第11話 虚しい決着



 事態は混乱を極める中──主に混乱しているのは龍だけだが、イチカは物怖じせずに一歩前へ出る。

 その足取りは軽やかで、人間の癖にこの炎の中、どうして平気でいられるのか、龍には理解が及ばなかった。

 ただ、向かってくるのならたとえ水着を着た浮かれ女でも討ち滅ぼすまで。


「フン、貴様は先程の戦いの時に何もしてこないから、大した力はないのかと思ったが、どうやらそうでもなかったらしいな……この狸が」

「あの時点の私には、覚悟が足りませんでした。それに、別に私に大した力なんてありませんよ」

「嘘をつくな。人間の足でこんなに早くあの場所からここまで来れる筈がない。その証拠に、貴様の仲間達は未だ誰一人来ておらんではないか」


 龍がイチロー達よりも早くクラリスに辿り着けたのは、空を飛べるというアドバンテージがあるからだ。

 地上から目指すとなると、傾斜の影響で足場の悪い山道に、雑草のように生えている大きな木々のせいで、全速力で走ったとしてもかなりの時間を食ってしまう。

 龍の言う通り、パーティー最速のイチローでさえまだこの場に到着していないのに、いったいイチカはどうやって現れたのか。

 それはすぐに分かることになる。


「ほう…なるほどな……貴様、回復魔術以外にも水の魔術が使えたのか……」


 イチカは、龍のせいで辺り一面火事となったこの一帯を、足元から渦のように巻き上がる大量の水流を操って消火していく。

 その水流の勢いは激しく、人間の女性一人くらいなら簡単に押し流せそうだ。

 あっという間に山火事は収まり、クラリスも穏やかな顔で眠っている。


「貴様はその水の流れに乗って、我と同じく上空からここまでやって来たというわけか。それに、光と水の二属性を操る魔術使いとは珍しい。あのイカれた二人の仲間なだけはあるな」

「あの二人がイカれているのは否定しませんが、罪もない人を大勢殺したお前に言われたくはないですね」


「言っとくが水着で戦おうとする貴様も大概イカれているからな。そして、我が人を殺すのはそうあれかしと我が造物主に造られたからだ。つまり、我にとって人間を殺すのは義務である」

「………そうですか……」

 

 イチカのその返答は、イカれているという言葉に対してなのか、それとも、そうあれと龍が造られたという事実に対して言ったのか。

 どちらに向けて返事をしたのかは定かではないが、その時の彼女の表情は歪んでいた。


「分かりきっていた事でしたが、私達はお互い、解り合うことはできませんね」

「当然だ。我が人間なんかと仲良くなどできるものか」

 

 対話はこれっきり。

 後はもう殺し合いしか他に道はない。

 元より、根本的に価値観が違うのだ。仲良くなど出来るはずもなかった。


 イチカは、消火に使っていた水流を自身の周りに集めて戦う姿勢を見せる。

 龍もまた、相手が水着だからといって手を抜くことなどする気もなく、グルル……と喉を鳴らして牙の隙間から炎を覗かせ臨戦態勢を取る。


 ───二者の間に緊張が走る。

 龍からしたら、未知数の魔術使いを相手に、深傷を負った状態でどう立ち回ったものかと疑心に陥り。

 イチカからしても、龍の攻撃を一撃でもまともに喰らえば即死の極限状態であり、気は抜けない。

 死の焦りと緊張で、胸の谷間に汗が流れ込むのをイチカは感じる。


 お互いに見合ったまま一歩も動かない。

 一見すると、このまま膠着状態が続けば仲間が到着し、イチカにとっては最善かと思えるが、彼女には早めに決着をつけなければならない理由があった。

 

(本当はこのまま時間稼ぎに徹したいところですが……クラリスちゃんの怪我がかなり酷い。血を吐いていたし、肋骨が肺に刺さっている可能性がありますね。私の能力なら直ぐにでも治せますけど、龍がそれを許さないでしょう。あまり長時間放っておくと最悪の場合、治療が間に合わずにクラリスちゃんが持たない可能性が……やはり短期決戦に持ち込むしか……!)

