すれ違い

「ったくよ、手間とらせやがって・・・」

愁人はそう言いながら腕や足に付着している砂を払い落とす。

愁人の目線の先には自分の無理やり外に連れ出し、一騎打ちを望んできた小野がボロボロの状態で倒れていた。

「うっ・・・うう・・・」

小野は声にならないような声をだすと白の髪は元の黒髪に戻り、肌は典型的な肌色、そして浮き出た血管や痣もきれいに消え自分が敗北したということを再度思い知らされていた。

愁人はそんな小野から目線をずらしポケットから霊玉の入っている袋を取り出す、小野との戦闘に結構な霊力を消耗してしまった愁人にとっては例え敵軍が作り上げたものでも目をつむって、それを体内に収める必要があった。

「・・・・・・」

愁人は紫の霊玉を見つめる。


「これは?」

愁人は幻霊館の兵士の証である制服を身に纏い、自分たちの隊長に質問をする

「それか?それはな霊玉だ。まあ、簡単に言ってしまったら我々が生きていくために必要なアイテムといった方が分かりやすいかな。

隊長は愁人と同じく、2番隊に入隊してきたばっかりの兵士たちに説明を始めた

「その霊玉はな、1つ食べれば2週間は霊力を補充しなくても大丈夫な代物だ。まあ、生者の世界では3日ほどしか持たないが・・・」

その声に愁人は疑問を抱く

「生者?それって我々が生きている間にいた」

「そうそう、仮の話なんだが、なんらかの事情でこの白命郷の住人が生者の世界に行くことがある。だからお前たちにその何らかのために備えて、一人3個ずつ給付しておく。その際にはこの霊玉は必要不可欠になるから覚えておくように。」

兵士たちは驚きの顔をしたり、メモをとったりする

しかし、愁人はその説明を聞いた後一つの疑問があった。

「あの、隊長」

「うん?なんだ?」

隊長は振り向く

愁人は隊長が振り向いたのを確認すると、その霊玉を見つめて再度隊長に目を移す。

「これって・・・」

そして口を開く

「なぜ赤いのですか?」

「・・・・・・」

隊長は顔をすこし難しい顔に変えしばらくの沈黙の後答える。

「それは・・・・我らが白命郷のものという証だからだ」

隊長の返答に愁人や他の兵士たちはざわつく

「・・・どういう意味ですか?」

愁人は隊長に真剣な表情で問いかける

「実は・・・」


ひょい

愁人は五日の記憶を思い出し紫の霊玉を口に放り込む

勿論味はない。しかし愁人にとってはそれは当たり前の事であった。

自分達には味覚がないからということもあったがそれ以前に、この霊玉には味はないと心のどこかで決めつけていたからだ。

もし仮に味があったとしても、この闇を思わせるような色をしている霊玉を味わいたくなどない。愁人は自分の味覚がないことに感謝をした。

「・・・・・・・」

(それは本当ですか!?)

(ああ、もともとこの霊玉は奴らが作り上げたものだ・・・それを我々は何度も何度も研究してこれを・・・)

ゴクリ

愁人は敵軍が開発した霊玉を飲み込み皮肉さを感じる。

(奴らの開発したもので、俺や明日音姉ちゃん達がこの生者の世界に来ることが出来るなんて・・・)

やるせない皮肉感を抱きつつも愁人は心の中で辰臣の顔を思い出す

「辰臣師匠、あなたの命がけで入手してきた戦利品のおかげで私たちは今ここにいることが出来ています!・・・ですので彰吾殿の事は任せておいてください。彼は必ず、私たちが止めて見せますので!!」

