第二十五話 なぶり殺し


「俺のつがいはテオクウィントス帝国の軍人に、なぶり殺しにされたんだ。その侵略国の皇帝の愛人になんて死んでもならない。だから、レナ。アルベルトが俺をどんなに口説いてきても大丈夫だ。俺はアルベルトだけは許さない」


サリオンはレナの滑らかな金髪を梳き撫でながら言い聞かせた。

声に出して言うたびに、アルベルトへの憎悪がみなぎる。

そして同時に、ついさっき、アルベルトが持つ抗い難い魔力に毒され、

鼓動を昂ぶらせていた自分を深く恥じ入った。


「だけど、お前がアルベルトをそれほど好きなら、お前がアルベルトのつがいになれるように手を尽くす。大丈夫だから心配するな」

「……サリオン」

 

ようやく顔を上げたレナの頬が、可憐な涙で濡れていた。

アルベルトはレナの気持ちを知りながら、

公娼において最高位の昼三男娼ひるさんだんしょうのレナではなく、

奴隷の側付きにばかり、つきまとう。

だからといって公娼における規律として、以外に手を出すことは、

許されない。


公娼ではダビデが提督だろうと、アルベルトが皇帝だろうと、

その規律にだけは従わざるを得ない権限を持っている。

その権限を与えた当の本人が、

ではない奴隷の廻しにまとわりついて何になる。


今や帝国一の美少年と誉れも高いΩのレナに籠絡されたと、

思われたくない虚栄心から、レナを焦らして優位に立とうとしているのか。

誰から見てもレナの方から堕ちたと思わせたいだけか。

だとしたら、その目的は充分達成されているはずなのに、レナを袖にし続ける。


サリオンは、レナが腰掛ける長椅子の隣に座り、レナの頭をかき寄せる。

何につけても行動の真意を誰にも悟らせない。

それが広大な領土を統治する皇帝の度量といったものなのか。


「お前が幸せになれるなら、どんなことでもしてやるから」

 

サリオンは故国を滅ぼし、つがいを奪った仇の国の皇帝に、

たじろぎながらも渾身の力で彼を跳ね除けるべく、固く奥歯を食いしばる。

そして、肩口に抱き寄せたレナの濡れた金髪に、

決意も新たに口づけた。

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