第七話
床と壁は白大理石だが、柱は大理石に薄灰色の流線模様が入っている。
長大な廊下の片側には、半円形の窓ガラスを
明かり取り程度の窓にさえ高価なガラスを
窓を板で塞いだβ階層の庶民も多くいる。
にも関わらず、巨大な鏡が壁の装飾として惜しげもなく用いられている。
サリオンは、そのこと自体に驚愕した。
鏡と鏡の間の壁には、
何本もの蝋燭が炎を揺らめかせている。
反対側には、半円型の本物の両扉開けの窓ガラスが連なって、
入り組んだ宮殿の外観や、
噴水を中央に据えた庭園を歩きながら鑑賞することができる。
窓と窓の間に置かれた神話の神々の彫像も、自然に視界に入ってくる。
そして、窓際には漆黒の宝石オニキスを土台にした、
見上げるような燭台がずらりと並び、
金箔で彩られた窓枠や天井の
天井はといえば、丸く盛り上がった
朝日の女神が色鮮やかに描かれた天井画。
涙型の水晶で形作られ、ずらりと吊り下げられた巨大な天井灯。
蝋燭の炎と金の輝き、ガラスと鏡の共演だ。
夜の闇がその煌めきを際立たせ、どこを見ても
ここが今、自分の腰に腕をしっかり回している美しい男が住まう場所。
サリオンは傍らの彼を仰ぎ見た。
これまで彼の何を見て、知ったつもりでいたのかと、自分自身に問いかけた。
ここにいるアルベルトこそが本当の、あるべき姿のアルベルトなのだ。
βの下層階級の居住区や貧民窟にも
その豪胆さは、アルベルトが階級社会の頂点に立つ唯一無二の男だからこそ、
持ち得る度量だ。
一大帝国の皇位を継ぐべくして生を受けた王者だという確信が、
戦慄になって体の深部を走り抜け、頭が白くなっていく。
こんな男を説き伏せて、レナとの間に子供を作れと言えるのか。
勢い勇んでいたはずの胸の中に暗雲が垂れ込め、
眼前の現実が肩に重くのしかかる。
ぽかんとしたまま四方八方を見回したサリオンの視線が、
次第に足元に落ち始める。
廊下には快活なアルベルトと、後続の側近達の足音が響いている。
しかし、アルベルトに腰を抱かれたサリオンは、
雲の上を歩いてでもいるかのように足元がおぼつかない。
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