白か黒か
(え?・・・殺す?・・・)
木葉は心の中で整理しながら今自分の目の前まで来ているナイフを見る
正が突き出してきたナイフはまるでスローモーションのように木葉の方に近づいてくる
(どうしてこの人は私を殺そうとしているの?)
ナイフはゆっくりと近づく
(私・・・死んだほうがいい人間なの?)
バッ!
木葉は何者かに後ろへ引っ張られ紙一重でナイフを避わす
木葉は体制が崩れそうになるのを回避し自分を引っ張った後ろの方を見る
「木葉、こっち!!」
灯はそう言うと木葉の掴んだ手を引っ張りながらその場を去っていく。
「灯ちゃん?」
木葉は灯に引っ張られながら角を曲がり、階段を上っていく。
「・・・・・・っち」
正は舌打ちをするとナイフを手に、木葉と灯を追いかけようとする。
「・・・ちょ、ちょっとあんた!!」
とっさのことで呆然としていた野崎は目を覚まし正の肩を掴む。
ギロッ・・・!
「うっ・・・」
振り向いた正の顔は険しく、隙間からしか見えない目は今まで見てきた眼光よりも何倍も鋭いもので般若のような風貌をしていた
野崎はその気迫におされ腰を抜かして倒れこむ
正は野崎がその場に腰を抜かすと顔を前に戻し曲がり角から階段を上っていった。
「はっはっはっはっ・・・」
灯は木葉の手を握ったままあてもなく先ほどのコートの男から逃げる
「灯ちゃん・・・どうしたの?」
「どうしたのじゃないわよ!!さっきの男何なの、いきなりナイフを向けてきて!?」
灯は走りながら木葉に問う
「・・・・あの人」
木葉は先ほどのスローモーションを思い出す
「私を殺しに来たみたい・・・」
「は!?殺しに!?」
灯は木葉の回答に思わず後ろを振り向く
「あっ!・・・」
灯は後ろを向いたのを酷く後悔した。今自分の目に写っている光景は木葉の後ろに先ほどの男がものすごい勢いでこちらに向かっている光景だった。
灯は冷や水を流しながらも前に顔を向きなおし速度を上げる
(このままじゃ・・・)
灯が心の中でそう実感した刹那
「コラお前たち!」
突如自分たちのいる廊下の奥にある事務室から出てきた泊が廊下を全力疾走している灯と木葉を呼び止める。
「あ、泊先生・・・」
灯は突然のことで戸惑いながらも泊の注意に従い走るのをやめる。木葉も灯と同様にその場で立ち止まった
「全く、いくら昼休みだからとっても廊下を走るのはいけないことってわかるでしょ!3年生なんだよ君たちは!」
泊のお叱りを受けながらも灯は焦りながら泊に告げる
「せ、先生・・・すいませんが見逃してください、今・・・・木葉を殺そうとする男が!!」
灯は後ろを指さしながら泊に訴える
「男?・・・・どこにいる、そんな奴?」
泊は灯の指示された後ろを見ながら問いかける
「え?」
灯と木葉は振り返る
そこには先ほどのものすごい勢いで自分たちに向かってきていたコートの男がいるはずだったが、今そこにあるのは自分たちのいる2階で同じく学びを受けている3年生の生徒たちが廊下で立っているいつもの日常だった。しかしその生徒たちは唖然とした表情をしていた
「あれ・・・なんで」
「きえ・・・た?」
灯と木葉は疑問を抱きながら口を開く
「君たちね・・・いくら言い逃れをするにしても、もっとましな嘘はつけないのですか?」
泊は呆れながら木葉と灯に問う
「ち、違うんです先生!」
木葉は前を向く
「っつ!・・・・」
木葉は言葉を失った。
灯も前を向き言葉を失う。
今自分たちの目の前にいる泊の後ろには今しがた自分達を後をつけていた正が濁った眼でこちらを見ていたからだ。
「どうした君た・・うっ」
バタッ
「キャーーーーーー!!」
泊は突然その場に倒れ、それを見ていた生徒たちも次々に悲鳴を上げる。
「あっ・・・」
灯と木葉は今目の前で起きている出来事の理解ができなかったが、その目の前にいるコートの男は木葉を確実に仕留めようとしていることは瞬時に理解ができた。
「無駄な抵抗はしないでください」
正は冷静な低い声で二人に告げ、鋭い目つきで二人に近づく
じりじりじり・・・
二人とももう逃げても無駄だということを察しすり足で後ろに下がる
しかし正はそんな二人を逃がさないように歩みを進めてくる
トントントンと革靴の音がいつもはうるさくて聞こえないはずの廊下ではっきりと聞こえた。
「・・・終わりです。これで・・・ようやく」
正はナイフを振り上げる。ナイフには怯えきって涙目になっている木葉と恐怖で歯がガタガタとかみ合っている灯の姿が映し出せれた。
(なんで・・・なんでなのよ・・・どうして・・・)
ナイフは振り下ろされる
(木葉が!!)
