0番隊始動
「木葉ちゃん!!」
優は1階に降りると曲がり角を曲がり木葉が向かったという職員室を見た。
しかしそこには木葉もコートの男もおらず何人かの教師が話し合いをしている様子だった。
優と雄二と夢菜は不思議ながらも教師たちの方に足を運ぶ
「あの、すいません。何かあったんですか?」
優の質問に野崎は整息しながら答える
「さ・・・さっき般若・・・いや正とかいうコートの男が時野を・・ナイフで殺そうとしていて・・・」
「野崎先生!今は休んだ方が・・・」
他の教師が野崎にそう言うと、それを聞いた優達は顔を真っ青にして口を開く
「え?木葉ちゃんを!?」
「ナイフで!?」
「やば・・・」
優を動揺しながらも野崎に聞く
「で、その木葉ちゃんとコートの男はどこに?」
野崎は震える手で反対側の曲がり角を指さす
「あ・・・・あの曲がり角を曲がって2階に・・・」
「とりあえず、この学校に危険事物がいることは確かだ。君たちは早く体育館に避難して・・・校内放送で他の生徒たちにも・・・」
バッ
優はそれを聞くと木葉とマサが向かったといわれる曲がり角に走っていった
「あ、おい黒峰!!」
優に続いて雄二も後を追う
「私もっ!」
夢菜も二人の後を追おうとしたが、教師に腕を捕まられ後を追わせなかった
「先生、離してください!!私も!」
「何を言っているんだ!危険人物に接触しようなんて危なすぎる!!」
教師がそう言うと他の教師は木葉達を追いかけに言った優と雄二を連れ戻すべく曲がり角に向かって行った。
「で・・・でも」
夢菜は教師の発言に1里あると実感しながらも口を開く
「木谷・・・」
野崎は小刻みに震えながら木谷の名前を呼ぶ
「・・・・なんですか?野崎先生?」
夢菜は震えている野崎に恐る恐る尋ねる
「あの男は普通じゃない・・・早く奴を取り押さえないと大変なことになる・・・時野や城戸、そして彼女たちを探しに行った青神と黒峰と浜田も・・・・」
「え・・」
夢菜は野崎の発言に思わず声を漏らした
「木葉ーーーーー!!!」
木葉を探しに行った風哉は2階の階段で木葉の名前を呼ぶ。その声は壁という壁に反響し耳が痛いほどだった。
しかしその声に振り向く生徒の中に木葉の姿はどこにもなかった。
「木葉・・・木葉・・・どこにいるんだ!?出てきてくれーーー!!」
風哉は誰の目から見ても必死そのものの形相で木葉を血眼で探す
廊下を見てもそこに木葉の姿はない、そこにあるのは割れた窓ガラス・その窓から中庭を覗くクラスメイトや他の生徒・奥の方で倒れている泊教師の姿やこそこそ何かをしゃべっている生徒の光景しかなかった。
「君!木葉を知らないか!?」
風哉は近くにいた女性生徒の両肩を掴み木葉の事情を聴きだす
「え?ど、どうしたの青神君!?」
その女子生徒は学校内のプリンスから至近距離で顔を近づけられたことにより顔を赤くして動揺をしていた。
「時野木葉!俺と同じ3年3組でっ!・・・」
「木葉ちゃんならさっき灯ちゃんが3階に連れて行ったよ」
風哉の後ろでそう声が聞こえた
振り返るとそこにはスマホを片手に自分や木葉と同じクラスの真紀が立っていた。
「本当か!?安東!」
「うん、さっきあの下にいるコートの人からあの灰髪の人が木葉を助けた後、灯が木葉ちゃんの手を引っ張って階段を上っていく姿が見えたの。」
真紀は割れた窓から中庭にいる愁人と彰吾の戦いを撮影しながら説明をした
風哉も真紀や他のクラスメイトと同様に窓の外を見る
そこには先日ジョギングの時に見かけたコートの男と、謎の灰髪の男が拳や蹴りをぶつけあい、その場所にふさわしくない中庭で激闘を繰り広げていた。
「やっぱりあの男・・・」
「うん、私が劇で見たのもあの男だった。何が起きているんだろうね?・・・今」
風哉は来客者が例のコートの男だと確信すると真紀に言われた3階の方に走っていった。
真紀は走り去る風哉の背中を一瞬見るとすぐさま顔を窓の方に向け撮影を続行する
