それぞれの使命
3年2組の新人教師、柏木 慎太郎(シンタロウ)は体育館に生徒を避難させた後、まだ避難していない生徒や姿が見えない意思田を探すため校内を周っていた
「意思田先生ーーーー!!、まだ逃げてないやつはいるかーーー!!いたら返事をしてくれー!!」
いつもは賑やかな昼の校内に柏木の声が響く。柏木は2階に上り一番手前側の教室、3年1組を確認する。
・・・・誰もいなかった。
柏木は1組に逃げ遅れている生徒はいないとわかるとその隣の組、自分が受け持っている3年2組の教室内を確認し始める
ドアを開け日光が差し込んでいる教室内に目を向ける。
「・・・・?」
柏木は教室の一番後ろの席の下でもぞもぞと動く物体をとらえた
柏木は不審に思いつつも、その物体を確認するために後ろの席に近づく。
「え・・・・」
その光景を見た柏木は思わず声が出た。
そこにはうずくまって何やらごそごそしている自分の教え子、萩山(ハギヤマ) 改がいた
「改?・・・おい、改!お前何してんだよ!?」
柏木は隠れるように何かをしている改に向かって大声を上げる
「んっ・・・ん?」
改は後ろを振り向き自分を呼んだ柏木の方を見る
「あ、カッシーじゃん。お疲れっす」
振り向いた改は軽く柏木に挨拶をした
柏木はあっけにとられながらも返答をする
「お疲れっす・・じゃあねえよ!お前さっきの放送聞いてなかったのか!?もうみんな体育館に・・・・・・お前何してんだ?」
柏木は改に近づくと、改が何かを手に持っていることに気づいた。
「ああ、これ?米」
改はそう言いながら手に持った生米を柏木に見せた
「・・・・・お前・・・・なんで米なんて食ってんだ?・・・それも生で・・・」
柏木は意味が分からず改に疑問を抱く
「いや、腹減っちゃってさ~ほらよく言うじゃん!腹が減っては戦はできぬって!あぐっ」
改は説明をし再度、生米をかじる。手に持っていた生米は改が口に含むのと同時に床にぽろぽろと何粒かこぼれていった。
「・・・・・戦?」
柏木は今自分の目の前で理解不能なことを述べている改に口を開く
「でもさ~」
改は少し残念そうな顔をする
「いくら俺たちには味覚がないからといっても、毎回毎回米ばかりじゃさすがに飽きるんだよね~」
そう言うと改は持っていた生米を床に全て落とす。
「・・・・お前・・・さっきから何言ってんだ・・・・」
柏木は混乱しながら改に問いかける
「そこでさ、ちょっとカッシーに頼みがあんだけど・・・」
改は笑顔で柏木に悲願をする
「ちょっとさ、くんない?」
「くんないって・・・何をだよ?・・・」
柏木は改に聞き返す
改は答える
「・・・・お前の命」
「・・・・は?」
柏木がそう口を開いたのと同時に改は右手を柏木の溝に突き刺してきた
「うぐっ!・・・」
柏木は声にならない悲鳴を上げると改はその手を引き抜き、柏木の体内から光る白い球体を取り出した
「ぐはっ!!・・・はあはあ・・・!?」
「へーカッシーの魂って白なんだ~てっきりオレンジかと思ってた、だってイメージカラーがオレンジぽかったからさ(笑)ガシュッ」
改は笑いながらそう言うと柏木の魂にかぶりつく
グシャッ、ブシャッという今まで聞いたことのない咀嚼音を立て、その球体を飲み込んだ改に向かって柏木は瀕死の状態で問う
「お・・・・お前・・・・そ、それって・・・おれ・・・の」
柏木の声を聞いた改は問いに答える
「ああ、そうそうあんたの魂。まあ命って言った方が分かりやすいかな(笑)これがね俺たちにとっては一番の原動力なんだ、あむっ」
改はそう言いながら再度魂にかぶりつく
「たま・・・しい・・・カハっ!?・・・・」
柏木は改から説明を聞くと自身の体がどんどん今まで体験したことのないような苦痛に襲われていった。
視界はぼやけ、体中が寒くなり、頭痛、呼吸混乱、そして体中の感覚が失われていくような感触が現れた。
バタッ