灯は心の中で叫びながら目を閉じ、木葉も目を強く閉じた
ヒヒーーン!!
赤い目をしている黒い馬は高らかに雄たけびを上げ隊長の号令の注目を浴びせる
乗馬している憐は、武器を手にこちらに視線を向けている幾つもの兵士の方に顔を向ける
「憐、演説よろしく」
臥螺奇はその横で憐と同じく乗馬している状態で憐に小さく告げると仮面を兵士たちの方に向けた
憐は大きく息を吸い込み、以前の演説よりも迫力のある声で話を始めた
「ついに、時が満ちた!!今ここに我々がいるのは全て主様のご加護、そして諸君らの頑張りの実績から来たものだ!!」
憐は1番隊隊長にふさわしい風格と威厳を使い兵士たちに演説を聞かせる
「だが、ここからが本当の闘いというもの。今我々はこの結界の先にある白命郷に踏み込み。忌々しくも、後に語り継がれるであろう争いに決着をつける!!」
憐はそう言うと拳を握り後ろにある白い結界を指さす
「・・・・諸君・・・今しがた君たちに問おう・・・」
先ほどの迫力のある演説から冷静な口調で口を開いた
「?」 「・・・・・」 「・・・なんだ?」
臥螺奇はその横で憐の突然の切り替えに疑問を抱き、反対側の方では烈は無表情のまま憐の方に顔を向ける
そして兵士たちがざわついている中、憐は開眼し兵士たちに問う。
「人間が憎いか!?」
今まで聞いたことのない大声に兵士たちや臥螺奇達も一瞬驚きながらも憐の方に目を離さない
「私は憎い、だからこそ私は今、1番隊隊長として主様の命を授かっている。」
憐はそう言いながら片手で自分の胸に手を当てる
「初心というものは忘れてはならない、いや忘れることが出来ないのだ。果てしない憎悪と悲しみというものは死しても尚、己が体に切み刻まれている。それが悲しき性(さが)というものだ・・・・」
憐は手綱を強く握る
「しかし、私はその性に感謝をしている!!この憎しみがあったからこそ我々はぬぐい切れない過去を乗り越え、初めて自分自身の価値に気づくことが出来る!」
再び憐は大声で兵士たちに告げる
「・・・・・・」
憐の演説を聞いていた烈はその言葉を聞いて過去を思い出す
そう・・・・決してぬぐい切れない過去を
(パパ、お帰りーー) (おう、ただいま隆(タカシ)!いい子にしていたか?) (あなたお帰りなさい)
その家庭はまるで絵に描いたように美しく、とても楽しそうな家庭だった
その一家の柱である烈はこの幸せがずっと続くとそう思っていた。しかし・・・・
ドサッ
烈が家に帰るといつも帰宅している家はKEEP OUTという黄色のテープで張られておりパトカーが何台か止まっていた
「なんか、強盗が入ったらしいわよ?」 「嫌ね~最近物騒たらありゃしない」
やじ馬たちが賑わう中、烈は近くの警察官に問いかける
「すいません!隆は・・・息子と妻は今どこに!?」
烈の必死な問いかけを聞いた警察官は悲しげな表情で烈に真相を告げる
「あ、もしかして神田(カンダ)烈さんですか?・・・・誠に残念ですが・・・息子さんと奥様は・・・・」
烈はその晩ひとしきり泣いた
3年後
「ひぃい!た、頼む許してくれ俺はただ金が欲しかっただけだったんだ!!」
