明日音の過去

「はあっ!!」

明日音は手のひらから霊力を噴き出し、刃と化した風を立中に向ける。

しかし立中はその風を左手で払いのけ、音楽室の壁にぶつけた

(そんな・・・片手で!?)

明日音はその異様なまでの力に唖然とした。

バッ!!

立中はそんな明日音に向かって勢いよく襲い掛かる

立中の拳が明日音に飛んできて、明日音はそれを手のひらで受け止める

バチンッ

という霊力の壁が拳にぶつかったことによって生じた衝撃音が音楽室内に響き渡る。

「くぐぐぐっ・・・・」

「・・・・・なるほど・・・」

立中は必死に攻撃をガードした明日音を冷たい目線で見つめると右足をその、霊力の壁にぶつけた

バリンッ!

ガラスが割れたときよりも甲高い破壊音が聞こえ、明日音が造り上げた壁が跡形もなく粉々に砕かれてしまった。

「うそっ!壊された!?」

明日音が驚愕する中、立中は左足で明日音の体を狙う

しかし明日音はその回し蹴りを潜り抜け、右の手のひらを立中の顔に近づける

「貫(かん)!!」

明日音はそう言い、近づけた手のひらから霊力の衝動波を放つ

バンッ!

その衝動波を見事立中の顔面に直撃をした。

「・・・・・え?」

明日音は目の前の光景に思わず声を漏らす

衝撃波を喰らわれた立中は顔の皮膚から血を流し、所々黒く変色していたが、まるで何事もなかったかのような顔で明日音をにらんでいた。

「至近距離で撃ったのに・・・・あっ!!」

立中は左手で明日音の髪の毛を掴む

「捕まえた」

立中は苦痛の表情で痛がっている明日音にそう言いうと、空いている右手で明日音の顔面を思いっきり殴った。

「ぐあっ!!」

という悲鳴とともに明日音は吹き飛び音楽室の出入り口のドアにぶつかる

ドスッ

「うっ!・・・」

そんな明日音に追い打ちをかけるかの如く、足で体を踏みつける。

じりじりと立中の足は強く、確実に明日音の体にダメージを追わせていった。

「うっ、うう・・」

明日音の顔はどんどん痛みで歪んでいき、そんな明日音を立中は冷酷な表情で直視していた。

明日音は痛みで悶えながらも力を振り絞り、再び立中に手のひらを向ける

「ん?」

立中は明日音の手のひらを見つめる

「霊身封じ!!・・・」

ガキンッ!

「何!?っ」

立中の体はまるで時が止まったかのように停止した。

「くっ、ふっ!・・・」

明日音は立中が固まっている間にその場を離れ反対側の壁の方に向かう。

壁の方に足を運んだ明日音は再び霊力をためるため、両手を胸の前に近づける。

その両手の間には青白い光が集まって先ほどの衝動波よりも威力が倍増しているのは一目瞭然だった。

「この一撃に全てを賭けます!!・・・」

明日音はそう言うと貯めた霊力を両手で前に突き出し、硬直している立中に放つ。

「貫っ!!!」

立中は明日音の言葉とともに放たれた霊力を横目で目視していた。

しかし

「ぬっ・・・ふぁ!!」

立中はその明日音が放った霊力の波動を紙一重でかわし、霊力は音楽室の壁にぶち当たった

ドゴンっ!!

という音とともに音楽室の壁は深くえぐられてしまった。

「そ・・・そんな、なんで・・・」

明日音は自分の目の前の光景が信じられなかった

(どうして?さっきの霊力の霊身封じなら後30秒は動きを封じることが出来るはずなのに・・・)

立中は目の前で起きた出来事を信じることのできない明日音に語り掛ける

「今、なんで回避ができたんだって思っているだろ?」

明日音は立中に目を向ける

立中は服のしわを伸ばし、明日音に説明を始める

「今のはさすがにやばいと思ったぜ、だって体が動かなかったんだもんな。でも間一髪のところで体が動いた・・・」

立中は自分の手のひらを見つめる

「これが0番隊の実力ってか?」

「・・・はっ!!」

立中の笑みに明日音は気が付く

(そうだった・・・この人たちは私たちと同じ只の死者じゃない・・・この人たちは!!・・・)

ガシッ!

