般若
ガシッ!!
「くっ!・・・」
彰吾は改の拳を両腕で受け止める
その一撃は先ほど自分が拳を交わせた愁人とは比べ物にならないほど重く、禍々しさを兼ね備えていた。
(これが0番隊の力・・・侮(あなど)れん!!)
彰吾は心の中で相手の力を確認すると、体を回転させ左肘を改に突き出す。
バコッ!
彰吾の肘は改の顔面に直撃をした
「なぜよけない?」
彰吾はまさか当たるとは思ってなかった攻撃を、もろに喰らった改にそう問いかける
改はにやけながら返答する
「避ける?こんな攻撃を?」
そう言うと改は右の手のひらを彰吾の腹に押し当てる
ドンっ!
「かはぁっ!?」
鈍い音とともに彰吾は先ほどよりもはっきりとした典型的なやられ声をだし、腹部に手を当て後ずさる
「うぅうぅ・・・」
彰吾は顔を上げ改に目を向ける
改は笑みを浮かべたまま余裕の表情で彰吾に対して構えをとっていた。
彰吾はその構えを見て察する
(こいつの力は、あいつが作り上げたものだけじゃない・・・こいつには武の心得がある・・・)
彰吾は心の中でそう判断すると同時に思考を回転させる
(普通の闘いじゃ奴には勝てない、霊力の扱い方さえ間違えなければ勝機はある・・・焦らず慎重にいけば!!)
「消!!」
彰吾は消を使い姿を消す
「なんだと・・・」
改はその消えていく彰吾の姿を見て目を見開く
改は周りを見渡すと不機嫌な顔になる
「くそっ、奴らめ特殊な技を使いやがって」
そう言いながら改は気配を探る
「改!」
後ろから自分を呼ぶ声が聞こえ改は姿を元に戻し、その声の主の方を見る
そこにはこの生者の世界で潜伏している間に友人になった浜田 雄二の姿があった。
雄二は唖然と驚きの表情で改を見ていた。
「雄二・・お前何でここに」
改の問いに雄二は反論する
「それは、こっちのセリフだぜ!?お前こんなところで何やってんだよ!?」
「・・・・・ああ、ちょっとな」
そんな改の腕を見て雄二は恐る恐る聞く
「お・・・お前・・・その腕の痣どうしたんだ?・・・」
「え?」
改は腕の方に目をやる、そこには自分が主に仕える死者蘇生で現世に再度降り立った0番隊の証である痣が収まり切れてなかった。
改は慌ててその腕を隠す。
「おい、改!何なんだよ今の!?それに・・・その目も・・・」
雄二の目には改の目はうっすら赤く染まっていた。
(ちっ、とっさの事だったから完ぺきには隠せきれてなかったのか・・・余計なことを聞きやがってこのゲーマーは・・・)
と改は心の中で愚痴を言いつつも雄二に答えるべく笑顔で返す
「ああ、これはだな・・・」
雄二は改を見つめる
ブンッ
「ぐわぁ!!」
「こういうことだ」
改はそう言いながら雄二の後ろに拳を入れ、その後ろにいた彰吾の顔面を殴った。
彰吾はまさか自分の居場所が悟られるはずがないと、感じていたため痛みと驚きで姿を現し後ずさる。
「ど・・・どうして・・」
彰吾は殴られた顔を抑えながら口を開く
雄二は彰吾の姿を見て息をのむ
「こ・・・こいつ、校内に侵入してきたコートの!!」
「ああ、そうだ避難しようとしたらばったり出会っちまってさ~で、なんかこいつのせいで逃げるのもしゃくだからかたずけ様かなって思てたところなんだ。」
改はそう説明しながら構えをとる
「え?じゃあその痣は?」
雄二の問いに改は鼻で笑って答える
「ふん、昔の古傷だ」
改は彰吾に突進する
「きぃ!!」
彰吾はよろけながらも改の攻撃を受け止める
「なぜだ・・・なぜ俺の場所が分かった!?」
「匂いさ」
バタン!