まだ未成年ということで3年というわずかな刑期で釈放された犯人は雨が降りしきる中、涙目で烈に訴えかけていた
「・・・・・お前はなんで・・・」
烈は拳銃を手に握る
「なんで・・・生きてるんだ!!」
バーーン
拳銃は犯人の男の胸を貫通し即死させた。
「・・・・・これで俺も殺人犯・・・か」
烈は犯人の男から流れ出る血を雨が洗い流される光景を見ながら呟く
ピーポーピーポー
パトカーの音に烈は右を向く
キーーッ バタン
近くで止まったパトカーから降りてきた警察官が烈に向かって語り掛ける
「よせ!!今ならまだやり直せる!だから拳銃を捨ててこっちに来るんだ!」
「やり直せる?・・・・」
烈は3年前のあの楽しかった家庭を思い出す
「何がやり直せるんだよ・・・こっちは家族を殺されたんだぞっ!・・・・それをたかが3年で!・・・」
烈の手は、強く握りすぎた爪によって血が垂れ落ち真っ赤に染まっていた。
「落ち着け、落ち着くんだ!!」
警察官は必死に烈に告げる
しかし、烈は警察官の言葉に聞く耳を持たず持っていた銃をこめかみに押し当てる
「はっ、よせ!!」
「・・・ちくしょうが!!」
烈は涙を流しながらそう言い捨て、引き金を引いた
バンッ
雨が降る路地裏の中で一つの銃声が響いた
「・・・・・そうだったな、憐」
烈は目線を憐に向け小さな声で憐に語り掛けた
「自分自身の価値・・・」
自分の手のひらを見つめながら臥螺奇はそう呟く
「いいか、我々は決して忘れてはならない!!ここにいる理由、今自分がなすべきこと、創造の実現、そして・・・・」
憐は目の前に広がっている黒命郷の風景を見渡すと目線を戻し口を開く
「主様への恩を!!」
憐は拳を上に突き出す
「全ては忘れがたき復讐のために!!」
憐がそう言い放つと兵士たちも口を開く
「全ては忘れがたき復讐のために!!!!」
「憐隊長・・・やはりあなたは」
尊はいつもと変わらない憐を見て安心をしボソッと呟く
「ふっ」
臥螺奇は憐の横で微笑み、烈は無言で手綱を握る
「では行くぞ、諸君!!」
ヒヒーーーン!!
馬の高らかな雄たけびとともに憐を含む黒命郷の全兵士たちの足音が白き結界に向けて轟いていった。
「くっ・・・」 「ううぅ・・・・」
灯は木葉の手を今までにないぐらい強く握り木葉もまた灯の手を強く握った状態で目を閉じていた。
しかし、自分たちが目を閉じて数秒立っても何の変化もないことに気づいた。
灯と木葉は閉じていた眼を恐る恐る開いてみる
「え?」
二人は同時に声を漏らした
「お前・・・・なんで?・・・」
正は今自分の目の前にいて木葉達の前にいる男に問いかける
「あんたこそ・・・なにやってんだよ・・・」
愁人はそう言いながら正の振り下ろしたナイフを素手でつかみ語り掛けた
愁人のナイフを握っている手からはポタポタと赤い鮮血が垂れている
「誰?この人・・・」
灯は今自分たちを守ったであろう愁人に不思議な目を向けて口走る
「・・・この人」
木葉は灯とは違い、今目の前にある背中をみて昔の記憶を思い出す
(早く行ってくれ!頼む!時野 木葉!!)
