第八話

宮殿の正面扉から続く華麗な廊下を直進した後、右に曲がり、

しばらく歩いて再び右折や左折をくり返した。

奥まった領域にある廊下の片側には、半円形の窓がずらりと並んでいる。

そして、もう片側には月桂樹のレリーフに金箔を貼った装飾的な漆喰しっくい壁と、

大理石の柱と重厚な木製扉が続いていた。

どれも優雅で繊細ではあるものの、正面玄関から続いた廊下に比べれば、

華美な装飾は減っている。


どうやら、公の場から皇帝の居住区域に移動しているような気がした。

壁に直に取りつけられた燭台の数も減っている。

窓からしゃに射す月明かり。

大理石の廊下に映し出された窓枠の影が静謐さを感じさせた。


「どこまで連れて行く気だよ」

 

まるで迷路を延々と歩かされているようだ。

サリオンはうんざりしながら問いかけた。すると、サリオンの腰から肩へと右腕を移動させたアルベルトは、楽しげに一笑した。


「お前が一人で宮殿から抜け出すことができなくなるまで」

「勝手に帰れなくするつもりかよ」

「ああ、そうだ。ここまで来れば、お前が今すぐ帰りたいと思っても、案内なしでは宮殿からは出られない」

「俺は、どこで何回廊下を曲がって来たのかぐらい覚えてる」

「だとしても、俺の許可なく帰ろうとすれば、衛兵が捕らえる」


サリオンは、不敵な笑みを浮かべて自分を見下ろす男を、

憎々しげに見上げて睨んだ。


「……このまま軟禁する気じゃないだろうな?」

「それは今夜のお前の返答次第だ」


皇帝アルベルトの宮殿は敵地であり、戦場なのだと知らしめるような宣告だ。


「何にしろ、この宮殿のどこに何があるのかを少しでも覚えてくれたなら、それはそれで有難い。近いうちに、お前もここで暮らすんだ」

「誰が決めた? 俺はそんなことは一言も言ってない」

「それなら何の為にここに来た? 二人きりで話がしたいと言ってきたのは、お前の方だぞ?」


ぐっと喉を詰まらせたサリオンに流し目をくれてアルベルトが、

ふっと口元を緩ませた。


何としてでも自分ではなくレナとの間に子供をもうけるように、

画策しに来たなどとは、迂闊うかつに言えないサリオンは、憮然と横を向くしかない。

アルベルトは含み笑いをこぼしたあと、

サリオンの柔らかな金髪をくしゃりと片手で掻き混ぜた。

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