改は彰吾の足を払い、地面に倒れ指す
「に・・・匂いだと?」
苦痛の顔で問いかける彰吾に改は口を開く
「ああ、俺達の嗅覚は生きている人間と同じ性能を持っているんだ。そのお前が来ている布臭いコートが命取りになったってわけだ」
改の説明を聞いた彰吾はまたしても驚く
「なんてこったい・・・あいつは生きている人間とほぼ同じように蘇生をすることに成功したのか・・・!」
彰吾はそう言うと巴投げの原理で改を払いのける
「よっと!」
しかし改はまるでサーカス団員のように地面に着地をした
「とは限らないないぜ、ところどころあの人にも無理な所はあったみたいだけどよ・・・」
そう言うと改は力を入れて姿を変えようとする
しかし、その時彰吾の後ろにいる雄二の姿が目に入った。
「雄二・・・」
「改・・・お前一体・・・」
改は雄二の姿を見るとその場で少し立ち止まった。
彰吾は自分の後ろで唖然の表情を浮かべている雄二に目を向ける
(そうか・・・この子はあいつが0番隊ってことを知らないんだ)
彰吾がそう悟った刹那
「ああ、もういいやめんどくせえし」
自分の前から改の声が聞こえ前を振り向く
すると先ほどと全く同じように、髪は白く、眼は赤く瞳孔が開き、腕の痣はより禍々しくなっていった。
「またか!・・・」
雄二がそう口を開いた後ろで雄二は自分の目を疑った。
「改・・・お前・・・一体どうして・・・」
改は雄二の言葉を聞いて、姿を変貌させた後雄二に告げる
「改?・・・誰だそいつは?俺の名前は始。覚えときな!!」
始はそういうと本能をむき出しにし、雄二に襲い掛かってきた
「ぎるぁあ!!」
まるで野獣のような声と眼光をあらわにして0番隊の一人である始は拳を先ほどよりも倍速にして突き出す
(速い!?)
彰吾がコンマ何秒の瞬間でそう感じた際にはもう拳は彼の体に激突していた。
ドゴンッ!!
という音とともに彰吾の体は後ろに吹っ飛ばされ、その後ろにいた雄二も彰吾の体に当たり同じように吹き飛ばされていく。
バタンッ
「ぐっ・・・」
「がぁっ!」
吹き飛ばされた二人は地面に倒れこみ声を上げる
「・・・なんだこいつ・・・」
そんな中、彰吾は吹き飛ばされた体を起こしながら始の方に目を向ける
始は不気味な笑みを浮かべたまま一歩ずつ彰吾と雄二の方に向かってきていた。
「ほら、立てよ。無理だったら立たせてやろうか?」
そう言いながら始は右手をゴキゴキと音を鳴らす
「くっ・・・改・・・お前どうしちまったんだ?・・・」
雄二は未だに自分の身に起きている現象が分からず始に問いかける
しかし、始は顔を笑みから不機嫌な顔に変え口を開いた
「だから・・・俺は改じゃあねえって言ってんだろ!」
始はまず最初に、目障りな雄二を消すかの如く雄二に飛びかかってきた。
「ひいい!!」
雄二はその始の血相変えた容姿を見て目をつむり両手を顔の前で防御する
ガシッ
「・・・うん?」
彰吾は雄二を守るかのように始の腕を掴み、ギリギリのところで攻撃をやめさせる
「お前、何考えてやがる。こいつと友達なんだろ!?」
「違います」
あっさりと即答した始はその掴んでいる腕を掴み返し横の壁の彰吾を激突させる
「ぐはぁっ!?」
彰吾は背中から壁に殴打し地面に寝転ぶ
「は・・・は、はあ・・・」
雄二は今朝まで仲良く登校していた自分の友人とは、恐ろしいほどにかけ離れた改をみて体を震え上がらせる
「・・・・・・」
始はまるで自分をおぞましいものを見るかのような驚愕な表情でこちらを見ている雄二を横目で見ると、少しばかり昔を思い出した。
(またこの目か・・)
「一本!!」
審判の終了を意味する声とともに、それを見ていた同級生や先輩たちは一斉に拍手を選手に送った
「すげーーー!!」 「さすが始だな」 「化け物かよ・・・」