柏木は震えが止まらない足によってその場に倒れこむ。
「・・・・が・・・あっ・・・ああ・・・・」
もう声も出すのも柏木には無理だった。
そんな柏木をみて改は口を開く
「この命だけは味がわかるんっすよ、まあうまいのもあればまずいのもありますけど。・・・・あ、でも安心して、カッシーの命は意外とうまいからさ。」
改は柏木の魂をもう一口かじり、教室の外に出る
「ごくっ、んん・・・じゃあカッシー、ご馳走様でした!!」
柏木は改の声と教室の扉が閉まる音を聞ききながら、ゆっくりと目を閉じ消滅していった。
「ごくん・・・と、これで霊力の補充は大丈夫だな」
改は先ほどの柏木から奪った魂をすべて平らげると1階の方に降りていった。
「さてと・・・そんじゃあ侵入者を片付けますか」
独り言を呟いた改は1階の窓から中庭を覗く
「あれ?」
改は1階の渡り廊下に向かって走る。その渡り廊下は、外に設置されている中庭に行くための最短ルートであったが、今その目の前にある中庭の光景には先ほど2階の窓から見た、愁人と彰吾の姿はどこにもなかった。
「どこ行ったんだ?やつら・・・」
改は慌てながら渡り廊下を通って別棟の校舎の一階に入る
しかし、その1階の廊下にはいつもの如く静寂があるだけだった。
改は辺りを見渡す
カツン、コツン・・・
その時廊下の奥から何者かの足音が聞こえてきた
改は驚きながらも、その廊下の奥に目を向ける
「なるほど・・・そっちもこっちの正体に気づいていったってわけか・・・おもしれえ!」
柱の陰に身をひそめると改は左腕に力を入れる。
みちみちみちと奇怪な音を立て、左腕は血管と痣が浮かび上がり、目は片方赤く、頭髪は黒髪に白髪が混合していき、肌は灰色に変色していった。
コツン、カツン、コツン
その足音がこちらの予想通り1階の廊下に近づいていくことを理解すると、改は不気味ににやけ、さらに腕に力を入れる
(ククク、馬鹿な奴だ・・・こっちはお前たちとは違って、改造されてるんだよ・・・)
改はその足音が自分のすぐ近くまで来ると柱の陰から飛び出し、力をためていた左腕をその近付いてきた人物に突きだした。
「残念でしたーーーー!!」
バシッ
「何!?・・・」
改はその突き出した腕を難なく受け止められ、唖然として表情のまま自分の腕を掴んでいる人物を見る。
「・・・・・なんだお前かよ・・・巧」
小野は改の腕を掴んだまま返答をする
「相変わらず血気盛んだな、始」
「え、これホントにホントなの?ドッキリとかじゃなくて?」 「やだちょっとマジで怖いんだけど・・・」 「侵入者って何?・・・・テログループ?犯罪集団?」 「物騒なこと言うな」
体育館内では強制避難させられた生徒たちがざわつき、教師たちは一生懸命にその生徒たちを落ち着かせるように大声を出す
「みんなー!みんなー!落ち着いて!落ち着いて先生たちの声を聞いて!!」
「ほら、はしゃぐなっ!!」
「自分のクラスメイトや友人がいるか確認してーーー!!」
生徒達はざわつきながらも教師に言われた通りに周りを確認し確認をとる
「あれ?改がいねえ・・・雄二も」 「真由美(マユミ)ーーー!!どこにいるのーー!?」 「なあ、瀬川(セガワ)いたか?」 「いやこっちにはいないけど・・・」
夢菜はそんな人ごみをかき分けながら自分たち以外にクラスメイトや友人がいなくか探し出す。
「あ、真紀!」
「夢菜ちゃん!」
夢菜は体育館の隅で壁に寄りかかっている真紀に近づく
「夢菜ちゃん、無事だったんだね?」
「うん、私たちは何とか避難できたけど・・・」
夢菜は自分の後ろに女友達が3人いることを真紀に伝えると暗い顔になる
「・・・どうしたの?」
真紀はそんな夢菜に問う
「・・・雄二達が・・」
「達?」
真紀は少し考え再度問いかける
「・・・もしかして・・・木葉ちゃんたちの事?」
夢菜はゆっくりと頷く
「とりあえず今、先生たちが探しに行ってるみたいなんだけど・・・」
