第九話 特権階級御用達

一方、サリオンが『廻し』を勤める公娼は、中庭付きの二階の戸建てだ。

外壁には宮殿と同じ青灰色の石灰石が用いられ、

床は色鮮やかなモザイクで、幾何学模様がかれている。

 

回廊で囲われた長方形の中庭の豊かな樹木の木陰には、

大理石の長椅子も置かれていた。

館を訪れた者達は、昼間は庭で日光浴を楽しんだり、夜は噴水の水音を聞きながら月や星を愛でている。


建物の中には饗宴の間も多くある。

饗宴を催すための大広間は、見上げるような円天井だ。


神話をモチーフにした色鮮やかな天井画が一面に描かれ、

白の漆喰壁や柱には蔦文様つたもんようの彫刻がほどこされ、金箔で眩く彩られている。

床は高価な白大理石だ。

 

公娼に来たα階級の王侯貴族や軍人や、β階級の富裕層は、

Ωの高級男娼をはべらせながら、

まずはそうした饗宴の間で、食事と一緒に楽士の演奏、踊り子達の余興を楽しむ。


程よく酒もまわったところで買ったΩの男娼とともに、

別階の寝室へと移動して床入りし、

男娼を孕ませようと、やっきになるのだ。一晩中。


とはいえ、王侯貴族のα階級御用達の公娼だろうと、

β階級貧民層相手の男娼だろうと、していることは全く同じだ。

最下層階級のΩの男の尻に、みなぎる性器をぶち込んで、

好きなだけ勝手に腰を振り、満足したら射精する。

 

それの何が違うのか。


それなのに貧民窟の男娼Ωと、自分が働く公娼のΩが受ける大差の扱い。

それぞれにたどる運命も、どうしてこんなに違うのか。

どうしてΩは何ひとつ、自分の意思では選べないのか。凌辱されるだけなのか。

サリオンは考えるだけでやるせなくなる。

腹立たしくなる。

その苛立ちと鬱憤を、皇帝に全部ぶちまけたくなる。


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