始は黒帯を強く締め直し笑顔で拍手を送る者や自分を評価するものそして、驚愕の表情で自分を見つめる仲間たちに手を振る
「みんなのおかげさ、ありがとう!!」
始はそう言い手を振り終えると対戦相手の親友に手を差し伸べ立ち上がらせる
「いつもながら参るよ・・・お前のそのバカ力には」
「バカは余計だよ!」
始は笑いながら親友の横腹を肘で突く。
空手着を肩から下におろしながら二人は夕焼けが照らす帰り道を並んで歩いていく。
「いよいよだな・・・高校生大会!!」
始はウキウキしながら口を開く
親友はそんな始の表情を見て微笑むと彼に問いかける
「なんだ?緊張してるのか?」
親友の問いに始は返答をする
「ああ、でもその反面楽しみでもあるよ!だって、今まで見たことのない強敵と戦えるなんだろ?こんなにうれしい事はないぜ!!」
「ふっ、お前らしいな」
親友はそう言いながら顔を前に向ける
始はそんな親友を見ると、すこし間を置き口を開いた
「あ・・・えーと、ごめんな俺のせいでお前の出場が・・・」
親友は始の言葉を聞くと少し驚いた顔に変え笑いながら声を出す
「何謝ってんだよ始、お前らしくもない。実力ではお前の方が俺より強いんだから当たり前だろ?ほら、胸張れって!!」
親友は先ほどのお返しといわんばかりに、始の横腹を肘で突く
「痛って!お前やめろよ!」
「お前だろ先にやってきたのは!」
二人はライバルであり親友である互いと一緒に青春の1ページを刻んでいった。
(高校生大会か・・・)
始は親友と別れた後、自宅に帰る為赤信号の前で止まっていた。
夕方の18時ということもあり、自分の周りには自分と同じ高校生や、主婦、サラリーマンなど様々な人間がその信号が青に変わるのを待っていた。
(ほら、胸張れって!!)
始は先ほどの親友の言葉を思い出し心の中で改めて決意をする
(よし、俺はやるぞ!!絶対に優勝していつか全国大会に!!)
どん
「え・・・」
始は何者かに背中を押され大型トラックが来ようとしている横断歩道に飛び出す。
始は眩しいほどの光を放つ大型トラックが自分のすぐ横まで来ると、そのトラックに目をやる
トラックは咄嗟の事で始が目の前に来たことを知らず、クラクションも鳴らさずに前へ進む。
始はその様子を見て口を開く
「ちょ、まじで・・・」
「おい、誰か救急車を!!」 「いや下手に触らない方がいい!」 「目の前で人身事故とか・・・」
始は薄れていく意識の中で先ほど自分の周りにいた大人たちや高校生たちが慌てた様子で話し合いをしている光景を目の当たりにした。
(・・・あれ?俺どうしたんだっけ?・・・)
始は状況が理解できずにすさまじい痛みに苦しみながらも数秒前の事を思い出す
(あ、そうだ・・・俺は確か誰かに背中を押されて・・・それで・・・)
始は自分の周りにいる大人たちの方に目をやる
(・・・・・え?何でお前が・・・)
心の中でそう呟いた始は今自分の目の前にいる大人たちの後ろで、先ほど分かれたはずの親友がいることに気が付いた。
親友は自分が事故に会い、大量出血を起こしているにもかかわらず、無表情でまるで何事もなかったかのように始を見つめていた
(お前・・・まさか・・・)
始は考えたくはなかったが自分の背中を押した犯人が、今、自分を見つめている親友ではないかと思考がよぎり彼をにらみつける
親友はしばらくの間、始を見つめた後口を開き、始に小さな声で言った
「ざまあみろ、この邪魔者め・・・」
その声が聞こえた瞬間始は、とてつもない戦慄を覚えその親友に手を差し伸べようとする
「おい、君!動くんじゃない!もうすぐで救急車が・・・」
周りの大人はそう言ったが始の耳にはもうその声は届かなかった。
(お、お前・・・!)