 

 周りには水分が満ち満ちているのに、喉が張り付く。

 ごくり、と一際大きな唾を飲み込む音が鳴った。

 

 ───その音を皮切りに、龍が動いた。


 龍は顎を天へ掲げると、明らかに口の中に収まりきらない大きさの、巨大火球を口元に作り出す。

 まるで小さな太陽だ。

 イチカは眩しそうに目を細める。

 

 龍がしばらく様子見をしていたのは、これを作り出すための時間稼ぎでもあったのだろう。

 クラリスに放っていたモノとは比べ物にならないほど、火力もサイズも桁違いだ。


 だが、その強大な力に比例して、リスクも付き纏う。

 あれだけ巨大で爛々と輝く炎を吐き出したのだ。いくら蒼漢山の森が大きな木ばかりで視界が悪かろうと、確実にイチローとアミリアはこの場所で戦闘が行われていることに気がついたろう。

 すぐにでもここに駆けつける筈だ。


 それに気づいておきながらも、龍はその攻撃方法を選んだのだ。

 確実に一撃で仕留める。

 龍の眼からはその覚悟が感じ取れた。


「……やってみなさい。元より私は短期決戦を望んでいたところです。お前の全力を私が受け止めて、後は三人でボコってお終いです!」


 受けて立つ、とイチカはその覚悟を真っ直ぐに受け止める。

 自身の周辺に漂っていた水を全て掌に集め、両手を龍に向かって突き出す。


 龍とイチカは、お互いの視線を交わす。

 もはや言葉はいらない。

 向けるのは相手を完膚なきまでに叩き潰すという殺意だけでいい。

 

「「──────!」」


 お互いが同時に己の最も信頼とする技を放つ。

 龍は強大な種族として生まれながらに持つ竜種の特徴でもある最大の武器を。

 イチカは前世でなりたいと憧れ続けていた、愛と勇気の魔法少女の力を。


 両者の信念を乗せた最大の必殺技は、空中で真っ向から激突ッ!


 凄まじい蒸発音を立てて、お互いが相手の技を喰らい尽くさんとする。

 炎と水。

 相反する二つの属性の必殺技は拮抗する。

 技自体の威力は同程度。ならば、後はそこに乗せた思いの差がこの勝敗を分けるだろう。


「いっけえええぇぇえええええ!!!」

「滅ぼせぇえええええええええ!!!」


 イチカの放った津波とも呼ぶべき大水流は、掌で包むように大火球を飲み込む。

 それで終わる龍の必殺技ではなく、水中の中でも煌々とした輝きを保ちながら、徐々にイチカに向かって直進してくる。

 

「「負けてたまるかぁぁああああああああああ!!」」


 永遠にも続くかと思われたその拮抗。

 だが、終わりというものはどんなものにも必ず訪れるものだ。

 水というのは、非常に温度の高い物質と接触すると、熱せられ気化現象が起こる。

 そして気化され生まれた水蒸気は、大きな爆発を呼び起こす。

 その現象を、前世の人々は水蒸気爆発と呼んでいた。





☆☆☆☆☆☆☆





 突如として、夕焼け空にもう一つ太陽が生まれたかと思えば、次の瞬間には水と合わさって上空で大爆発。


 少し離れた地点で木々の隙間からその一部始終を覗いたイチローには、何が起こっているのかさっぱりだった。

  一つ分かるのは、もう戦闘は終わっているだろうということだ。

 いったい誰と誰が、そして勝敗はどうなったのか。

 逸る気持ちを抑えて、イチローは爆発が起きた地点へと足を早めた。


「これは……どういう状況だ……?」


 数十秒と経たずに、戦闘が行われた現場に辿り着く。

 その様子を見て、イチローは何が起きたかの状況判断に努める。

 