「これは・・・・急上昇行くかも・・・!」
真紀はそんな淡い期待を抱いていた。
3階の階段では灯は木葉の手を握り階段を上っていた
灯は先ほどの出来事に戸惑いを感じつつもコートの男と謎の男から木葉を遠ざけるため足を走らせていた
「はあはあ灯ちゃん・・・・灯ちゃん、ちょっと・・・待って・・・」
木葉はその灯に手を引っ張られながらも灯に止まってもらうよう悲願した
「ん?・・・なに・・木葉、はあはあ・・・疲れたの?」
灯は少しの休息を含めて木葉に言われた通りその場で立ち止まる
二人は呼吸を整えながら目を合わせ口を開く
「はあはあ、さっきの男の人なんだけど・・・」
木葉の発言に灯は返事する
「ああ・・・あのコートの男ね・・・あの男何で木葉を・・・」
「違う・・・その人じゃなくて、はあはあ・・・もう一人、はあはあ・・・あの灰髪の人」
灯は木葉の言う男が彰吾ではなく愁人だと気づくと驚きの顔をする
「え?・・・あんた・・・あの男の人知ってるの?」
灯の問いかけに木葉はためらいながらも頷く
「・・・うん、あの人私が小さい時に会った事がある人だった・・・」
「会った事があるって、じゃあ知り合い?」
木葉は首を横に振る
「ううん、全然知らないけどあの人私の名前を知っていたの・・・10年前のあの時・・・」
木葉は10年前の洞窟内での記憶を思い出しながら灯に告げた
「でもね・・・おかしいの」
「何が?」
灯は木葉の疑問に耳を傾ける
「あの人・・・なんだか・・・」
木葉は今度は明日音たちの顔を思い出す
「明日音さん達と同じ感じがして・・・」
「明日音さん?・・・それってあんたがあの旅行の時に言ってた・・・」
トントントントンッ
「え?」
「何?」
灯と木葉は急に下から聞こえてきた足音の方に目を向ける
「もしかして・・・あのコートの男が!?」
灯はそう言うと辺りを見渡して隠れる場所がないか探すため渡り廊下を進む、木葉も同様に
「あ、木葉!!こっち来て!」
木葉は手招きをする灯の方に走る
そこには渡り廊下を挟んで存在している音楽室があった。
灯はその音楽室の取っ手に手をかける
「お願い・・・神様」
灯の願いが通じたのか音楽室の引き戸に鍵はかけられてなかった
「ありがとう神様っ!さあ、木葉入って!」
「うんっ!・・」
灯と木葉は音楽室に入ると引き戸を閉め見つからないように壁の陰に隠れる
トントントントン・・・
先ほどしたの階で聞こえた足音が音楽室に近づいてくるのが分かった
「・・・・・・」
「・・・・・・」
木葉と灯は声を押し殺し震えながら抱きしめあっていた。
(助けて・・・お父さん、お母さん、お兄ちゃん、風君!!)
木葉は目を閉じながら一人ずつ顔を思い出していた
木葉はこれが俗にいう【走馬灯】ではないことを心から祈っていた。
お守りを握りしめたまま
トントントン
風哉は渡り廊下を進み木葉を探すため、音楽室の前を通った。
しかし、風哉の願いとは裏腹にその渡り廊下には木葉はおろか誰一人として生徒の姿はなかった
恐らく生徒の全員は今中庭でバトルを繰り広げている謎の男二人に注目しているんだと風哉は実感し渡り廊下を歩いていく。
「木葉・・・・」
風哉は先ほどの大声とは比較にならないほど小さな声でそうつぶやいた
「木葉・・・すまない・・・俺のせいで・・・」
風哉は涙目で木葉に謝罪をしていた
「俺はなんでいつもこうなんだ・・・先生の言葉を聞いて俺は、あの時・・・」
音楽室のある3階の別棟の廊下を渡りきると風哉は階段の手すりに手をかけ片膝をつく
(君なら、きっと守れるはずだよ。風哉)
「・・・先生、僕は・・・・」
風哉は恩師の優しい顔と声を思い出し、一気に涙を溢れさせた。
「くっ・・・・木葉、木葉!!」
風哉は涙をぬぐい立ち上がると今自分が手をかけている手すりの階段を上り4階へ向かって行った。
(待ってろ木葉!!俺は絶対にお前を守る・・・守らなくちゃいけないんだ!!)