「ぐっ!・・・」

明日音が心の中でそう思った刹那、立中は異常なまでの速さで明日音のいる音楽室の隅まで移動し、彼女の首を掴んだ

「あっ・・・ああ!・・・」

明日音は首を絞められたままうめき声をあげ立中を見る

立中の目は先ほどよりも真っ赤に染まり、掴んでいる腕は膨張し、痣はより禍々しくなっていた。

「終わりだ・・・・文字通り・・・」

立中はさらに腕に力をこめる

「うあああぁぁ!ああ・・・」

ぐぐぐ、と明日音の、のどは締め付けられ、もう声も出せないほどだった。

明日音は自分ののどを掴んでいる立中の腕から手を放し、目がだんだんと閉じられていった。

(木葉さん・・・・戒さん・・・・龍之介様・・・)

心の中で明日音は3人の顔を思い出していた。

(申し訳ありません・・・やはり私には管理者としての資格なんて初めから・・)




「明日音ーーー!!明日音ーーー!!」

「明日音ちゃん!目を覚ましてよ!」

「死ぬな!明日音!」

ピッピッピッピーーーーー

明日音に向かって必死に呼びかけをする人たちの期待を裏切るかのように心電図はフラット音を鳴らし彼女の完全なる死を伝えた

「・・・ご臨終です」

医者の言葉とともに明日音の両親と友人たちは一斉に泣き崩れる。

「・・・・お父さん、お母さん、みんな・・・・」

明日音の魂は霊界へと昇っていった

「・・・・ここは?」

明日音は目を覚まし辺りを見渡す。

そこにあるのはまるで高原のようにはるかに広い土地で、空はオーロラのように多色で彩られており、明日音はこの高原に一人しかいないような感覚にとらわれた。

「私・・・確か、心臓病で・・・」

明日音がそう口を開いたとき

「お嬢さん」

「え?」

明日音は声のした方に振り向く

そこには、70代後半の優しい笑顔でひげを伸ばして眼鏡をかけている老人が立っていた

「えっと・・・あの・・・」

明日音は戸惑いながらも声を出す

「ほっほっほっ、何も心配することはない。君も未練を持つものなんだね」

「未練?」

老人の言葉に明日音は耳を疑う

「まあ、こっちへ来んさい」

「・・・・はい」

明日音は老人に言われた通りに老人についていく

しばらく歩いていくと前方に人だかりが見えてきた

「あれは?」

老人は答える

「なに、君と同じものたちだよ」

明日音は老人の笑顔を見ながら疑問を抱く

明日音はその人だかりに明日音を案内すると明日音を含む人だかりに説明を始めた

「では、みなさん。これからお主たちの新たに暮らす場所へと案内する」

「え?暮らす場所?」

明日音がそう口を開くと隣の青年が老人に問いかける

「おい、じいさん!さっきから何を訳の分からないことを言ってんだよ!」

「そうよ、いきなり連れてこられて暮らす場所とかわけわかんないんだけど・・・」

「てかあんた誰だ?」

人だかりの中にいる人間たちは各々老人に疑問をぶつける。

老人はその言葉を聞くと少し沈黙をし、青年たちのために返答を始める

「・・・・重森(シゲモリ)それが私の名だ・・・」

老人がそう言うと一同は沈黙をする

「・・・・苗字ですか?それとも・・・」

明日音は沈黙の中、老人に問う

「苗字などもうない、私は重森。それだけだ」

老人の顔は少し切ない顔になっていた。

「どう意味だよ、それ!」

青年は啖呵を切って老人に問いかける

老人は言いにくそうに答えた

「・・・・まず初めに言っておく。君達はもう現世で死んでしまった人たちだ・・・」

その言葉を聞き一同はざわめく

しかし、明日音はその言葉を聞いても案の定という表情で老人を見つめていた

「でも君たちは、まだ生に未練を抱いたままの人間だ。だから君たちは今、ここにいる」

老人は真剣な表情で語り続け、それを聞いた人間たちは全員、難しい顔をする。

「だから、どうか君たちにはその未練を取り払い、天国に行ってほしいのだ。そして・・・・生まれ変わって今度は未練のない人生を送ってほしい」

明日音は老人を真剣な表情で見つめる

「それが私・・・神命郷の主としての役目だ。」

老人はそう言うと後ろを振り向き手を前に出す、すると今まで何もなかった空間に光の穴が出現した。

「な、なんだ!?」

「どうなってんの?」

若い男や中年女性が驚く中、明日音はその光を見て不思議と冷静な感情を持っていた

(この先に・・・新しい道が・・・)