愁人はそう独り言を呟き、校内に戻ろうとする。

ガシっ

「ん?」

愁人は戻ろうとする自分の足を何者かが掴んだ感触に襲われ、足元を見る。

そこには先ほど自分との勝負に敗北した小野が体を引きずらせながら自分の足を掴んでいる光景があった。

「何してんだお前?・・・まだやるってのか」

愁人は小野に向かってそう問いかける

「き・・・貴様に・・・」

「は?」

小野は声を大きくする

「貴様に!!我々の気持ちがわかるか!?」

小野はそう言いながら目を見開き愁人をにらむ

しかしその小野の目は赤色からもとの動向が閉じている黒に戻っていた。

「・・・・・・・」

愁人は返答をせずにただ自分の足を掴んでいる小野を上から見下ろす。

「貴様なんかに・・・貴様なんかに!教え子からバカにされ続け、鬱で退社を選び、そのまま衰弱死していった私の気持ちなんて・・・!!」

小野は愁人の足を強くつかむ。

「分かるわけねえだろ、んなもん」

愁人は小野の手を払いのけ昇降口に向かって走っていった

小野はそんな愁人の去っていく姿を見ながら最後の力を振り絞って声を出す

「ち・・・・ちくしょう・・・・!」 

シュウウウ

そんな小野の体に終わりを告げるかの如く消滅は始まり、1分も立たないうちに小野の体は綺麗さっぱり無くなった。



「彰吾殿!!」

愁人は昇降口を開け目の前にある廊下に向かって大声を出す。

しかし、もうそこには彰吾の姿はなくそこにあったのは気絶をしている雄二、そして先ほど彰吾が始にかぶせたコートだけだった。

「これは・・・」

愁人はそのコートの所まで行き、そのコートが彰吾の所有物だとわかるとすぐさま方向転換をして1階の渡り廊下から別棟の校舎へと走っていく。

「霊力の暴走だけは勘弁してくれよ・・・辰臣師匠もそれは絶対に望んではいない・・・聞こえていたら返事をしろ彰吾!!」

愁人は焦りと恐怖、そして怒りを抱いたまま走る。




「進め!!前進あるのみだ!!」 「うおおおおおおおお!!」

「・・・・行け」 「・・・・・・・・」

霞の号令で兵士たちは命令通り突進をしていき、臥螺奇の部隊は臥螺奇の指した指の方向に従って進んでいく。

馬と馬がぶつかり合い、武器と武器が弾け、悲鳴を上げる者、上げる前に殺される者。

その姿はまさに争いというのにはふさわしすぎていた。霞は次々に散っていく兵士たちを目で見ながら心の中で嘆きそして、進んでいく。

兵士たちが倒れていく中、その先で指令を出している臥螺奇の姿がはっきりと霞の目には見えてきていた

「あの男が奴の率いる隊長の一人・・・にしてもなんて気味の悪いマスク・・」霞は顔をしかめらせながら臥螺奇の所まで足を運ぶ。

臥螺奇はそれに気づいてはいたが自分たちの兵士が白命郷の兵士たちと戦闘を繰り広げている中自分を守ってくれている兵士など指で数えるぐらいしかいなかった。

しかしその兵士たちは霞の前では造作もない、兵士や次から次へと倒されていき指の本数が一つ一つと折られていく。

「ああ・・・あっあ・・・」 「ぎぃ・・・い・・・・」 「臥螺奇隊長・・・」など兵士たちの苦痛の声が響いている中、臥螺奇は霞と一騎打ちの状態で対立していた。

「貴様、憐と同じ隊長だな?」

臥螺奇は答えない。

見て見ると臥螺奇は自分の兵士たちが殲滅するとは思ってもおらず不気味にほほ笑んでいる仮面をつけたまま汗を流す。

恐らくこの仮面の下では、あまりの予想外の結果に焦り打つ手なしという顔をしているのだろうと霞は勝利を確信して手に持っている薙刀を構える。

臥螺奇も同じく左右についているドスを両手に持つが未だにぶるぶると震えていた。

「なぜ震える!貴様も隊長の一人なら震えずに本気で私と戦え!!」

「・・・・・・」

しかし臥螺奇は小鹿の様に震える

霞はそんな臥螺奇に痺れを切らして薙刀を振りかざす。

ザシュッ

鋭い音が臥螺奇の体を襲った




「はあ、はあ・・・・」

龍之介は自身の部屋で椅子に座りながら汗を流している

龍之介はひじ掛けを両手でしっかりと握って目を閉じ呼吸を整えて念を使う。しかしうまくはいかない

時々通信がうまくいくことはあるがすぐに切れてしまい、そのたびに何度も何度も霊力を消耗してしまう。

「くそっ・・・やっぱり生者じゃあ、愁人君や彰吾君とは違って無理があるのかな?」

龍之介はそう言い窓の方に目をやる。そこからははっきりとは見えないが結界が敗れた先にある禍々しい黒命郷の光景や、兵士たちの雄たけびなどが龍之介の耳に嫌というほど入り、龍之介は今、白命郷を守るために自分の兵士たちが身を粉にして戦っている姿が容易に想像できていた。