4階に上がった風哉は急いで廊下の方に足を運ぶ
(だって、その決意がなければ俺は・・・)
風哉は幼少期の頃の親からの虐待の記憶を思い出す
何度も飛んでくる父親からの拳、母親からの容赦ない平手打ち、蹴り、罵声、まるで自分の存在を否定するかのような邪悪な瞳
まだ幼かった風哉にとっては、全てが地獄そのものだった。
風哉は走る
「木葉・・・どうか、俺を・・・僕を救ってくれっ!!・・・」
「悪いわね井上さん、せっかくの昼休みだったっていうのに急に呼び出しちゃって」
意思田はそう言うと進路相談室の鍵を閉めた
「いえいえ、私も昼休みは読書しかしませんから気にしないでください。」
井上は笑顔でそう言い返すと、意思田はテーブルに供えられている椅子を引き腰を掛ける
「相変わらずなのね、まあ座って」
井上は意思田の座っている椅子の反対側に座る。
意思田と井上は長方形の白いテーブルをはさんで向かい合っていた。
「・・・・で、先生。どのようなご用件でしょうか?」
「あ、えっと・・・それなんだけどね・・・・」
意思田は少しためらいながら目線をずらす
「・・・・ひょっとして進路のことですか?それでしたら前にも申しました通り私は・・・」
「ううん、進路のことじゃないの」
井上の言葉を聞いて意思田は即座に否定をした
「そうですか・・・では一体?」
井上は不思議そうな顔で意思田に問う
「まあ、こんなこと言うのは失礼にあたるかもしれないけど・・・言わせてもらうわね」
意思田は井上の目をしっかりと見てしばらく黙る
そして数秒後意思田が口を開いた
「あなた誰なの?」
「え?」
井上は思わず意思田の問いかけに対して声を漏らす
二人の間にまたしばしの沈黙が流れた
「・・・えっと・・どういう意味でしょうか先生?」
井上はその沈黙を破るために戸惑いながらも意思田に尋ねる
意思田は真剣な表情のまま井上に問う
「そのままの意味よ、あなたは一体誰なんですか?」
井上は疑問を抱き、その井上を意思田は二つの目で目視していた
「誰って・・・ご存じの通り、私は井上いず・・・」
「そんなわけないわ」
井上は再度発言を否定された
否定をした意思田は井上に否定した理由を語る
「だって、井上泉なんて人この学校はおろか、この世界に存在しないんだもの・・・」
「存在・・・しない?」
井上はさらに疑問を抱いた
意思田は疑問を抱いている井上のために事の成り行きを説明し始める
「実はね、先日西村先生から電話があったの。」
説明を始めた意思田に対して井上は耳を傾ける
「西村先生ねその日被害者の会に行っていたみたいなの、18年前のシャドウウイルス犠牲者のための」
「シャドウウイルス・・・!」
井上は突如驚きの顔をする
「あなたも知っているはずよね?なにせあなたのお母さんはそのシャドウウイルスによって亡くなられたんだから。・・・で、話を戻すけど、西村先生もね過去にお姉さんをシャドウによって亡くしていたから、その会に出席したの」
井上は膝に置いている手を強く握りスカートを掴む
「で、会が終わった後にね西村先生、あなたの祖母。つまり井上 雪子さんのお母さんに会ったのよ」
「っ!・・・・・」
井上はさらに驚きの顔をする
「あなたのおばあさんはね、あなたのお母さんのために出席したみたいで随分と悲しそうだったわ・・・それで西村先生はそんなあなたのおばあさんを慰めるためにあなたが元気に学校に登校していることを伝えたの」
ポタポタと井上の額から冷や汗が落ちてくる
「そしたらねあなたのおばあさんこう言ったわ・・・」
意思田は目を閉じる
「あの子に娘なんていません。って」
目を開けた意思田はそう言うと目の前にいる井上の方を凝視する
「・・・・・・」
井上は唇をかみしめ意思田を見つめる
「最初は冗談かと思ったらしいんだけど話を聞くと、あなたのお母さん井上雪子さんは大学卒業間近でシャドウウイルスに感染して急死したって言ってたわ。だから子供はおろか結婚すらもしてないっておばあさんは言ってたの」
意思田は推理をするかのような目で井上を見る
「そう考えるとねいろいろ不審に思う点はあったのよ。保護者会や進路相談の時もあなたの親戚の方は誰一人学校に来ないし、入学の手続きや寮の手続きだって知らないうちに完了されていたり。それになにより・・・」