そう言うと夢菜は体育館の壁に目を向ける
「なんだか今、ものすごく悪いことが起きようとしている気がするの・・・・」
「?・・・悪い事って、あの中庭の二人?」
「・・・・・・・」
真紀の質問に夢菜は沈黙をした
「ん?・・・あれ、ここは・・・」
泊が目を覚ますと4組の副担任、道峰が声をかけてきた
「あ、泊先生お目覚めですか?お体の方は・・・」
泊は今自分がいるのが体育館だとわかると先ほどの事を思い出そうとする
「確か・・・私はさっき、城戸達に・・・」
そう口を開いた泊に野崎は震えながら質問をした
「見たんですか?・・・」
「え?」
泊は振り向く
「あのコートの男の顔、見たんですか?・・・・」
震えながらそう言ってきた野崎の言葉を聞いて泊は疑問を抱いた
「顔・・・何のことですか?」
「今、校舎内にコートの男と謎の灰髪の男が侵入したという報告があったんです。それで今、校舎にいる人間を全員体育館に避難させたのですが・・・」
泊が顔を反対側に向けると、2組の担任教師、間が代わりに説明をした
「コートって・・・それって2日前の文化祭に来たっていう!?・・・」
「断言はできませんが、その可能性は非常に高いかと・・・あと、なぜか電話が通じないんです・・・!」
西村が横で悲しげな表情のまま口を開いた。
「・・・あれ?意思田先生は?それに・・・柏木先生も」
泊は今自分たちのいる教師エリアに意思田と柏木がいないことに気づいた
「それなのですが・・・意思田先生はまだこの体育館には来られていないようで・・・それで柏木先生や小野先生が意思田先生や他の逃げ遅れていない生徒達を探すために今、校舎内を回っているんです。」
「え、本当ですか?」
「はい・・・」
西村は先ほどよりも悲しげな表情で返答した。
「一体・・・何が起こっているのでしょうか?・・・この石櫻高校で・・・」
「校長先生・・・」
牧田校長は難しい顔をしたまま慌てふためく生徒達を見ながらそう声を漏らす。
柏木は立ち上がり体育館を見渡す
混乱状態でざわざわと慌てている生徒達や、その生徒達を落ち着かせる1年生や2年生の教師たち。その中には恐怖や悲しみからか、涙を流すものも多数いた。
「・・・・・・」
柏木はその光景を目にすると、心の中であまり出さなかった正義感を燃やし口を開いた。
「みなさん、僕も柏木先生や小野先生と一緒に校舎内に行ってきます!!」
「え!?」
その泊の発言に西村を含む近くにいる教師が驚きの顔を見せた
「そんな・・・危険ですよ!泊先生!!」
「そうですよ!あのコートの男の顔を見たらいくら厳格なあなたでも・・・・」
「侵入者が怖くて教師が務まりますか!!」
泊は体育館の出口へ向かって行った。
「あ、泊先生!!」
「お待ちください!!」
泊の背中に教師たちは彼の名を呼んだ
「・・・・・泊先生。あなたって人は・・・」
牧田校長はその走っていく泊の背中に心を打たれながら声を出した。
「すいません。鍵を開けてください」
「え?どうなされたんですか?泊先生」
体育館の入り口で門番ならぬ入り口番をしている教師は泊に問いかける
「私も校内を探しに行きます!」
「探しに!?そんな危なすぎますよ!今だって例の男達が・・・」
真剣な表情の泊に対して真剣な表情で説得をしようとする教師を無視し、泊は体育館の扉を開けようとする。
「そんなの百も承知ですっ!!・・・」
「あっ、ちょっと!!」
泊は鍵を開け扉を開けようとする
「・・・・・・え?」
泊は固まった
「・・・どうされました?」
入り口番の教師が突如固まった泊に問いかけをすると、泊は顔を振り向かせる
「あ・・・開きません・・・」
泊は確かに鍵がちゃんと開いている体育館の扉の取っ手に手をかけたままそう答えた。
体育館の外では包帯を顔に巻いた状態の戒、つまり晴太が生徒たちと教師たちが避難した体育館に手の平を向けていた