「さあ、未練を打ち破りたい者はこの光の道に入れ。嫌なものは無視しても構わん。無視したからといって地獄に落ちるということは決してない、しばらくたてばこの土地は消滅し閻魔様の所へ向かう。」

その説明を聞いて明日音や男たちは再びざわめく。

「決めるのは・・・君たちだ。」

重森はそういい明日音たちを見つめる

しかし、重森の言う通りその光の道に足を踏み入れる者はなかなか出てこなかった。

・・・・・・ザッ

そんな中、明日音はその光の道に足を運ぶ

他の男女は明日音を驚きの目で見ていた

「・・・私、行きます!そして・・・未練を断ち切ります!」

明日音は重森の方に顔を向け、真剣な目で見る。

重森は笑顔になる

「そうか。君名前は?」

「私は、弐ノ宮(ニノミヤ)・・・」

明日音はそう言ったが、途中で発言をやめ、笑顔で再度答える

「・・・明日音です!!」

「明日音か。良い名前じゃな!!」

重森は明日音の笑顔に答えるように笑顔で返した

そう言われると明日音は自分の目の前にある光の道を進んでいった。


それから明日音は新命郷で変凡な日々を送った。

あこがれていた着物を普段着にして、霊力を管理する寺の1つ、光兩寺を住居とし自分と同じ寺の修行者と一緒に修行や、自分たちの師匠である則男のおっちょこちょいな出来事に振り回され、休日は新命郷で出来た新しい友達と観光をしたり、この新命郷に自分を招いてくれた街の主

重森に挨拶に行ったりもしていた。

だが、その平和な日常は長くは続かなかった・・・


「・・・・・・」

「・・・・・・」

明日音と30代後半の卿藍寺の管理人、華(ハナ)の二人は森の中に立たれてあるお墓に手を合わせていた。

その墓には明朝体で【豪司(ゴウジ)】と刻まれており、鮮やかな花束やお米が供えられていた。

二人はそのお墓にしばらく拝みをすると目を開け立ち上がる。

「まさか・・死後の世界でもお亡くなりされた方のために墓参りをするとは・・・」

明日音の発言に華は答える

「しょうがないわよ、だって・・・あんな事件があったんだもの・・・」

華の悲しげな表情を見て明日音は、以前起きた悪夢を思い出す。


「お、おい、あれ!!」

一人の住民がそう言い指を指すと、その指を指した方向に存在している・・・いや存在していたはずの寺、(天翔寺(てんしょうじ))が真っ赤な炎によって包まれていた

住民達は急いでその炎を消化するため水をかけたがもうその寺は焼け跡と化し、修行僧やその寺の師匠、豪司は惨殺と焼身を兼ね備えたようなむごい遺体となって横たわっていた。