「はあはあ・・・負けるか、この証に誓って!!」

龍之介は服をめくり、自分の胸に刻まれている幻霊館の主の証を目で確認し、再度念を使って通信を行う。

「お願いだ・・・頼むから繋がってくれ・・・君に伝えたいことが山ほどあるんだ!!・・・そして・・・謝らせてくれ。木葉ちゃん!!」



「え!?」

木葉は突如自分の脳に誰かがはっきりと自身の名前を呼ぶ声が聞こえ、それに反応した。

「なに、どうしたの!?」

灯は突如声を上げた木葉の方に振り向く。

「いま・・・誰かが私を呼ぶ声が・・・」

木葉がそう口を開いたとき

「木葉ちゃん・・・木葉ちゃん!?僕の声聞こえる!?」

幻霊館にいる龍之介はあまりの嬉しさにその場で立ち上がる

「その声は・・・龍之介様!?」

木葉は以前から聞こえていた謎の声が龍之介だと気づくと天井の方に目を向ける

「ちょっと木葉!急に何」

「龍之介様!今どこにいらっしゃるのですか!?」

木葉は灯の声を聞かずに天井や廊下の奥、階段、窓から見える外の景色に顔を向けながら龍之介を探す

しかしそこには当然の事ながら龍之介の姿はどこにもない

「ごめんね木葉ちゃん。実は僕今、白命郷にある幻霊館から君に通信を送っているんだ」

龍之介は申し訳なさそうに木葉に伝える

それを聞いた木葉は驚き目を見開く

「え、幻霊館!?」

「だからあんたさっきから何言ってんのよ!!」

灯の怒りの声にも木葉は驚き灯の方に目をやる

「ああ、その・・・なんていうかこれは・・・」

木葉はうまく説明が出来ずしどろもどろな状態だった。

「木葉ちゃん、そこに君以外で誰かいるの?」

龍之介は木葉の異変に気付き声をかける

「あ、はい。今私の近くに灯ちゃんがいます。」

「ちょ、ちょっと!!」

木葉の回答に龍之介は安心する

「灯ちゃんか・・・だったら問題ないね」

「あの、龍之介様・・・」

「ん?なんだい?」

龍之介は木葉の声に耳を傾ける

「なんで・・・私の脳に直接語り掛けることが出来るんですか?それに・・・私の何のご要件が・・・」

木葉の言葉を聞いて龍之介は難しい顔をする

「それなんだけど・・・・えーと・・・何から話せばいいのかな・・・」

龍之介の普通じゃない口調を聞いて木葉は今自分の身に起こっている不可解な事を思い出す

「もしかして・・・あの男の人と関係あるんですか?」

「あの男・・・ひょっとして彰吾君の事かな?」

「え?知ってるんですか!?」

木葉は龍之介の返答に驚き、それを見ていた灯も木葉の突発な謎行動に疑問を抱きつつも木葉の会話を見つめる

「ああ、彼は明日音ちゃんたちと同じ白命郷の管理人だ」

「明日音さんと・・・同じ?・・・」

木葉は背筋に妙な冷たさを感じた

「でも、木葉ちゃん勘違いしないでほしいんだ、僕たちは決して君を悪くしようなんて思っていない、むしろ助けたいと思っているんだ!!」

龍之介は木葉に誤解を解くようにそう言ったが木葉の脳内は恐怖で支配されていた

「木葉ちゃん?」

「木葉?」

龍之介と灯は返事をしない木葉に声をかける

「殺す・・・」

「え?」

木葉は恐怖を抱きつつも声を出す

「あの人・・・私を殺しに来たって言ってました・・・」

木葉はあの時のナイフを持ちながら自分に向かってくる彰吾の姿を思い出す

「な!・・・殺す!?」

龍之介は木葉に伝えられた真実を聞き驚愕する

(そんな・・・どうして彰吾君が木葉ちゃんを・・・はっ、もしかして彰吾君は・・・!!)

龍之介は彰吾の心情をある程度推測すると木葉に優しく語り掛ける

「だ、大丈夫だよ木葉ちゃん。それはきっと・・・ほら君を驚かそうとしているだけだから、もうすぐでハロウィンでしょ?だから・・・」

「じゃあ、あの時明日音さんが私たちにくれた飴玉はそのハロウィンのお菓子だったって言いたいんですか・・・」

木葉は両手で自分の腕を抑え震えながら龍之介に問う

「こ、木葉?あんたどうし・・・」

「答えてください!龍之介様!!」

「こ・・・木葉・・・」

灯の目に写ったのは下を向いて涙を流している木葉の姿だった。

「飴玉・・・それがどうかしたの?」

龍之介は自身が提案した計画の一つである飴玉に指摘をされ、鼓動を鳴らしながらも木葉に問い返す

「あの時から何です・・・私の体がおかしくなったのは・・・」

木葉は両腕に更なる力を入れ自身の身におきた出来事を龍之介に伝える

「おかしくなった・・・それは一体・・・?」

灯は瞬時に察する

「木葉、あんたやっぱり・・・!」

「私・・・寒いんです・・・それに味が・・・しないんですよ・・・明日音さん達みたいに・・・!!」

龍之介は木葉の震えながらしゃべる声を聞いて再び驚愕する

(な・・なんで・・・だって、明日音ちゃん達にはちゃんと、白命郷の霊玉を・・・!)