意思田は少し間を置き、口を開いて発言をする
「あなたは家族や親戚の方の話をすると絶対に逸らそうとするわよね・・・」
井上は目線を意思田からずらし黙秘をする
そんな井上に対して意思田は問いただしを始めた
「さあ、答えてもらえるかしら、なぜあなたは井上 雪子さんのことを知っているのか?なぜ井上 雪子さんをだしに使ってまでわざわざ指定の教室に自分を置かせるように頼んだのか?そして・・・・!あなたは誰なのか?」
意思田はそう言うと、黙秘を続けて冷や汗を流している井上を先ほどよりも強く凝視する。
その時
ピンポンパンポーン
二人の間を裂くかのように校内放送が流れた
「?」
二人は天井に目を向ける
「緊急放送、緊急放送。只今校内にて謎の男二人が侵入をしております。教師の皆さんは生徒たちを直ちに体育館に避難させてください
これは避難訓練ではありません。
繰り返します、只今・・・」
「え?どういうこと?謎の男?・・・侵入?・・・」
意思田は放送を聞いた後不意に独り言を呟き、進路相談室の外から聞こえてくるざわつき声に気づき、引き戸を開けた。
「早く急げ!こっちだ!!」 「みんな落ち着け!避難訓練を思い出すんだ!!」
「乱闘とかマジ怖いんだけどっ・・・」 「意味わかんねえ、急にどうした?」
その目の前にある光景は教師が先ほどの放送に従うように生徒たちを体育館へ誘導し、生徒たちは事態を飲み込めないまま教師たちの言われた通りに体育館へ向かっている光景だった。
「嘘・・・さっきのガチだったの?」
意思田はその光景を見てボソッと言葉にする
「意思田先生・・・」
そんな彼女の後ろで井上の声が聞こえた
意思田は井上の声に振り返る
そこには今さっきまでそこにいた井上の表情とは打って変わって、今まで見たことのない冷酷な表情の井上が立っていた。
「あ・・・・あなた・・・・」
意思田は校内放送の事といい、今自分の目の前にいる謎の女性の事といい、まさに混乱状態だった。
「私が誰かというご質問でしたね・・・」
井上はそう言いながらかけていた眼鏡をはずす
意思田は混乱しながらもつばを飲み込み井上から目を離さない。いや離すことが出来ない
眼鏡を外し終えた井上はその眼鏡を胸ポケットにしまい一歩ずつ意思田に近づいていく
「私は・・・」
一歩近づくたびに意思田の鼓動は早くなり、先ほどの井上よりも流れるように冷や汗が溢れていた。
(何?・・・・この今まで味わったことのない謎の感覚は・・・)
そう心の中で声にする意思田に対して井上は解答をした
「銀です」
ズシャッ
その瞬間、意思田の視界は真っ暗になった。
井上は眼鏡をかけ戸の方に足を運ぶ
「やっぱり来たか・・・」
先ほど放送された校内放送の内容を思い出しながら井上はそう口を開く
井上は引き戸の鍵を開け、取っ手に手をかける
「あの小説、まだ途中だったんだけどなー」
そう言うと、井上はその場で少し立ち止まり後ろを振り向く
「・・・・まあ、いっか」
井上は進路相談室の戸を開け外に出ると、教室の電気を消した。
「さようなら意思田先生。少しの間でしたが意外と面白かったですよ」
うつ伏せ状態で床に倒れている意思田の死体に向かって、井上は笑顔で語り掛けた
ガラガラガラガラ・・・
進路相談室の戸は井上によって閉められた。
ピンポンパンポーン
校内放送が終わるとそれを聞いていた灯は木葉に語り掛ける
「木葉、今の放送聞いた?やっぱりあの二人普通じゃないんだって!きっと今も木葉を探して校内をうろついているはずだわ」
「でも・・・」
「でも?」
木葉は少し考え口を開く
「あの、正とかいう人・・・なんだか事情があって私を殺しに来たみたいだった・・・」
灯は木葉の話を聞くと即座にそれを否定する
「そんなわけないでしょ!ああいう人は無差別に人を殺しに来る、いわゆるサイコパスなのよ。多分・・・さっきの灰髪の人もその・・・正・・・だったっけ?その人の仲間よ、きっと意見や計画の食い違いでそれで・・・」
「仲間だとは思うけど・・・そんな悪い人じゃ・・・」
「あんたどこまでお人好しなのよっ!」
灯は呆れながら木葉に物を言った
(・・・・ちゃん・・・)
バッ!