あの人だ・・・と木葉心の中で悟り愁人に向けて口を開く
「あなた、もしかしてあの時の・・・」
「逃げろ!!」
愁人の突然の大声に木葉と灯は驚く
そんな二人を背中越しに愁人は尚も大声で告げる
「なにやってんだよ、逃げろっつってんだ!!殺されるぞ!?」
その愁人の怒号に灯は目を覚まし、木葉を連れて先ほどまで自分たちが走ってきた廊下を戻っていく。
「あ、灯ちゃん!!」
木葉はそう言いながら灯に引っ張られ廊下の奥へと消えていった。
「どういうつもりだよっ!!彰吾・・・」
愁人は握っていたナイフを振り払い怒りの表情で正に問う
正・・・彰吾は跳ね除けられたナイフをポケットにしまうと唇をかみしめ愁人に話す
「愁人・・・お前だってわかってるだろ?もう・・・こうするしかないんだよ!!」
彰吾は悲しみに満ちた表情に顔を変え愁人の目を直視する。
しかし、愁人の顔は依然と変わらず怒りそのものだった
「わかんないね、あの子を殺すことがこの世界を守ることだっていうのかい?」
「ああ、そうだ・・・・あの娘、希望には悪いけど今ここであの娘を殺さないと俺たちだけじゃなくて、この世界は!」
愁人は拳を握りしめ彰吾の胸ぐらをつかむ
「バカ野郎!!それでもあんた、龍之介様から任命された管理者か!?」
胸ぐらをつかまれた彰吾の目には涙が浮かんでいた
「きっと・・・辰臣師匠も泣いているぞ?・・・」
愁人は怒りの顔を少し悲しみの顔に変え彰吾に伝える
「・・・・・・・・」
彰吾は愁人の言葉を聞きさらに涙を流す
そんな二人を廊下にいる生徒たちは訳も分からず目視していた。
「・・・・がわかる・・・」
「ん?」
彰吾は目を見開き自身の胸ぐらをつかんでいる愁人の手を強く握る
「お前に何がわかる!!」
彰吾は愁人を横にある窓に投げつけた
バリンッ!!
とガラスの割れる音がして愁人は外に落下していくと、彰吾もそれに続いて自身の割ったガラスから外に飛び降りる。
「くっ・・・・」
ドンっ
愁人は体制を整え片膝を地面につけ着地に成功し、彰吾も両足を地面につけ着地に成功させた
「彰吾殿・・・あ、あんた」
愁人の目に写ったのは悲しみと怒りが混合している彰吾の顔だった。
「悪いけど・・・これが俺のやり方なんだっ!!」
そう言うと愁人は彰吾に構えをとる
「・・・・・ああ、そうかい・・・」
愁人は片膝を解かし立ち上がると自身の服についている汚れを手で払い落した後、彰吾と動揺に構えをとる
割れた窓の音に気づいたのか、その場に居た3年生だけではなく、1年生・2年生の生徒たちが窓から下を除いて二人のいる中庭に注目をしてた
「なんだなんだ?」 「あの二人誰だ?」 「え、ちょこれ・・・何かの撮影?」
そんな会話が飛び交う中、愁人と彰吾は構えをとったまま互いを見つめていた
二人の間にしばしの沈黙が流れる
「・・・・うおおおおおお!!」 「全くよおっ!!」
その後二人の拳が激しくぶつかり合い、掛け声が昼休みの中庭に響いていった。
「・・・・・」
白命郷の住民の一人である少女、胡桃は以前おばさんから注意された立ち入り禁止の立て札の前で結界を見つめていた
その結界は依然時とはまるで別物の如く紫色に変色し、禍々しい気迫が漂っていた。
そんな結界を胡桃はただじっと見ているだけであった。
しかし、そんな彼女の後ろから急ぎ足で駆け寄ってくる足音が聞こえた
胡桃は振り向く
「胡桃ちゃん!!なんでまたここに来たの!?ここは前よりもはるかに危険地帯になっているから入ったら絶対にダメってみんな言ってたでしょ!?」
おばさんはそう言いながら立札に指を指す