龍之介が心の中でそう思考をしている中

「もしかして・・・」

木葉が口を開く

「もしかして・・・飴玉ですか?・・・あの時明日音さんが私たちにくれた・・・!!」

「飴玉?」

灯は木葉の必死な訴えに不思議な顔をする

「あ・・・・」

龍之介は汗を流しながら木葉に核心を突かれた

「あの時、明日音さんが私と灯ちゃんに飴玉をくれたんです・・・・でもその飴玉、妙に味が薄くて・・・それに明日音さんや龍之介様・・・おかしいほどに私たちを歓迎していましたよね・・・?」

「ち、違うんだ!木葉ちゃん!!」

「何が違うんですか!?それからなんですよ!私の体がおかしくなったのは!!」

木葉はそう言いながら両手を下ろし、龍之介のいない天井に顔を上げ大声で叫ぶ

「木葉・・・・」

灯は木葉を何とも言えない目で見ることしかできなかった

木葉の目に写っている天井は涙で滲んでいた

龍之介は動き過ぎて破裂しそうな心臓に耐えながらも木葉に語り掛ける

「木葉ちゃん、よく聞いてくれ・・・確かに君の言う通り、明日音ちゃんが君に渡したのは飴玉じゃない。でも・・・」

木葉はその言葉を聞いて錯乱する

「じゃあ・・・じゃあやっぱり!!初めから私達を狙って!?」

「違うんだ木葉ちゃん!!僕の話を聞いてくれ!!!」

錯乱状態の今の木葉には龍之介の必死な訴えなど届くわけがなかった。

「木葉!落ち着いて!!」

灯は今まで見たことのない自分の親友の姿に驚きながらも木葉お落ち着かせるべく声をかける

「・・・・てたのに・・・」

「え?」

木葉は両手で頭を抑えながら涙を流し、今度は灯の耳にも聞こえるようはっきりと声にして叫ぶ。

「信じてたのに!!・・・・」

木葉の顔はまるで、仲間から裏切られた者のように絶望や悲しみよって悲痛な表情に変わっていた。

「あ・・・この・・・は」

灯はそんな表情の木葉を見て声を失ってしまう。

「木葉さん!!」

下の階段から木葉を呼ぶ声が聞こえた

木葉と灯はその声の方に目をやる

そこには、先ほどの立中との戦闘によりボロボロの着物を身に纏って、髪が乱れながらも必死な形相でこちらを見つめている明日音の姿だった

「あ、あんたは・・・」

灯は明日音の方に目を向け声を出す。

「いや・・・」

木葉は明日音の姿を見た瞬間、体がさらに凍り付き涙が流れる。

「木葉さん?」

明日音は訳も分からずに木葉のいる4階への階段を一歩一歩と踏んでいく

しかし、今の木葉にとっての明日音の姿は以前の優しさにあふれている可愛い案内人の女の人ではなく、可愛らしい人の顔の皮をかぶった悪魔のように見えてきた。

「いや・・・いや・・・!」

木葉は明日音が近づくにつれて一歩ずつその場から後ずさる

「木葉さん?一体どうし・・・」

「いやあああああああああ!!!!」

木葉はそう叫びながら4階の廊下を猛ダッシュする

「木葉!」

「木葉さん!?」

灯と明日音は全力疾走していった木葉を追いかけようとした

ズキンッ・・・!

「うっ・・・!」

しかし、明日音は先ほどの戦闘により結構な霊力を消費し尚且つ、相当なダメージを追っていたため木葉を追いかけることはできなかった。

明日音は痛みに襲われながら階段の途中で座り込む

「木葉さん・・・どうして・・・私を見て・・・」

明日音は痛みに耐えながらも木葉を助けるべく階段を一歩ずつ上っていく。




「木葉ちゃん!?木葉ちゃん!?僕の声聞こえる!?」

龍之介は念を使い、やっとの思いで交信することのできた木葉と通信が途切れてしまったことにまたしても焦ってしまう。

「木葉ちゃん!木葉ちゃん!!・・・・・なんでこうなるんだ・・・!!」

龍之介は先ほどの木葉の悲痛な訴えを思い出し唇をかみしめる

「どうにかして、木葉ちゃんの誤解を解消しないと・・・。このままだとやばすぎる展開に・・・!!」

龍之介は口を開き最悪の事態を予想する

ドンッ!!