「なにこれ・・・・」

「ひどい・・・」

やじ馬たちはそのすさまじい光景に口を抑える者や嘔吐するものなど多数いて、大人たちは子供を何としてでも寄り付かせないようにしていた。

明日音もその悲惨さを目の当たりにしても信じられなかった。

同じく自分たちの同士、彰吾や華も明日音と同じだった

「なんだよこれ・・・一体何があって」

「豪司師匠・・・いやっ!」

華は自分の近くにいる師匠、友數の体に飛びつく

「・・・・・・」

「・・・・・・」バタッ「則男師匠!気を確かに!?」

「なんと・・・」

友數は無言で華を抱きしめ、則男はあまりの光景に倒れ他の修行僧が駆け寄り、辰臣は小さく声を漏らした

明日音は火災のあった天翔寺の横でこそこそと会話をしている幻霊館の兵士の方に目をやる。

「妙だな・・・手掛かりはないのか?」

「それがないのです・・・それともう一つ・・・」

「!?それはほんとか?」

明日音は兵士たちの会話が気になり、その会話に入ろうとする。

「あの~、どうかなされたんですか?」

昴は明日音の方に目を向ける

「あなたは・・・確か卿藍寺の・・・」

「はい、数日前に管理人に任命された明日音です!教えてください、何かあったんですか?」

昴は明日音の言葉を聞くと、少し顔をしかめさせ口を開く

「・・・まあ、いずれ分かってしまうことだと思われますので教えておきます。他の管理者の方にもお伝えいただけますか?」

明日音は頷く

「実はですね、焼け跡を調べたのですが・・・」


「・・・・・・」

明日音は思い出したくもない記憶を思い出し暗い顔になる。

「ああ、ごめんね明日音!嫌なこと聞いちゃって・・・」

華は苦笑いをし明日音に謝罪をする

「・・・のでしょう」

「え?」

明日音は声を大きくする

「あの人はどこに行ったのでしょうか?」

明日音の言葉に華は沈黙をする

「私たち同じ管理人のあの人が姿を消すなんておかしいです・・・自分の師匠や同じ寺に住んでいる仲間も死んだっていうのに・・・それに・・・一番の謎は霊力が・・・」

明日音がそう口にしたとき後ろから足音が聞こえた

「知りたいかい?お二人とも」

明日音と華は振り向く

「あ、あなた様は!・・・」


明日音と華と彰吾は幻霊館の主であり、新命郷の創造主でもある重森に招かれて幻霊館にある彼の部屋の前で待機させられていた。

明日音と華は先ほどの森の中で彰吾を連れた重森に頼まれて幻霊館へと足を運んだのだが、彼女たちの鼓動は異様に高鳴っていた。

「一体何があったのでしょうか?・・・」

「さあ、多分あの火災の事とか・・・・」

二人の会話を聞いていた彰吾が横で二人に言う

「こそこそしゃべってないで普通にしゃばれば?聞こえてるよ」

二人は苦笑いをする

「でも・・・」

彰吾の真剣な顔に二人は顔を向ける

「あの事件が関係しているのは間違いないかもな・・・」

彰吾がそう口を開くと昴が重森の部屋から出てきて3人に告げる

「お待たせしました。重森様の準備ができたようですので」

「準備?」

「ええ、心などの」

昴は彰吾の疑問に即答をした


「悪かったの、急に呼び出して。・・・でさっそく本題なんだが・・・」

3人は一斉につばを飲み込み重森の言葉に耳を傾ける


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

3人は幻霊館の帰り道を無言のまま歩いていた。

無言のまま3人は彰吾が管理をしている宋明寺に上がり、外が見える窓枠にでて遠くを見つめていた

その先には数日前、それこそ天翔寺の火災が起きる前までは影も形もなかったはずの謎の結界が、夜だというのに禍々しい紫入りのオーラを放っていた。

明日音は口を開く

「私・・・信じられません・・・」

「奇遇ね私もよ・・・」

「俺だって」

華と彰吾は明日音に意見に同意をしたが、3人とも内心では重森が嘘をつくような人物ではないと最初から分かっていた。

明日音はその紫色の結界を見つめ涙を流す。

そんな明日音を華は優しく抱きしめた。

辰臣は寺内で、夜景を眺めている3人を悲しげな表情で見つめ独り言を呟く。

「ついに知ってしまったようじゃな、あやつの本性を・・・」


数年後....

明日音は幻霊館の新主生誕会に出席した後、森の中に入り自分の前の管理人、千里(チサト)の墓参りに向かう。

「・・・・・あれ?」

明日音は暗い森の中で自分の先に来客者がいることに気づいた。

明日音はその人影に近づき声をかける

「彰吾さん?」

彰吾は声をかけられた明日円の方に顔を向ける

「あ、君か・・・」

彰吾はこの数年で亡くなった自分の師匠、辰臣の墓の前で合唱をしていたところだった。

「彰吾さん、あなたも大切な人のために・・・」

明日音は涙目で彰吾を見つめる

彰吾は黙って立ち上がり明日音に背中越しで返答する

「あの人なりの正義だったんだよ、これは・・・」

「え?」

明日音は声を漏らす

「異変を解決しようとしてそのままおっちん死しまうなんてさ、ほんと予想外だったよ。俺何度も言ったんだぜ?俺が行きます俺が行きますって。でもこの人お前にはわし以上にやるべきことがあるからって笑って俺を・・・」