その手の平からは謎のオーラが出現しており、彼の目の前にある体育館はそのオーラによって覆われていった。
「・・・・・っと、まあこんなもんかな」
晴太はそう言うと、オーラによって覆われた体育館を背にし校舎内に足を踏み入れる。
「木葉・・・・今行くからな・・・!」
晴太は階段を上り始める。
優と雄二は別棟の校舎の3階を走っていた。
雄二は自らが所属している陸上部での自慢の走りを存分に活用し、優は先日から始めたジョギングが、こんなにも早く使われるなんて思いもしていなかった。
「時野ーーー!!時野ーーー!!どこに行ったんだよーー!!」
「木の葉ちゃーん!!僕たちならここだよーーー!!」
二人は走りながら必死に木葉を探す。
「くそっ、これじゃあ埒が明かないっ!!・・・」
「はあはあ・・・でも早く見つけないと木葉ちゃんは・・・」
息を切らして汗をぬぐう優に対して雄二は提案を切り出した
「よし、優。お前はこの階を頼む、俺は2階に降りて時野や青神がいないか探すから」
「・・・うんわかった!」
雄二の提案に優が賛同すると雄二はすぐさま2階に降りていった。
優はそんな雄二の降りていく姿を見送ると、3階の廊下を走りだす。
(木葉ちゃん、君は僕たちにとって希望そのものだから、絶対に見つけ出して見せるから!!)
優は真剣な目で教室という教室の中身を確認する
掃除道具の中やベランダ、はたまた男子トイレや女子トイレにも罪悪感を抱きつつ入って確認をした。
「ここにもいないか・・・」
優はそう言いながら女子トイレを出て再び足を走らせる。
走っている途中、優は数分前に自分達より先に一目散で木葉を探しに行った風哉の事を思い出した。
(風哉君は、僕以上に走っても弱音を吐かず、ボロボロになってまで木葉ちゃんを探していたっけ・・・)
心の中でそうつぶやいた優は立ち止まり下を向く
(それに引き換え僕は・・・)
優は横にある大鏡の方に目を向ける
そこには風哉よりも背が低く、筋肉が全くついていないやせっぽちな優男の自分の姿があった。
「・・・・強くならないと」
優は鏡に映る自身の体にそう言うと眼鏡をとり、近くの蛇口で顔を洗った。
ハンカチで顔の水分を拭きとった優は眼鏡をかけなおし、木葉を探すため走り始めた
だっだっだっだっ
「はあ、はあ、はあ、はあ・・・」
優の足音と荒い息遣いが3階の廊下に聞こえる中、優は心の中で再度呟く
(風哉君・・・君が木葉ちゃんを守るんだったら・・・僕はそんな君を守って見せる、木葉ちゃんを見つけ出して!!・・・)
「教師たちにも見つからないようにしないとな・・・見つかったら後々面倒なことになるし・・・」
雄二は自分を含むまだ体育館に避難していない生徒達を探すべく、校内を探し回っている教師に見つからないように木葉を探す。
「にしても・・・例の二人って一体だ・・・あれ?いない?」
雄二は2階の窓から中庭を覗いてそこに今回の騒動の元凶である愁人と彰吾がいないことに気づいた。
その事実に気づくと雄二は少し考察し口を開く
「ま、まさか・・・奴らこの校舎内に・・・」
雄二がそう考えた刹那
ガシャアアアアン!
自分のいる階の下、1階から窓ガラスが割れるような音が聞こえた
雄二は一瞬ビクッっとなりながらも、音の正体を確かめるため1階の階段の方に向かう。
「何だ?・・・もしかしてあの男たちが・・・」
雄二はそう思いつつ階段をゆっくりと降りていく
「くっ!!・・・」
その時自分の目の前にある廊下に自分の友人である改が何者かに吹き飛ばされて、片足を地面につけている光景が飛び込んできた。
「え・・・改?・・・」
雄二は不意に声を漏らす
「やるじゃねえか、管理人さんよおっ!?」
改はそう言いながら、今自分を吹き飛ばしたであろう何者かに向かって走っていった。
「改!!」
雄二は慌てながらも階段を急いで駆け下り、曲がり角から改が向かって行った1階の廊下に目をやる
ガシャン!、ジャキン!
