第五十七話


「あと少しで大引けの時刻になる。今夜はもう新規の客は受けないし、饗宴を済ませた客達も床入りしている頃だろう。皆も少し休んでくれ。俺も部屋に戻って仮眠を取る」


いつものように労いの言葉をかけた後、彼等に背を向け、大階段を下り始めた。

レナの側付きとしての役割を下の者に押しつけた自責の念が、

ひと足ごとにこみ上げる。

サリオンは、しんとなった踊り場の、ぎこちない空気を背中に感じて

厳粛に顔を曇らせた。


きっと皆も違和感をいだいているに違いない。

レナも待っているはずだ。


アルベルトがレナの居室を飛び出したまま戻らない。

どういうことだと半狂乱で側付きの自分を待ち構えているだろう。

そんなレナへの対応を、他の下男に任せてしまった。

自分は逃げた。

サリオンは後ろめたさに苛まれながら、大階段を下り切った。


宴席を終えた客達が床入りになれば、しばらく下男の出番はない。

それぞれの男娼の側付きは、客が予め決めた退室時間になった際、

居室を訪ねて宴席の費用を含めた代金を、求めなければならないが、

それまでは食事をしたり仮眠するなど、思い思いに過ごしている。

 

アルベルトのように男娼を一晩買い占めた客の支払いは翌朝だ。

本来ならば日が昇るまで、レナの居室に赴く用事は何もない。

ただし、今夜もアルベルトに袖にされ、

泣きじゃくるレナに友人としても側付きとしても寄り添うべきだと、

自分の中から声がする。


それでも足はレナの居室から遠ざかる。


レナの辛さは、よくわかる。

けれども自分も生きたオモチャにされかけた。

それも饗宴を盛り上げる余興としての輪姦だ。

解放された今になって、悲憤と怖気おぞけが嵐のように吹き荒れて、

爆発しそうになっている。

頭の中はモヤがかったようになり、まともに思考が紡げない。


下男達に廻しとしての最低限の采配を揮っただけで。疲労困憊し切っていた。

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