見て見ると彰吾は右手で自分の目を覆っていた。

明日音はそんな彼を慈悲の目で見つめつつも、その横に建てられている、千里の墓に合唱をする

「・・・・・・」

しばらく拝み終わると明日音は自分の髪についている赤い髪留めを外し手のひらで見つめる

「・・・・・・千里さんには正義なんてものはなかったと思います」

彰吾は涙をぬぐい明日音を見る

「あの人は消滅する間際、ここに来た人に生の未練を思う存分与えられれるような街にして頂戴って、笑顔で私に言って天国へ行きました。」

明日音は笑顔で説明を続ける

「だから・・・・だから私は、彼女が出来なかった正義というものを持ってみようと思います!」

明日音は立ち上がり彰吾体に近づく

「失礼ですが黒命郷の人たちだって、好きであんなふうになったんじゃないと私は思うんです。あの人たちも私たちと同じ、生きる未練がまだ残っていた人達だったんですよ・・・ただそれが・・・少し歪んで、それで・・・」

明日音の流した涙は、千里から譲り受けた赤い髪留めを濡らしていった。

「だから・・・」

明日音は涙をこらえ顔を上げる

「だから私も、辰臣師匠のように正義を持ってはいけないでしょうか!?あなたのお師匠様のように誰かを救えるような慈悲を持つ正義を」

彰吾は涙できらきら光る明日音の目を見つめていた。

「・・・・・・明日音さん」

彰吾は真剣な表情で明日音に口を開く。そして

「よろしくお願いします」

お辞儀をした

「え?」

明日音が唖然とする中、彰吾は下げていた頭を上げ笑顔で語る

「ごめん。俺も久しく忘れていたよこの人を教えを、俺もがんばってみる!!明日音や華や彼のように!!」

明日音は彰吾の発言に疑問を抱く

「え?彼って、誰ですか?」

彰吾は笑顔のまま返答する

「ほら、例の」

「・・・・・ああ、戒さんですか」

明日音はしばらくの思考の後口を開いた

「ああ、来るべきに備えてさ、今頑張らないと辰臣師匠に叱られちまうからな。そうでしょ!師匠」

彰吾はそう言いながら先ほど拝んでいた辰臣の墓石に投げかける。

心なしか、辰臣がその墓石に腰を掛けて、彰吾に笑みを浮かべているように明日音には見えた。

(来るべき時か・・・)

明日音は夜空を見つめる。その夜空には、生の未練を解消しこの街を去った重森と千里の笑顔が浮かんでいるようだった。

(見ていてください、私頑張って見せますから。そして)

明日音は胸の中でそう誓うと、先ほどの新主歓迎会で照れながら主の座に主任した龍之介の顔を思い出し、自分が歩いてきた道を振り返る。

(よろしくお願いしますね!私たちの新しい主、龍之介様)

「へくしょん!」

龍之介は幻霊館でくしゃみをした。



そして明日音は数年たって成長した戒とともにこの石櫻高校に木葉を救うために校内に侵入したことをまるで走馬灯の如く思い出し、

心の中で呟く

(ありがとうございます、戒さん・・・)

【木葉は・・・あいつは・・・俺のようになってほしくない】

(ありがとうございます、彰吾さん・・・)

【心配すんな、辰臣師匠の無念は俺が果たす】

(ありがとうございます、重森様・・・)

【明日音・・・君が新命郷にいてくれて本当に良かった】

(私・・・)

明日音は霊力を再度高める

「死ねっ・・・管理者」

立中は確実に明日音の息を止めようと空いてる方の腕を肥大化させ振りかざす

(生きる意味を思い出しました!!・・・)

「輝(こう)!!」

明日音は目を見開き、自分の後ろからまばゆい光を放つ

「うっ!目が・・・」

立中は霊力によって突如放たれた光に困惑し、掴んでいた腕を明日音から離す

「はあはあ・・・ふっ!!」

明日音は目蔵をして怯んでいる立中に対して再度両手をかざす

ガキンッ!!

立中の体がまたしても固まる

「こ、これはさっきと一緒・・・いやそれ以上の」

「ええ、霊身封じ・・・」

明日音は持っている霊力のかなりの量を使い、先ほどよりも強力な技で彼の体を硬直させた

しかし、立中はそんな中鼻で笑う

「ふっ、お前には学習能力というものがないのか?いくら霊力を強くしたからといっても、攻撃を仕掛けるときに少しの隙などができる。そのほんの数秒の間でさっきみたいに回避をすれば俺にはノーダメージ。むしろ、お前は余分な霊力を使うことになるんだぞ?」