始はそう言うと今自分がさし伸ばしている手の方に目を向ける
その手は血で真っ赤に染まり、皮膚はズタズタに裂け、仮に助かったとしても自分の大好きな空手はもう二度と出来ないという事を始に伝えているようだった。
始はその自分の変わり果てた腕を見ると目線をその親友に向け、彼をにらみつける
親友は無表情から顔を笑みに変える。しかしその笑みは一緒に部活帰りに自分の見せた優しい笑顔ではなく、交通事故にあった自分を嘲笑うかの様な邪悪な笑みであった。
「信じて・・た・・・・の・・・に・・・」
始はか細い声でそう言うと、目を閉じて現世を去った。
始はかつて親友に裏切られた過去を思い出しながら自分の手のひらを見つめ、その手のひらを握りしめる
「あ・・・ら・・た?」
雄二はそんな始の姿をみて小さな声をだし彼に問いかける。
始はその声に気が付くようにゆっくりと雄二の方に体を向け、鋭い目つきで雄二を見る
「はっ!?・・・」
雄二はそんな彼の人離れした眼光を直視して息を飲み込む。
(やばい・・・原理はわからないけどとにかくやばい・・・こいつはもう俺の知っている改じゃ・・・)
「雄二」
「は、はい!?」
始の突然の呼びかけに雄二は変な声を出して返答をする
「今お前、俺の事人間じゃないって思ったろ?」
「え!?」
雄二は自分の心が読めれたことに驚きと恐怖を感じ目線を左右上下に動かす
「え、え~と・・・それはその・・・」
雄二は毛穴という毛穴から汗を流し、体は先ほど以上にぶるぶる震えあがらせていた
「そうだよ」
「は?」
始はいつもの口調で雄二にそう言い笑顔に変える
「俺はお前とは違うんだ、今まで言わなくて悪かったけど」
雄二は始の言葉を聞いてより頭を混乱させる
雄二の頭を混乱させた始は目線を雄二から自分の横で横たわっている彰吾に変え口を開く
「よく見ておけ、雄二。これが・・・」
始は腕を振り上げる
「俺達だ!!」
そして勢いよく振り落とす
「改!!よせ!!」
雄二は今自分の目の前で殺人を起こそうとする始を止めようと大声で彼の名を呼ぶ
(彰吾よ、お主はどうやら霊力の扱い方がへたくその様だな)
バシッ
「何!?」
それは一瞬の出来事であった。
彰吾は自分に向かって振り下ろされた腕を左手で受け止めると、そのまま体を起こし彼の動きを封じさせる
「くっ・・この!」
始は空いているもう片方の手で彰吾に殴りかかる
ギロッ!!
「あっ・・・」
始は彰吾の目を見て凍り付く、というよりも凍り付かされた
般若・・・そう般若のような顔が始の目の前に現れた
「お・・・お前その顔・・・」
始は凍り付きながらも般若の風貌をしている彰吾に問いかける
「辰臣師匠・・・見ていますか?・・・」
彰吾はそう言いながら始の腕を掴んでいる手に力を入れる
「もし見ていたらお願いがあります。どうか俺を・・・」
始は恐怖を感じていた
「叱ってください」
ぐしゃ
彰吾はそう言うと始の手を握りつぶした
「なっ!?」
始はその握りつぶされた手を目のあたりにして後ずさる
「あ、改!?」
雄二は手を握りつぶされた初めに声をかける
(何だ、今のは・・・こいつの霊力じゃ、俺の手を握りつぶすことなんて・・・)
始は頭の中でそう考えながらも彰吾から目を離さない
彰吾は般若のオーラを後ろで放ちながらゆっくりと始に近づいてくる
その足音は始にとっては絶望そのものであった。
「はあ・・・きぃ、うああ!!」
始は絶望を感じながらも彰吾に向かって握りつぶされていない方の拳を突き出す。
パシィ、バキッ!
「ぐふっ!!」
しかし、瞬く間にして始の拳は払いのけられ、拳が始の顔面に飛んできて返り討ちにされた
「はあ、はあ・・・」
始は即座に形勢が逆転されたことを信じることが出来なく、地面に尻もちをついたまま後ずさる。
(な・・・なんで、なんでこいつはこんな力を・・・)
始が心の中でそうつぶやく
「改・・・」
始は雄二が自分の後ろで名前尾を呼んだことに気が付き後ろを振り向く
始は雄二と目が合う
「お前・・・大丈b」
ガバッ!