(……周りの木々の全てが折れたり曲がったりしているな……。それだけ爆発の衝撃が凄まじかったということか)


 自然の状態から、爆発が及ぼした被害を推定する。

 そして、この場所に着いた時からずっと目の前にあったに目を向けた。


「龍がぶっ倒れてやがる。今度こそ死んでる……よな?」


 そー…っとイチローは倒れた龍に恐る恐る近づいてみる。

 顔は火傷と裂傷に覆われ、下半身は無くなり、恐らく先ほどの爆発の影響で負った傷と思われる上半身の身体は、鱗が剥がれ落ちてそこから中の肉が見えていた。

 イチローは動かなくなった龍の顔を、つんつんと指先で突っつく。

 反応はない。

  

「……さすがに死んだな。しかし、いったい誰が龍を倒したんだ? アミリアとイチカの二人は俺よりも足が遅いだろうし、まさかクラリスが……?」


 しかし、辺り見回しても人の姿はどこにも見当たらない。

 爆発の衝撃でどこかへ吹き飛んだのだろうか。

 イチローはそう思案する。

 すると、新たな人物が遅れて現れる。


「はぁ……はぁ……イチロー……今どういう状況……?」


 疲労困憊といった様子でアミリアがやって来た。

 全力で休まずにここまで走ってきたのだろう。

 髪には草や枝がくっついており、彼女の白い肌には擦り傷がたくさん付いていた。


 イチローがスマートに罠や木々を避けてきたのと違って、アミリアはそんなもん知るかと言わんばかりに木々も罠も正面から根こそぎ倒して、この場所までやって来た。

 そのせいで、イチローと比べて疲労が大きいようだ。


「おつかれアミリア。それなんだが、俺にもまだ状況はよく分からん」

「はぁ……はぁ……? イチローが…はぁ…さっきの…はぁ…爆発を起こしたんじゃ…はぁ…なかったの……?」

「はぁはぁうるせえなぁ!? いったん落ち着いたから喋れや!」



       ───小休止───



「あの爆発はイチローが起こしたものじゃなかったの?」


 十数秒間だけ深呼吸をして休んだアミリアは、すっかりいつもの調子を取り戻した。


「ああ、そうだよ。俺のお株を奪うような真似しやがって。なかなかいい爆発だったじゃねーか」

「爆発の感想なんか知らないよ。イチローじゃないとしたらいったい誰があんな大きな爆発を……?」


 アミリアとイチローの二人の記憶には、思い当たる人物が浮かばなかった。

 二人とも首を傾げるだけで役に立たない。


「私ですよ」


 と、突然背後から声が掛けられた。

 その掛け声が急なものだったから、二人して肩を震わせる。

 振り返ると、そこには見知った人物の姿が。


「また二人だけで会話して……嫉妬しちゃいますよ?」

「「イチカぁ!?」」


 二人が驚いたのは、戦闘に向かないと思っていたイチカが龍を打倒したから。

 ───ではなく、いつの間にかイチカがセクスィーな水着姿になっていたからだ。


「うわ……うわ……エッチだ……!!」

「いいね! 最っ高にかわいい!!」


 上のセリフがイチロー、下がアミリアだ。

 ムッツリスケベとオープンスケベの差が褒め言葉に如実に現れているのがよく分かる。


「あ、あんまり……見ないでください……!」


 その上、イチカが恥ずかしそうにそんなことを言うもんだから、もう二人はキュンキュンしちゃっている。


「今は私のことはいいですからっ! アミリアさんは向こうを見てきてもらえませんか? クラリスちゃんが居ますから。治療はしましたけど、念のため付き添ってあげてください」