兵士たちは各々の武器を交差させ
火花を散らしていた
その中でも白命郷の1番隊隊長である昴と黒命郷1番隊隊長の憐は互いの刀をぶつけ合い、早くも一騎打ちを行っていた
「ぐっ・・・・・!」
「んんっ・・・・・!」
二人の男達は白命郷を舞台に地面に横たわる多数の兵士の躯の中で押し合いをする。いや元から兵士たちは躯だったのかもしれない・・・
「くっ、はあ!!」
昴は連の刀を押し返し、切り込みを入れる。しかし憐はその軌道を予測していたかの如く紙一重でかわし、剣を突き刺してきた。
「させるかっ!!」
キャチン!
という金属の音がし昴はギリギリで刀の刃を憐に向け、刀の先をガードする。
「・・・ふんっ!」
憐はガードされた刀で昴を押し返すと昴は後ずさり憐の方を見つめる。憐も昴と同様に昴を目でとらえていた。
「はあはあ・・・」
「・・・・・」
昴は息を切らしていたが、憐は無表情で昴をにらむ。
「はあはあ・・・・憐・・・お前変わらないな」
昴の問いかけに憐は眉間にしわを寄せる
「・・・なんだと・・・」
憐がそう言うと昴は再度口を開き、笑顔で憐に告げる
「お前は昔からそうだったよ、手加減が苦手っていうか真面目バカっていうか、相手が本気やそうじゃくても自分はいつも本気になる。俺が練習だって言ってもお前、ものすごく力入れてたもんな!!」
昴の言葉を聞いて憐は数年前の事を思い出す。そう、まだ自分たちが新命郷で暮らしていた時のことを
「まいったまいった!憐、今日もお前の勝ちでいいよ」
「これで俺の7勝2負け2引き分けだな・・・」
憐はそういいながら腰をついている昴に手を伸ばし立たせる
「え?3負けじゃなかったっけ?」
「2負けだ、俺が数を間違ると思うか?」
「はいはいそうでしたね・・・」
たわいのない会話で二人は練習の時を過ごしていたりすることもあった。
「なあ憐」
「ん、なんだ?」
二人が幻霊館の外に出てベンチに座り薄暗い夜空を見ながら昴が憐に質問をしてきた。
「お前さ・・・将来どうしたい?」
「何?」
昴の質問に憐は顔を向ける
「いや、だから将来何になりたいかってこと」
昴の真剣な表情に憐はため息をつきながら答える
「はあ・・・将来も何も俺たち死んでいるじゃないか・・・・この先に待っているのは天国か地獄・・・」
「そう言うのじゃなくて!」
憐は突然大声をだした昴を焼死する
「まあ、確かに俺達もうとっくに死んじまって、後は天国か地獄に行くだけだけど・・・ほらその前にやり残した事ととかあるじゃん?だから俺たちここにいるんだろ?」
「・・・・そうだな」
憐は空を見ながらそう答えた。
「お前はどうなりたいんだ?」
憐は質問をした昴に問う
「俺か?俺はな・・・誰かに認められたい!」
「認められたい?」
昴は笑顔で憐に言う
「ああ、今はちっぽけな兵士だけど、いつか絶対に強くなって隊長まで上り詰めて見せる!」
そう言うと昴は拳をぎゅっと強く握った。
「ふふ、お前らしいな」
と憐は微笑みながら返答する
「お前はどうだ?憐」
「俺か?俺はそうだな・・・」
憐はしばらく考え込むと口を開いた
「俺は・・・」
「はっはっはっはっ!・・・」
昴は物凄い速さで幻霊館の3階に上り悲鳴が聞こえた部屋に入る
「どうしうっ・・・!?」
昴は目の前の光景に思わず口を押える
その部屋の光景は自分と同じ兵士たちが血だらけで倒れており、その部屋は隅から隅までその兵士たちの血で真っ赤に染まっている光景だった。
「・・・憐・・・・お前がやったのか・・・」
昴は血まみれの刀を握ったまま背中を向けている憐に問いかける
「・・・・ああ、お前か昴・・・」
憐は振り向き、うつろな目で昴を見つめる
そんな憐に恐怖感を抱きつつも昴は憐に問いかける
「お前・・・自分が何をしたのかわかってるのか!?」