「うっ!?」
始は雄二の後ろに回り込み空いている腕で雄二の首元を絞める
「あ・・・改・・・何を!?・・・」
雄二はかすかな声で始にそう言ったが始の目は霊力を全開放し自分に近づいてくる、彰吾に釘付けだった。
「来るな!それ以上来たらこいつの命はないぞ!!」
始の腕が先ほど以上に強くなる
「が・・・改・・・」
しかし彰吾は般若のオーラを纏ったまま歩みを止めない
「ほ・・・本当にこいつを殺すぞ!?」
彰吾は無表情のまま口を開く
「その腕でか?」
始は彰吾の言葉を聞くと自分が先ほど握り潰された腕に目をやる
その腕は、もうぐちゃぐちゃと呼ぶにふさわしいほどに変形し血があふれ、修復は不可能に見えた。
そう、あの親友に殺された時と同じように・・・
「ひぃ・・・」
始は情けない声をだし自分の元に近づいてくる彰吾に目をやる
ギロッ!!
彰吾はもう一度般若の気迫を始に見せる
「うわああっ!!」
始は腰を抜かし人質にとらえていた雄二を離す
バタッ
雄二は先ほどの般若の気迫をその目で見て、あまりの威圧に気絶してしまう。
ヒタヒタ・・・
彰吾は顔色一つ変えずに始の元に近づく
始はもうどうすることもできず恐怖で震え、後ろに下がる。
その時始の近くにある階段の下に、テントを張るために使用したりする鉄パイプが転がっているのが見えた
始は咄嗟にその鉄パイプを拾い上げ彰吾に振り下ろす
ガンッ
鉄パイプは彰吾に直撃をした、だが彰吾は表情を変えず、殴打された頭からは一滴の血も流れずにただ、始を冷たい目で見ていただけだった。
「あ・・ああ・・・」
カランッ
始は再び腰を抜かしてその場に尻もちをつく
窮鼠(きゅうそ)猫を噛むということわざを始は潜伏していたこの石櫻高校で習ってはいたが、それがいかに無意味だという事を身をもって実感するとは思ってもいなかった。
彰吾はそんな始が最期に使用した鉄パイプを拾い上げる
始は戦意を消失し、ただそれを見ていることしかできない。
彰吾は般若の気迫のまま鉄パイプを両手で持つ
「・・・なんで・・・何でこうなるんだよ!!」
始は涙目で大声を出す
「なんで、俺が負けなくちゃいけないんだよ!復讐をするのがそんなに悪いことなのか!?」
彰吾は解答をせずに鉄パイプを振り上げる
始はその光景を見ながら涙を溢れさせ、自分の思いをまるで断末魔のように吐き捨てる
「悪くない・・・俺はこれっぽちだって悪くない!!俺はただ・・・夢を掴みたかっただけなんだ!!それなのに・・それなのに・・・!!」
始はかつて自分が空手着を着て、仲間たちと汗水流して修行をしていた過去の事を思い出す。
彰吾は何のためらいもなく霊力をその鉄パイプに移し、まるで悪魔を断つ斧のように鉄パイプを変貌させた。
「何なんだよ・・・!!」
(よし、俺はやるぞ!!絶対に優勝していつか全国大会に!!)