「ぐわっ!!」

その時龍之介の自室の外から謎の破壊音と、自分の周りの護衛をしていた守護部隊のやられ声が聞こえてきた

「何だ!?」

龍之介は扉の方に目を向ける

ガチャッ

その扉が開かれ傷だらけの守護部隊の一人が報告をする

「龍之介様、申し上げます!!ただいま、黒命郷の兵士と思われるものが侵入した模様!!・・・今現在の軍力では対応は難しいかと、ぐへぇえ!!・・・」

報告をしに来た兵士は侵入者に切り刻まれ血を流しながら倒れる

「君!!」

龍之介が倒れた兵士に声をかけるがもうその兵士に息はなかった。

唖然とする龍之介の部屋に侵入者が足を踏み入れる

トントントントン

「お忙しいところ大変失礼いたします。あなた様、白命郷の主である龍之介様とお見受けいたします。」





「木葉ーーー!!」「木葉ーーー!!」

灯は先ほど自分の元から去っていった木葉を探すべく声を大にしながら探索をする

しかし、灯の願いは届かず木葉の姿は見当たらなかった。

「木葉・・・あの子どうしちゃったのよ全く・・木葉ーーーーー!!!」

木葉ーーーー 木葉ーーー 木葉ーー 木葉ー 木葉 木葉・・・・

廊下内に自身の声が響く

灯はそんな光景を目にすると今さっきの木葉の投げ位の顔を思い出す。

(信じてたのに!!・・・・)

「・・・木葉があんな顔をするなんて・・・」

灯は胸に悲しみを抱きながら心の中で呟く

(もしかして・・・私が本当に木葉と白命郷へ行ったことを忘れているんじゃ・・・)

その可能性を考えた灯は再度木葉を見つけるため足を動かし、声を上げる

「木葉ーーーー!!木葉ーーーー!!お願いだから出てきてーーーーーー!!!」

(木葉・・・ごめんね・・・)

灯は涙を流していた。





「うっ・・・うっ・・・・ひぐっ・・・・」

木葉は別棟の2階の奥にある美術室の前の柱に身をひそめる形で体育座りをしていた。

「・・・ひぐっ・・・ぐすん・・・うぇ・・・」

木葉は涙で自身の着ている制服の長袖を濡らす。

しかし、いくら濡らしても木葉の涙は止まることを知らなかった

「なんで・・・・うっ・・・・どうして・・・・」

木葉は白命郷での楽しかった思い出を思い出す


(ようこそおいでくださりました、可愛らしいお客様方。)

(はえ~いきなりこの街の原点へ足を運ぶとは、お嬢さん方お目が高いですな~)

(まったくそのとうりだ!!がはははは)

(・・・・・・・)

(やあ、よく来てくれたね。)


明日音や船乗りのおじさん、友數師匠や晴太そして、自分たちが迷い込んだ白命郷の主である龍之介の笑顔が木葉の脳裏に蘇る

木葉はそんな彼らの笑顔を思い出すと、やはりこの現実を受け止めることが出来なかった

「どうして・・・・あんなに皆さんいいひとだったのに・・・・ぐすん」

(たまに気分転換でこういうのを食べたりもします。よろしければお二人もどうぞ)

木葉は笑顔で自分たちに飴玉をあげる明日音の姿を思い出した。

「全ては・・・あの人たちの演技だったっていうの・・・・」

木葉はさらに膝に顔をうずめる

(もう私、これからどうすればいいの?・・・・みんなからは裏切られて、殺されかけて、体はおかしくなって・・・・もういつもの平和な日常には戻れないの?)

心の中でそう考えた木葉はさらに悲しむ

(嫌だ・・・そんなの絶対に嫌だよ!!・・・・嫌だよ、嫌だよ、寒いよ・・・・)

木葉は寒さから、より体を縮こませる

(助けて・・・誰か助けて・・・! 灯ちゃん、優君、風君、お母さん、お兄ちゃん・・・・・・)

木葉は旅行の時に見た夢を思い出す。

(お父さーーーーん!!)

(木葉・・・・来てくれてありがとう)

夢の中の父親は眩しいほどの笑顔を木葉に見せていた

「お父さん・・・!!」

木葉は父親にあった夢を思い出し顔を膝にうずめ、父親の名を声に出す

とん

その時何者かが自分の肩を叩いた感触があった

木葉は驚きながら顔を上げる

「あ・・・・・・」

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