「わかってるさ・・・俺はこの刀でこいつらを殺した・・・」
あっさりと返答した憐に対して昴は唖然の表情をする
「・・・なんでだよ・・・憐」
その声が憐の耳に入ると憐は体を昴の方に向け彼に答えた
「昴、お前、昔俺に将来何になりたいかって言ったよな?」
「え?・・・・」
昴は突然の質問に声を漏らしながらも異変の前の平和な日常を思い出す
「・・・ああ、あれか・・・でもお前あの時!・・・」
「ようやくわかったよ・・・」
憐は血でぬれた刀を見つめ口を開く
「俺が将来なりたいものがはっきりと・・・・俺は」
憐はその刀で自分の腕を切った。
その傷口からはまるで墨汁のような真っ黒の血液が流れ落ちてきた。
「復讐を果たす・・・!」
憐は不気味に笑い昴に己が願望を告げる
「復讐って・・なんだよそれ!?」
昴は憐の言葉が信じきれなく、怒りと驚きの表情で問い返す
憐はその言葉を聞きその部屋のドアを開ける
「・・・生者(にんげん)にさ・・・」
そう言うと憐は開けた窓から外に飛び降りた
「憐!!」
昴は慌てて窓から外を見たが、そこには夜の街を鮮やかに照らす小屋の光と、いくつもの鳥居、寺や空に浮かぶ人魂の姿しかなかった。
憐はその光景に憐がもういないことを察すると後ろを振り向き、憐が流した黒い血でできた床のシミを見つめる
「・・・・・憐、お前も・・・」
先ほどの光景を昴は思い出す
(復讐を果たす・・・!)
(・・・生者(にんげん)にさ・・・)
「・・・・・・ああ、思い出したよ昴」
憐は過去の記憶を思い出して口を開く
「消し去りたい記憶って、やっぱりあるものなんだな・・・」
「そうか?俺はお前との日々めちゃくちゃ楽しかったぜ?」
昴は憐に笑顔で返答した
「・・・でもよ・・・」
昴は笑顔から急に真剣な顔に変え憐に話す
「俺は変わったかもしれねえ・・・お前があの男の元に行ったあの時から」
昴はそう言うと持っていた刀を強く握りしめる
「だからお前に今一度、答えてほしいんだ!お前の目から見て・・・」
憐は昴の言葉に耳を傾ける
「お前は今の俺を認めれるか?」
昴の目はどこか悲しげな雰囲気だった。
「・・・・・・・」
憐は昴の問いにすぐには返答しなかった
そして少しの沈黙の後
「・・・・ああ、認めるよ」
憐は口を開き答える
「お前は今も昔も、大馬鹿野郎だってことがな」
昴は憐の返答を聞いて予測できていたかのような悲しげな顔になる。
「なんでだよ・・・・」
昴は顔を下に向ける
「なんで・・・何でお前はそんな風になっちまったんだよ!!」
昴は顔を上げ憐を直視する
憐は昴に直視されながらも少し間を置き口を開く。
「お前さ・・・人を愛したことってあるか?今まで」
「え?」
昴は憐の急な問いかけに目を丸くする
「そして・・・・」
憐はかつての忌々しき記憶をよみがえらせる
「裏切られたことってあるか?」
「裏切られた?・・・」
昴の表情は相も変わらず、憐に悲惨な過去があった事を今知ったようだった。
昴は憐に言われた通り死んだ後の事や自分が生きていた頃のわずかな記憶を何とか思い出そうとした。
「・・・・っふ」
昴は笑みを浮かべ、憐はそんな昴を不思議な目で見る
「ははははは、悪りい憐!精一杯思い出してみたけどやっぱないや!だって俺」
昴は刀を構える
「友達を守って海で溺れ死んだほどの大馬鹿野郎だからさ!」
その答えを聞いて憐は無表情になり昴をみつめる
「・・・・そうか、じゃあ俺たちは」
憐も刀を構える
「最初から分かり合えなかったってわけか・・・」
その声を合図に二人は再度斬りかかり、刃と刃を激しくぶつかり合わせた
ジャキンッ!!
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