木葉は突如顔を左の方に向ける
「ど、どうしたのよ今度は?・・・」
灯はそんな木葉に向かってビビりながらも尋ねる
「い、今・・・誰かが私を呼んだような・・・」
灯は木葉の事情を聴くと小声で話す
「もしかして・・・さっきの正って人?」
「ううん、今の声はあの男の人の声じゃなかった・・・」
木葉は記憶を思い出しながら先ほどの声の主の正体を確かめる
「今のは・・・確か・・・」
思い出そうとする木葉に対して灯は提案を出した
「とにかく、ここに居たら危険かもしれないから、体育館に行きましょ?」
木葉は灯に手を掴まれた
「え?でも・・・」
木葉は不意にそう口にし、灯は笑顔で返す
「大丈夫よ!体育館までは、私が何としてでもあんたを守るからっ!!」
「灯ちゃん・・・」
灯の笑顔に木葉は涙を流しそうだった
「じゃあ行くよ!木葉」
灯は木葉の手を掴んだまま立ち上がろうとした
ビクッ!・・・
しかし灯は立ち上がったままその場で立ち止まってしまった
「ど、どうしたの?灯ちゃん!?」
木葉の問いかけに灯は必死の形相で木葉に何かを伝えようとしていた。
「・・・・か・・・い」
「え?」
木葉は灯の言おうとしている言葉を聞き取ろうとする
「がう・・ご・・・い」
「灯ちゃん?・・・」
「体が・・・うごか・・・ない」
「え・・・」
灯の発言に木葉は唖然とした表情をした
(この状況・・・確か前にも)
木葉がそう既視感を抱いたとき
「避難をするのは、もうしばらく待っていただけないでしょうか?」
と突然後ろから女性の声が聞こえ、木葉は振り向き灯は動けない状態のまま、唯一動かすことのできる目でその声がした方を見る
そこには以前木葉が白命郷であった時とは違う服装で二つの髪留めをしている色白の少女、明日音が立っていた。
「あ・・・明日音さん!!」
「え?明日音?」
木葉は安心感と嬉しさから明日音の方に走り抱き着く
「こ、木葉さん。お久しぶりです」
「明日音さん、こんなに早くお会いできるなんて私嬉しいです!!」
「・・・あれっ、動ける?・・・」
抱き着いている二人を見ていた灯はいつの間にか自分の体が動けることに気づいた
「でも明日音さん、どうしてここに?それにその服・・・」
「ああ、それなんですけど・・・」
明日音が少し暗い顔をすると灯は木葉の腕を掴んで後ずらせる
「あんたも、あの男たちの仲間なんでしょ!?」
「え・・・」
必死の状態で木葉を遠ざけさせた灯に対して、木葉は灯に話す
「違うよ!灯ちゃん!!この人は明日音さんだよ?」
「知らないわよそんな人・・・あんた一体何者!?」
灯に返答された木葉は旅行の時のことを思い出す
(・・・・・何の事?)