「まっかせて! お礼はおっぱい揉ませてくれたら良いから!!」

「自分のを揉んでてくださいっ!!」


 にへらっと最後に笑って、アミリアは言われた方向へと足を運んだ。

 そのナイスバディをもっと拝みたい気持ちはあるが、やっぱりちゃんとした女の子のクラリスちゃんが一番大事!という考えからだ。


「俺もなんかすることあるか?」

「いえ、特には。後ろで見ていてくれれば少し安心できますから、そこで待っててもらえますか?」

「………?」


 イチカの言っている意味がよく分からなかったが、とりあえずイチローは首を縦に振る。

 その視線は先ほどからずっと胸元に注がれたままだ。

 当然イチカもその視線に気がついているが、自分もそうだったしな……という思いから、それに口出しをする気はなかった。


 イチカはイチローの正直な視線に苦笑すると、物言わぬ龍に向かって話しかける


「まだ生きているでしょう? 狸寝入りしても駄目ですよ」

「何言ってるんだイチカ。あんだけボロボロなんだ。さすがにもう死んで───」

「よく気がついたな……」


 瞑っていた目蓋を開けて、ギロリとイチカを睨みつける。

 その眼の覇気は未だ衰えてはいない。


「不死身かこいつ……!?」


 これにはさすがのイチローも驚いた。

 人間であれば絶対に死んでいる傷を何度も負っているにもかかわらず、まだやるというのか。

 腰を低くして臨戦態勢を取る。


「フン、安心しろ。我はもうすぐ死ぬ。もはや空を飛ぶ力も残っていない。貴様らの勝ちだ」

 

 忌々しそうに龍は吐き漏らす。

 その言葉にほっとしたイチローは、上げていた拳を下ろす。


「だが腑に落ちん。水着の女、貴様は何故我が生きていることに気がついた? 無防備に貴様が近づいたところを噛み砕いてやろうと考えていたのだが……」

「お前そんな事を考えていやがったのか。油断も隙もねえ奴だ」


 無防備に近寄った男が何か言っている。


 当然、龍はそれを無視して、有無を言わせぬ目付きでイチカに説明しろと訴えかける。


「………回復しなければ危ない怪我はしましたけど、私はあの大規模の爆発で生きてました。そして、私が死ななかったのだから、お前があれで死ぬわけないと思いました。こう言っては癪ですけど、私はお前のしぶとさを信じていたんです」


 あまり言いたい事ではなかったので、そっぽを向いて、イチカは冥土の土産代わりに正直に答えてやる。

 龍はそれを聞くと、ポカンとした顔を浮かべた。

 そして、一瞬の硬直の後───

 

「フ、フハハハハ!! 敵を信じるなどと、おかしな事を言うやつだな貴様は! ハハハ、アハハハハハッ! 生まれて初めてだ、こんなに笑ったのは!」

「なっ! 笑ってんじゃないですよ!! あーもう、これから死ぬ奴なんかに言わなきゃよかった!!」


 龍は心底面白そうに声を大きく上げて笑い転げる。

 傷が痛むことなんて気にも留めず、生まれて初めて腹が捩れるほどに笑い続けた。


「ハハハハハハ! 面白い女だ、お前は。名はなんと言ったか……我に教えろ」

「はあ? なんで私がそんなこと……」

「いいから早く答えろ!」


 死にかけだというのに、龍のその剣幕に押される。

 渋々イチカは冥土の土産だからこれくらいは……と要求を飲んだ。

 イチカは、ヒモ男をズルズルと甘やかしてしまうタイプであった。


「私の名前は……イチカです。別に覚えなくてもいいですから」

「イチカ、イチカ……うむ、覚えたぞ!」


 口の中で反芻して、しっかりとイチカの名前を心に刻み込む。

 これまで人をたくさん殺して残虐な行為をしてきた龍だが、イチカ達にはその姿が子供のように思えた。


「お前の……」

「うむ?」

「お前の名前は……なんていうんですか?」


 気がつけばイチカは龍にそう尋ねていた。

 何故尋ねたか。特に大した理由はない。

 ただなんとなく名前を知りたいと思っただけだ。

 少し会話しただけで相手に情が湧くなんて断じてあり得ない。

 イチカは自分自身にそう言い聞かせる。

 

