等の後すぐに緊急手術となった。
病名は…
-虫垂炎摘出手術-
俗に言われる『盲腸』であった。
彼は退院後にクラスメイトにこう語ったという。
『部分麻酔を打ってもらったから痛みはひき、意識ははっきりできた』
『寝ている場所(手術台?)の頭のすぐそばでラジオが流れていた』
『医者と看護師達は、今晩の自分たちの夜食について語っていた』
『結局その日の夜食はいつでも食べられるビーフカレーらしいことが分かった』
『それでも絶え間なく下腹部の方では、カチャカチャ…パチンなど手術の音が聞こえた』
『手術中にそんな日常会話は聞きたくなかった』
『今度から手術の際は全身麻酔でお願いしようと強く決意した』
実際の医者が本当にこうだったら確かに『ここにいるのは不服だ』と、病院嫌いになってもおかしくないと思う。
手術から2日後、最初は手術痕付近が少しズキズキ痛んでいた。それもなくなり、あと数日程度で退院できると医者から説明を受け、病院内の売店を冷やかすなど、病院内を徘徊していた。そして待合室近くの廊下で見知った顔を見かけた。
「(委員長?)」
そう、クラスメイトである中村 夕海が
夕海は入院生活疲れだろうか元気がなく、点滴だけでは十分な栄養摂取とはいかないため、少し痩せたように見える。
そう思いながら夕海を見ていたため、声をかけるタイミングを逸してしまった。夕海は雄太に気付くことなくエレベーターに乗って立ち去っていった。
数日後、雄太が退院後に登校し、夕海の入院理由を担任に問うと、
『検査入院』
そう回答がきた。
何の検査なのかは不明だが、夕海はそれから半月近く姿を見せなかった。
自分がたかだか数日間の入院生活が暇であったため、夕海も恐らく暇だろうという安直な考えが思い浮かび、今度お見舞いに行ってやろうと決意するのであった。
しかし、雄太のその願いは叶わなかった。
なぜなら…
行こうと思ったその翌日、彼女は学校に登校してきた。
完全にお見舞いに行くタイミングを失った雄太。教室で夕海の姿を見かけたとき
嬉しそうだが、苦虫を100匹噛み砕いたような複雑な表情をしていたらしく、クラスメイトから
『雄太が珍しい顔をしている』
と数日間いじられたのは別の話。
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