第十八話 懺悔

胸ぐらを締め上げられたサリオンは額に冷たい汗をかく。

金と真珠がトングに煌びやかにあしらわれたサンダルの爪先が、

ほとんど床から浮いていた。


「よくも俺にそんなこと……」


鼻と鼻が触れ合う近さで責められた。

アルベルトの目は血走って、こめかみ辺りに青筋を葉脈のように這わせていた。

サリオンは首元をきつく引き絞るアルベルトの手に無意識のうちに爪を立て、

眉間の皺を深くする。

息ができずに頭の中が白くなる。

このまま絞め殺されるか失神するかのどちらかだろうと覚悟をしかけた時だった。

我に返ったかのようにアルベルトの目に光が宿り、

両手をいきなり離される。


床に崩れ落ちたサリオンは、背中を丸めて咳込んだ。

瞬時に首から上が熱くなり、眩暈と吐き気に襲われる。

激しくえづいたサリオンは、頭をぐらりと揺らして倒れた。

広間には、ぜいぜいと鳴る息のだけが鳴り渡る。


「……サリオン」


アルベルトが茫然とした声を出す。

自分で自分のしたことが受け入れがたいというような懺悔の色が混ざっていた。


「すまない、サリオン。……悪かった」


床にひざまずいたアルベルトに、ゆっくり体を起こされる。

サリオンのこめかみを伝い流れる珠の汗を、

アルベルトは肩にかけたトガの布で拭いつつ、サリオンの乱れた髪を梳き直す。

きれいな爪の持ち主は、肌に触れる指先に悔恨の念を滲ませる。

凛々しい眉をひそめた顔が、眇められた双眸が、真摯に許しを求めている。


答えたくてもサリオンは胸を大きく喘がせて、ひたすら呼吸を続けていた。

庭の木立のざわめきが部屋の中まで聞こえている。

こずえを揺らした一陣いちじんの夜風が収まり、静けさだけが残された。


「……アルベルト」

「待て、サリオン」


口を開いたサリオンを制してかかえ上げ、アルベルトは長椅子にそっと横たえた。

クッションを頭から背中の下に潜り込ませ、サリオンの顔の近くで立て膝をつく。顔を向けると、精悍な美貌の男の薄茶色の瞳が小刻みに揺れている。

アルベルトのほのおのような憤怒は鎮まり、

切なげな目顔で話の続きを促される。


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