第八話

 

宴席では広間のそこかしこに腰高の丸テーブルが配膳台として幾つも置かれ、

下男達は一時的に置かれた配膳台から、

銀の皿に盛られた料理を丸テーブルに並べては、

粛々と広間を立ち去った。

供されたのはオリーブの実のオイル漬けや山羊のチーズ、

網焼きにされたいわしさばや焼き牡蠣や、串焼きにした猪肉ししにくなどだ。

 

脚の低い楕円型のテーブルを中心に据え置き、

馬蹄形ばていがたしつらえられた三つの臥台がだいには、

淡い空色のシーツが掛けられて、金に近い黄色や薄紫など、

色取り取りの大きなクッションが添えられた。


左右の細長い臥台には、

宴席にのみ招待されたクリストファーの友人が一人ずつ腹這いに寝そべって、

定番中の定番料理に早速手を伸ばしている。

横這いになって左の脇にクッションをあてがい、右の手で料理を摘む者もいる。


料理は予め一口大に切ってある。

そのため、楊枝ようじを使わず、手づかみで食べるのだ。

階級の低い男娼が彼等の左右に腰をかけ、

会食者の銀杯が空になれば水差しでワインを注ぎ、

ソースや調味料で汚れた客の手を水の入った深鉢で洗い、

美しい刺繍が施された麻布で拭いていた。


馬蹄型に並べた臥台の正面席には、饗宴の主催者のクリストファーと、

今夜の相方のレナがつく。


クリストファーも、招待客達と円型闘技場で戦う剣闘士達の評判や、

下世話な噂話に至るまで、冗談を交えながら会話を楽しみ、

しきりにレナにも話題を振る。

最もレナはアルベルト以外の男の前では口数が少なく、

笑顔ですらも滅多に見せない。


宴席の終わりを知らせるデザートの果物が運ばれるまで、

場を湧かせるのはクリストファーが招待した明朗快活な友人と、

広間の窓辺で竪琴や笛やタンバリンを奏でる楽士の役目だ。

そんな可もなく不可もなくといった饗宴で、

サリオンは『廻し』として宴席の進行を司る。

空いた皿を下げるため、ちょうど広間に入ってきた下男をそっと手招いた。


「少し早いが、デザートを持って来てくれ」

と、長身の下男に囁いた。


デザートとしてクリストファーが注文したのは、リンゴと葡萄と無花果いちじくだ。

背の高い下男は身を屈め、サリオンの口元に耳を寄せると、軽く頷き、

中央の丸テーブルから空になった銀の皿を何枚か重ねて片手で持ち、

諾々と広間を去る。

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