「……我に名などない。いや、付けてもらえなかったというのが正しいか」

「それは……」


 人間を殺し続ける魔物と定義されて生み出され、造物主に名前すら与えられなかった龍。

 それは……悲しい存在だと、イチカは思った。


「………おいイチカ。貴様、今我を哀れんだな? 勘違いするなよ。我は好きで人間をいたぶり、殺しているのだ! 哀れまれる筋合いはない!」


 龍は口から血を垂れ流しながらも、声を張り上げてイチカを睨む。


「そして我を倒したからといって、思いあがるなよ人間風情が! 我が主は次元の違う強さの持ち主、貴様ら下等生物では絶対に勝てん偉大な御方! これから先の未来はビクビクと怯え、隠れながら過ごすがいい!!」

「お前何をっ!?」


 龍は言い切るや否や、ボロボロの身体に鞭を打って目の前のイチカを食い殺さんとする。

 指のほとんどが折れるか千切れるかの両手に、残りの命全ての力を込めて、カエルのようにイチカに向かって跳びかかる。

 咄嗟のことに、イチカは対応できない。

 


 そして─────龍の頭部が爆散した。



 やったのはイチローだ。

 龍の生死確認のため、小突いた時に頭部の一部を爆弾に変えておいたのだ。

 これまでの頭部に積み重なったダメージで、既に龍の頭蓋骨には限界がきていたのだろう。

 今の爆発で全体に亀裂が走り、砕け散った。


「…………助けてくれてありがとうございます、イチローさん」


 イチローの介入がなければ、防御力の低いイチカはタダでは済まなかった。

 イチカは感謝の言葉を

 その表情は、俯き影になっていて窺い知れない。


 イチローはその感謝の言葉に反応せず、受け取らなかった。


 二人の間に、形容し難い空気が流れる。

 やがて、イチローが口を開いた。


「…………あいつさ、イチカを襲う直前、チラッとこっちを見てきたんだよ。もしかしたら、あいつの頭部を俺がいつでも爆発できたことに始めから気がついてたんじゃないかな」

「わざわざ死ぬために私に飛び掛かって来たと? 何のためにですか……?」

「イチカのために……だと思うぞ。あいつは悪い奴だけど、イチカのことは気に入ったみたいだったから」


 辺りに散らばった龍であったモノを眺めがら、イチローは自身の考えを述べる。


「たぶん、あいつは自分に情けをかけるイチカの攻撃で死ぬのが嫌だったんだ。だから残り少ない命を振り絞ってまで、俺に殺させた」

「フフッ、アハハッ! なんだ、やっぱり私のせいなんじゃないですか。どうせ私なんて───」


「それは違う! あいつは、敵である自分にまで情けを掛ける、イチカの優しさが嬉しかったんだ。だから、自分が死んでもイチカが気に病まないように、元々イチカの攻撃で死ぬ筈の運命を変えてまで、俺に殺すよう仕向けたんだ」


 勝手な奴だよな、とイチローは肩を竦めて笑う。


「そんな事、言われても……私はどうしたら……」

「どうもこうもねえよ。あの龍は人を大勢殺した悪い奴だ。だからあいつを殺した事を後悔するな。あの龍自身、きっとそれを望んでいる」


 するとそこに「おーい!」という、空気を読まない女の声が。


「クラリスちゃん目覚めたよーー!!」


 ピースサインをして遠くからでもよく響く声で報告を入れてくるアミリア。

 イチローは手を振ってそれに反応する。


「それに、クラリスを守ったのはイチカ、お前だろ。そこだけは、胸を張ってもいいんじゃないか?」

「……はい!」


 そこでようやくイチカは顔を上げ、まともな笑顔を見せた。


 誰かを守れたという事実と、龍と分かり合えなかった悲しみ。

 清濁併せ呑んだイチカの笑顔は、普段の優しい微笑みよりも一段と大人びてイチローには見えた。

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