第十九話 堕ちていく

「だったら俺も一緒に行く」


 サリオンは駄々をこねる子供のように反論した。レナは男の扱い方に関しては、他の追随ついずいを許さない。だからこそ故国クルムでも公娼でも最高位に立てるのだ。

 アルベルトはレナに説明すると言う。後宮に迎え入れる心づもりがあることを。

 もう見ず知らずの男達に犯され続けることもない。

 そして半年経っても二人の間に子供を授かることが出来なければ、アルベルトはレナとの間に皇太子となる子供をもうける。その半年を短いと取るか、長いと取るかはレナの気持ち次第だろう。

 おそらくレナはアルベルトからの申し出を、ひとまず承諾するだろう。

 けれども、「はい。そうですか」と、大人しく答えるなどとは思えない。必ず何らかの条件をレナは持ち出す。もしくは懐柔しようとするはずだ。

 そうでなければ昼三の自分が後宮止まりで、下男の廻しが皇帝と生活を共にする王宮へ招き入れられ、皇妃として遇されるなど、レナの矜持きょうじが許さない。


「レナと二人にさせるのは心配か?」


 嬉し気に訊ねられ、サリオンはハッとした。我に返り、ふいと顔を背けたが、図星を刺されて憎まれ口が出て来ない。


「……別に」

「お前に妬いてもらえているなんて、俺はまだ夢の中にいるようだ……」


 サリオンは無意識に頬を膨らませ、に口を尖らせ、不満を顕わにしていた自分に気づかされ、次第に頬が火照ってくる。

 すると、さらに体を密着させたアルベルトに、指の背で頬を撫でられた。


「お前は俺が、どれほどお前を求めているかを知らないだけだ」


 耳朶じだを食むようにして囁かれ、ますます体が強張った。屈辱めいた感情から、恥ずかしさの意味合いが思いがけなく変容する。動じているのだ。想いを寄せる相手の吐息と体温に。


「だが、今からそれを知ることになる」


 ふいに語気を強めたアルベルトに、サリオンは顔を振り向けた。間近で目と目を合わせると、体が痺れたようになる。四方を囲まれ、逃げ場を失い、じりじり隅の方へと追いやられている。それが鼓動を昂ぶらせている。

 甘美な期待と恐れを胸に、突き刺すような目をした男に狩られる時を待っている。


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