その立て札は以前の【関係者でも立ち入り禁止】という筆記から【この先、禍が起こる可能性あり。命惜しきものは早々に立ち去ることを推奨せん・・・】に変わっていた
胡桃はその札を少しみつめおばさんに伝える
「私、漢字読めないからなんて書いてあるかわかんないよ」
おばさんは盲点だと思い苦い顔をする
「・・・・まあ、とにかくここは危険ってことだから早く帰りましょ?」
おばさんは胡桃の手を握り街に帰ろうとする
「でも」
胡桃は目線を結界の方に戻す
「でもじゃないの、ここは危ないから。街に居れば安全だから」
「あれ」
「え?あれ?」
おばさんは胡桃の指した指の方に目を向ける
そこにあるのは先日から変色していた結界の光景だったが、なにかが前と根本的に違っていた
「ん?なにかしら・・・」
おばさんと胡桃はじっと結界の方に目を向ける
ピキッ
「え?」
「ピキッ?」
突然結界から聞こえてきた謎の音に二人は顔を見合わせ再度結界の方に目を向ける
その結界にはさっきまではなかったはずのヒビが遠くから見ても分かるように入り込んでおりそのヒビは次々に大きく進行していき結界全体に広がっていった。
ピキッピキッピキピキ!!
騒音と化したそのヒビの音は白命郷に響き渡り集団主張をしていた住民や、寺にいる友數や則男にも聞こえた。
「なんだ今の音は!?」
昴は突如の謎の轟音に気づいて幻霊館の外から音のした結界の方に目をむける、住民や友數らも昴と同じく目を向ける
「ついに・・・・来たか・・・」
龍之介は窓から日々の入った結界を見つめると目を閉じ3人の隊長に念を送る
「昴君、獅子丸君、霞ちゃん・・・・」
龍之介は呼吸を整えて3人に告げる
「奴らが来るよ・・・」
バリンっ!!!
ものすごい音とともに日々の入った結界は瞬く間に破れその破れた結界から黒命郷の兵士たちが進軍してきていた。
「きゃーーーー!!」
「なによ!・・・これ!?」
おばさんは胡桃を抱きしめながらその場で固まる
「おのれ・・・奴らめとうとう・・・皆さんは早く安全な場所に避難してください!!」
昴は大声で集団主張をしている住民に問いかけをする
しかし住民達は咄嗟のことで興奮をし昴に投げかける
「お、おい!なんだよあれ!?」 「俺たちどうなるんだよ!?」 「安全な場所ってどこにあるんだよそんなもん!!」
「落ち着いてください!!冷静さを失ってはいけません!!」
必死に住人たちを落ち着かせようとする昴の後ろから、霞が現れ昴よりも大きな声で住民に告げる
「我々が極秘に造り上げた隠れ場所があの森の奥にあります!!皆さんは急いで避難してください!!」
霞がそう言うと住民の目線は霞の方に移り問いかけが始まる
「避難って・・・森まで安全に避難できるわけないだろ!!」 「そうだぜ、俺たちを森まで安全に誘導してくれ!」
「それはできません。私たちは今から襲撃してきた黒命郷の兵士たちと交戦をしなければなりません。皆さんの安全のために!!」
霞の返答を聞いた住民たちはなおも声を上げる
「で、でもよ!!あんたたちが黒のやつらに勝てるかどうか・・・」
「・・・・今何と言った?」
霞は冷静な口調でそうつぶやくと一人の男の方に足を運ぶ
「貴様か?先ほどの発言をしたのは」
「え?いえ違います違います!!」
男は慌てて否定をする
「では、貴様か?」
霞の鋭い目つきは今度はその横にいる女性に向けられた
「とんでもございませんっ!!」
女性も慌てて火の粉を振り落とす
その2列目後ろで震えながら後ろを向いている男の姿を霞はめどとらえる
「・・・・・・」
霞はその男のを見ると少し黙り元居た場所に戻る
「我々が勝つか負けるかは我々の実力にあります!!強いものが勝ち弱いものが負ける、これはどうしようもない事実です。はっきり言います、みなさんは弱いです!!」
