第五話 一縷の望み


 ところが、テオクウィントス国の男達が性交しても、唯一発病しなかったのがオメガの男だけだった。


 この奇病は、テオクウィントス帝国の男達全階級の生殖に、何らかの影響を及ぼしたことは確かではあるものの、性交しても他国のオメガ男性も、女性のように発症しない。


 十代前半から三十代前半までの若いオメガの男達は健康体で生き延びて、三週間に一度、一週間前後という一定の間隔で発情し、交尾相手を求めるフェロモンも発している。


 アルファ、ベータの男達は、同じアルファやベータのみならず、オメガのフェロモンに接すれば欲情し、オメガの男とも性交する。

 その際、受胎したオメガの男が出産するのは、劣性遺伝のオメガの子供だ。

 劣性遺伝のオメガしか生まれなくても、オメガの男達との間なら子供ができるかもしれない。


 そんな一縷いちるの望みに縋るように、テオクウィントス国の上流階級の男達は、血眼になって性交している。

 オメガの中でも選りすぐりの美少年や美青年ばかりを集めた、王宮近くの公娼こうしょうで。


「そこまで言うなら賭けてもいいぞ。じゃあ、俺もダビデ提督に銅貨一枚賭けてやる」

「俺は、どっちにも賭けねぇな。アルファ連中がオメガ相手に性交しても、子供ができたって話はひとつも聞かない。子供ができれば国だって、号外ぐらいは出すだろう。結局、性交できても受胎しないか、受胎はしても流産するか死産するかの、どっちかに決まっている」


 賭けるという者、賭けないという者。

 賭けるとするなら、やはりアルベルト皇帝だと言う者や、サリオンのように確率の低いダビデ提督を、あえて選んで儲けると意気込む者とで円卓が大いに沸いた。その時だ。


「それなら俺もダビデ提督に金貨十枚、賭けてもいい」

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