立中の律儀な説明を聞いて明日音はしばらくの間無言になり口を開く

「た・・確かに・・・あなたの言う通り、この技は結構な霊力を使用して、尚且つ0番隊のあなたには別の技を仕掛ける時に少しの隙が出てしまうわ・・・」

明日音は先ほどのダメージを持ちながらも口を開く

「でも!!」

明日音はかざしていた両手により力を籠める

「ぐぐぐぐぐぐっ・・・!!」

「・・・・・・・」

力を入れている明日音を立中は疑問の目で見つめる

「どうした?打つ手なしで泣いている・・・・え?」

立中は自身の体の異変に気付く

わずかながらではあったが、立中は明日の放った霊力によって体が包まれていき、本の数センチ体が地面から浮いていた

「こ・・・・これは、どういう!?・・・」

明日音は笑う

「技なんて必要なかったのよ・・・だって・・・」

明日音は息を吸い込み心を落ち着かせ口を開く

「あなたも私たちと同じ、未練を抱いているものですから!!」

明日音は渾身の力で立中の体を宙に浮かせるとそのまま彼を音楽室の壁にぶつける

バコンッ!

「ぐあっ!!・・・」

立中は衝撃と痛みから目を大きく見開いと苦痛を味わう

しかし明日音の手は止まらない

明日音は立中を今度は反対側の壁にぶつけ、天井、床、窓の順番で次々に体を打ち付けてくる

そして明日音は先ほど自分が立中によって投げられたピアノの方に目をやると、照準をピアノに向けて力を入れる

「さっきの・・・」

立中の体がピアノに近づく

「ひっ!・・・」

立中はボロボロの状態で悲鳴を上げる

「お返しですっ!!」

明日音は両手を上から下に思いっきり下げて、立中をピアノに激突させる

立中はピアノが自分の目の前まで来ると昔の嫌な記憶を思い出した


(おーーい、陰キャくーーーーん、ゴミ捨てといて)立中にゴミが投げつけられる

(マジあいつきもくね?)(やばいやばい・・・)女子たちが立中の方を見てこそこそ話をする、立中はそんな会話を聞きながら目線をずらす

「・・・・・・・」立中はいつも通りに一人で登校をし、一人で昼休みを過ごし、一人で下校をし、休日は一人でベッドに横になっていた。

そんな独りぼっちの生活の中、立中は人間不信になり自殺を決意する。

彼は休日の昼間に自分が住んでいるマンションの部屋、8階のベランダから身を乗り出す。

風が彼の体にぶつかり少し寒いほどだったが、彼にはこの苦痛な世界を終わりにすることが出来るという幸せがとてつもなくうれしかった。

「人間なんて・・・」

立中は手を放す

「人間なんて滅んじゃえ!!・・・」

立中はそう言うと8階からものすごい勢いで飛び降りる。

しかし、7階6階まではとても清々しい気分だったが徐々に地面が近づくにつれて、だんだんそれが恐怖に感じていった。

ぶつかった時の衝撃、全身打撲、骨の複雑骨折、あるいわ打ちどころが悪くて死ねなく一生寝たきり状態。

など彼の頭にものすごい速さで最悪の状態が予測されていった。

(何で僕は・・・飛び降りを選んだんだろう・・・)

立中は心の中で後悔をしたがもう地面はそこまで来ていた。

(嫌だ、嫌だ・・・誰か助けて!・・・やっぱり僕は生きていたいっ!僕は・・・)


「死にたく・・・」

ドゴーーン!

立中は明日音の霊力によって物凄い勢いでピアノに急降下した

明日音は整息しつつもおそるおそる立中に近づく。

見て見ると立中はピアノに激突した衝撃で気絶しており、完全に戦意を喪失していた。

明日音はそれを見るとほっと安心のため息をし、床に転がっている先ほど立中に外された二つの髪留めを拾い髪につける。

髪留めをつけ終わると明日音は音楽室の扉を開け近くの階段を上っていく。

「戒さん・・・これが私の正義です」

明日音は光の道を通り抜ける前の包帯姿の戒、晴太の顔を思い出しながらそう呟くと、木葉を探すべく前を進んでいった。



「もう一匹いたのか」

井上は音楽室を飛び出して行った明日音を反対側の廊下の角から眺めボソッっと口を開いた。

彼女は、明日音が見えなくなるのを見計らい音楽室のある廊下を歩いていく。

彼女の足音はまるで、絶望を知らせるかのような音色のように廊下内を響かせた。

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