「そうだった・・・灯ちゃんはあの時の事・・・」
そう木葉が呟いたとき
「申し訳ありません・・・」
明日音は悲しげな表情で木葉と灯に謝罪をした
「え?」
「明日音さん?」
二人は不思議な顔で明日音を見る
「灯さんの言う通り、私はあのお二人の仲間です・・・」
「ほらやっぱり・・・・ってなんであんた私の名前知ってるのよ!?」
「そんな・・・」
その言葉を聞いて灯と木葉は驚く。
「でも勘違いしないでください!!私たちは・・・木葉さんを助けに来たんです!」
明日音は真剣な顔で木葉と灯に訴えかける
しかし灯はそんな明日音に向かって反論を始めた
「助けに?何言ってんのよ!!あのコートの・・・正はこの子を殺しに来たそうじゃないの!!」
「そ・・・・それは・・・」
灯の反論を聞いて明日音はグーの音も出ない表情に変わった
「灯ちゃんやめて!!思い出してよっ・・・・あの白命郷の事・・・!」
木葉は怒りの表情の灯に今一度、白命郷の事を思い出してもらうよう悲願をする
「あんたは少し黙ってて・・・!!」
灯はそんな木葉の願いとは裏腹に怒りの表情のまま木葉に告げる
「無理ですよ木葉さん・・・」
その時明日音が悲しげな表情で二人に話しかけた
二人は明日音の方を見る
「灯さんは白命郷の事を思い出すことはできません・・・・霊力の無いものは光の道を通り抜けると、強制的に記憶を消されてしまうのです・・・・」
「記憶って・・・あんたさっきからなにいってんのよ!!」
明日音の説明を聞いた灯は疑問を抱きながら明日音に問い
「どういう意味ですか?霊力って・・・」
木葉は真剣な表情で明日音に問う。
明日音はしばらく無言でいると手を強く握り、木葉の方に目を向ける
「木葉さん!!今から私が言うことをよく聞いてください!」
木葉は驚きながらも明日音を直視し耳を傾ける
「ダメよ木葉!あんな訳のわからない人の話なんか聞いちゃ!!」
「ごめん灯ちゃん!少し黙ってて・・・」
「こ、木葉?・・・」
木葉は灯を黙らせると再度、明日音に目をやる
「じ、実は・・・」
木葉は全神経を耳に集中させて明日音の言葉を聞く
「実は・・・」
明日音は目線をずらし少しためらうと覚悟を決めたように目線を元に戻し、木葉に伝える。
「実はあなたは、10年前の鷁霊祭の日に!!・・・・」
ガラガラガラ、バンッ!!
突如勢いよく開けられた音楽室の扉の音が室内に響き、木葉達は一斉に音の鳴った引き戸に目をやる
ガシッ
音楽室に入ってきた人物は真実を伝えようとする明日音の襟を掴み後ろへ放り投げた
バーーンッ!!
「うっ!・・・」
明日音は後ろにあるピアノの上に落下して床に落ちた。
「あ、あんたは確か・・・1組の」
「立中君?」
木葉と灯は、突如音楽室内の入ってきて明日音を投げ飛ばした立中の後姿に問いかけをした。
立中は後ろを振り返る
(やっぱり立中君だ!でも・・・ほとんど面識のない彼がなぜここに・・・)
灯が心の中で考察していると立中は片膝を地面につけて呆然としている木葉に語り掛ける
「ご安心を我らが希望。私はあなた様の護衛の一人です。ここは私に任せてあなた様は早く避難を」
いつも無口で不愛想な彼からは想像もできないような口調で語り掛けられた二人は、先ほど以上にあっけにとられた。
「・・・・・と、とりあえずありがとう立中君!今度、売店でなんかおごるねっ」
灯はあっけにとられながらも立中に言われた通り、今しがた彼が投げ飛ばした明日音を含む謎の集団から木葉を避難させることを思い出し、体育館に向かうべく木葉の手を握り音楽室の戸を開いた。
「あ、灯ちゃん。待って!!」
木葉はそう言ったが、灯の耳には入ってこなかった。
木葉は灯に引っ張られながら廊下に出ると、灯につられ全力疾走で体育館へ向けて走らされた
「明日音さんっ!・・・」
木葉が振り向いた先にある音楽室の戸は立中によって閉められていた。
「くっ・・・」
明日音は投げ飛ばされた自分の体を起こし立中の方を見る
立中はそれに気づいたように無表情のまま明日音の方に目をやる。
「あなた・・・もしかして・・・」
明日音がそう言うと立中は体を明日音の方に向け口を開いた
「人間は嫌いだ、そして・・・・」
立中の体が灰色に変色する
「お前らも大嫌いだっ!!」
立中が大声を出すと夏服の半袖から見える腕には、多数の禍々しき痣と血管が浮かび上がり、目は赤く髪は白色に変わっていった。
明日音はその急激な肉体の変化を見て即座に理解した。
「やっぱり・・・戒さんの言っていた通り、この人は0番隊・・・死者蘇生の・・・!!」
明日音は霊力を解放した。
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