斧が振り下ろされる
「主様ああああああああ!!!」
ドガッ!!・・・
彰吾は自分が着ている布臭いコートを脱ぎ、頭から血を噴き出して息絶えている始の遺体を隠すようにかぶせた
その光景を見て彰吾は0番隊の一人である木葉の護衛者を一人倒した喜びよりも、何ともいえない感情でその遺体を見つめた
あふれ出る血、その地で染まっていくコート、先ほどの自分を見つめる目
彰吾はあの悪夢で白命郷を去った自分の恩師、辰臣師匠との別れを思い出す。
「師匠・・・師匠!?」
辰臣は黒命郷の主が作り上げた結界の中に侵入し、内部を探ってきたが途中で主が率いる兵士に見つかりやっとの思いで宋明寺に帰還してきた
「彰吾・・・ただいま・・」
そう言うと辰臣は腹部から流れる血を抑えながら倒れこむ。
「師匠!!」
「お師匠様!」
「辰臣師匠!」
彰吾と他の修行僧は倒れこむ辰臣に駆け寄る
「師匠・・・なんとお労しい姿に・・・やはり私も一緒についていけば・・・」
彰吾が自分を責める中、辰臣は血でぬれた口を開き微笑む
「ふふ、何を言っておるか・・・お主みたいな霊力をまともに扱えぬものにわしの手助けなど・・・」
「師匠・・・」
彰吾は口を開く
「では・・・ではなぜ、私を管理者に任命したのですか!?」
彰吾は声を荒げて辰臣に問いかける
辰臣はその質問をに対して少し間を置き、答える
「・・・何だ・・・そんな事か・・・愚問じゃな」
「愚問?」
辰臣の言葉に他の修行僧たちはざわつく
「良いか・・・お前は強いのだ・・・このわしよりも」
「な・・・何ですって・・・」
辰臣は真剣な表情で語り始める
「強いといっても、ただ単に力があるだけではかなわん。わしはお前の心の強さに感服したのだ・・・」
「心の強さ・・・それはどういう?」
辰臣は一笑する
「さあな・・・それはおぬしが一番よく知っているじゃろう・・・」
そう言うと懐から一つの巾着袋を彰吾に差し出す。
「こ・・・これは?」
驚く彰吾と修行僧たちに辰臣は返答をした
「あやつの基地から奪ってきたものじゃ・・・まあ、そのせいで見つかってこのありさまじゃけどな、はは」
「師匠!」
無理して笑うかのようにほほ笑む辰臣に彰吾は呼びかけをする
「彰吾、これがわしからの最後の教えじゃ、心して聞くのじゃぞ・・・!」
「最後!?」
「師匠、そんなこと言わないで・・・!」
辰臣の言葉に修行僧たちは涙を流す
しかしそんな中、辰臣に管理人として任命された彰吾だけは辰臣の声に真剣な表情で耳を傾けていた。
「辰臣師匠・・・何でしょうか」
辰臣は最後の力を振り絞り口を開く
「優しさを・・・捨てるでない・・・奴を救ってやってくれ!!かはっ!」
辰臣はそう言い残すと、血を吐き、握っていた巾着袋を落とす
「師匠!!」
「嫌です目を覚ましてください!!」
その遺体と化した辰臣を見て修行僧は涙を流す。
「・・・・師匠・・・」
辰臣は涙を流しつつも辰臣の手を握りしめ、彼が最期に自分達へと託した巾着袋を開く
「これは・・・飴玉?」
その中に入っていたのは紫色の飴玉のようなものだった
「辰臣師匠・・・」
彰吾は赤い飴玉ならぬ、赤い霊玉を手にしそうつぶやくと口の中に放り込む
先ほどの戦いで霊力をほとんど使ってしまった彰吾にとっては、その霊玉は必要不可欠そのものであった
霊玉を飲み込んだ彰吾は顔を上に向け辰臣の笑顔を天井に浮かばせる
「師匠、すいません。俺はどうやらあなたの言う通り霊力の扱い方が未だにへたくそです。でも・・・」
彰吾は先ほど体験した凄まじい霊力を思い出す。
「これが俺なんです・・・!!」
彰吾はそう言うと手を握りしめ、パイプを持ちその場を離れて木葉を探しに行こうとする。
その時彰吾の視界に横たわっている雄二の姿が見えた。
彰吾は雄二の方に目を向け、数分前に中庭で愁人に言われた言葉を思い出す
(あの子の護衛・・・志月隊長が率いる0番隊の方だ!!)
「護衛・・・志月隊長・・・もしかしてこいつが・・・?」
彰吾は鉄パイプを握りしめると、雄二に向かって振り上げる
(ひいい!!)
「・・・・・・・」
しかし、彰吾はその鉄パイプを振り下ろさずに去っていった。
シュウウウ・・・
気絶をしている雄二の横で始の死体は黒い煙を立てて消滅していき、その場には彰吾のコートしか残らなかった。
トントントントン
彰吾は鉄パイプを片手に階段を上っていく。
木葉を殺し、全てを守るために。
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