住民は霞の大声の指摘にビクッと震える
「半端なく弱いです、私たちがいないと避難もできないなんて子供以下です!!」
「お、おい霞。おまえどうし・・・」
「だからこそ!!」
昴の問いかけを無視し霞はなおも発言をやめない
「あなた方には強くなってもらいたいのです!!私たち以上に」
霞は手を胸に当て住民に笑顔を見せる
「あなた方なら強くなれるはずです。なぜなら!!みなさんは人間が好きではありませんか」
霞の優しい口調に住人たちは心を打たれた
・・・・ざっざっざっ
その霞の問いかけに一人の男はその場を離れ森へ向かい、空を筆頭に他の住人たちも男に続いて森へ向かう。数分後にはそこにいた全員が森に足を運んでいった。
昴と霞は誰もいなくなった幻霊館の門の前に立っていた
「やるな、霞隊長!」
昴は霞の方に目を向ける笑顔を見せる
「なに、本当のことを言ったまでだ」
霞はそう言いながら門の中に入ると昴も同じく門の中に入っていった。
「進め!!狙うは白の頭、龍之介だ!!」
「うおおおおおおおおお!!!!」
憐の掛け声に兵士たちも声を荒げ、馬は地面を駆けながら本拠地である幻霊館に向かって行った。
(主様、見ていてください・・・・これが我々の全てです!・・)
憐は心の中で自分たちの主、黒命郷の創造者にこの戦いの意気込みを告げる
「ん?あれは・・・」
臥螺奇は憐と同じく先頭を切りながら目の前の光景に注目する
「・・・・なるほど。おい憐!」
「どうした?臥螺奇?」
憐の問いに臥螺奇を答える
「敵のお出ましだ」
パカラッパカラッパカラッ
青い目の白い馬は昴達を乗せて、白命郷に侵入してきた黒命郷の兵士達に向かっていた。
昴を含む獅子丸と霞隊長は真剣な表情で前を向き手綱をしっかりと握りしめ、武器を腰に吊るし臨戦態勢を整えていた。
幾多もの兵士たちを率いて進軍している昴達の目の前に今回の敵である黒命郷の兵士たちが見え、その先頭には1番隊隊長の憐の姿が見えた。
「・・・・憐・・・どうしてお前は」
昴は憐の姿をとらえると不意に独り言をつぶやく
その横では2番隊隊長獅子丸、3番隊隊長霞が昴と同様に先頭を走っていた
(俺は・・・俺にしか出来ないことを精一杯やる!!)
獅子丸は心の中で決意を再度固め闘志を燃やし、霞は龍之介の笑顔を思い出しながら少し切ない顔で黒命郷の軍を見つめる
(龍之介様・・・こうすることでしか私たちは奴らと分かり合えなかったのでしょうか?)
二つの軍は今まさにぶつかろうとしていた。
黒命郷の主は自身の部屋の椅子に腰を掛け木葉の写真を見つめていた。
その写真はもうボロボロで木葉の笑顔がしわくちゃに見えるほどだった。
主は写真を台の上に置くと黒い布をめくり外に出て、城のバルコニーから破壊された結界の方に目をやる
あまりにも遠すぎてよくわからないが今、自分たちの兵士と白命郷の兵士たちがこの争いに終止符を打つために果てしない戦いを行っている最中なんだなと主は実感した。
主は頭にかぶってあるフードをどかし口を開ける
「派手にやれ、兵士たちよ。今この戦いが人間と死者の境界線を左右する一線になる。どちらかが勝てばどちらかの概念は崩壊し新たな時代を迎える・・・・その時誰が笑っていられるかな?」
主はそう言いながら怪しく微笑むと自室に戻っていった。
黒い布をめくり先ほど自分が置いた木葉の写真に目を向け再度口を開いた
「白か黒か・・・・お前ならどっちを選ぶ?木葉?」
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