【第4章 真の計画】 来客者

「あんたほんとに何も食べないの?」

灯は昼食のお弁当を片付けながら木葉に問いかける

「うん」

木葉は笑顔で答える

灯は再度、木葉が以前よりも痩せていってることを目で確認し口を開く

「絶食はダイエットには向かないわよ?」

木葉は灯の忠告を聞いた後に返答をする

「ううん、そうじゃなくて・・・」

木葉は自分の胸に手を当てる

「胸がいっぱいで・・・今凄いドキドキしている」

そう言うと木葉は後ろの席で友人たちとだべっている風哉に目線を向ける

灯も同じく後ろを振り向く

風哉はまさしく男子高校生の昼休みのような状態で雑談をしておりとても楽しそうだった。

「まだ早いわよ、まあでもあんた初心だから仕方ないか」

灯はそう言い席を立つ

「お手洗い?灯ちゃん」

木葉の問いかけに灯は首を横に振る

「鍵、開けに行くから」

灯は天井を指しながら返答をした

「あ・・・うん、お願い」

木葉は笑顔で灯を見送った。

その後木葉は男友達とお話をしている風哉を見つめた

「風君・・・・」

「こ・の・は・ちゃーーーーん」

「うわっ!!」

木葉は突然後ろから抱き着かれたことに驚き声を上げる

「夢菜ちゃん!?」

「ピンポーン」

夢菜は木葉を後ろから抱きしめながら正解を告げる

「どうしたの?今日はなんかいつもよりそわそわしちゃって」

夢菜はにやにやしながら木葉に問う

「べ、別にいつもと一緒だよ~」

木葉はどきっとしながらも夢菜に答える

「ふ~ん、いつも通りね~」

夢菜はさっきまで木葉がチラチラ見ていた風哉の方に目を向ける

(やっぱり、あんたも思春期なのね)

心の中でそう言い夢菜は微笑んだ

「ところで、灯は?」

夢菜はいつも昼休みなどは木葉と一緒にいる灯がいないことに気づき木葉の問いかけた

「あ、灯ちゃんならお・・・」

木葉はとっさに発言をやめる

「お?」

「お・・・・お手洗いに・・・」

木葉はうまくごまかす

「ああ、おしっこね」

夢菜の言葉に木葉は反論をする

「夢菜ちゃん、女の子がそんな汚い言葉使っちゃいけないよ?」

夢菜はとっさの反論に驚きながらも口を開く

「?そうかな?」

木葉は少し偉そうに夢菜に伝える

「お花を【切り】に行くって言わなくちゃ!」

「お花を切りに?」

夢菜は首をかしげる

「・・・・それにしてもあんた大丈夫なの?」

「え?」

木葉は突然の夢菜の真剣な表情に驚く

「大丈夫って何が?」

「何がって、あんた最近痩せてきてない?」

夢菜は木葉の体を指さして問いかける

「あ・・・これは最近ダイエット初めて・・」

木葉の返答に夢菜は少し考えにやける

「風哉君のために?」

「ふえ!?」

木葉はへんてこりんな声を出し少し赤面した

ガラガラガラガラ

その時突然誰かが教室の引き戸を開けた

「あ、灯ちゃんお帰・・・」

木葉の目に写ったのは灯ではなく自分たちの担任教師の意思田 柚乃(ユズノ)が立っていた

「やっべ!スマホ隠せっ・・・」

生徒たちは突然の意思田の登場に慌ててスマホを隠す者や呆然と意思田を見ているものがいた。

「意思田先生・・・」 「意思ちゃん、何で急に・・・」

木葉と夢菜がそう口々に呟くと意思田は木葉の方に目を向ける

「時野さん、お客さんが来ているわよ?」

「え?」

木葉は突然の報告に一瞬戸惑いながらも口を開く

「私に・・・ですか?」

意思田は返答をする

「うん。なんかあなたの遠い親戚の人で正とかいう人」

木葉は意思田の説明に再度戸惑いをする

「正?・・・・そんな人親戚にいたっけ?」

難しい顔をしている木葉を見て、夢菜は木葉の代わりに意思田に質問をする

「どんな人なの?その人」

「えーと、確か・・・」

意思田は思い出すのに少しの時間を消費し告げる

「ニット帽とコートを纏っている男の人だったわよ」

「コート!?」

「ニット帽!?」

木葉は真っ先に旅行の時のことを思い出し、夢菜は文化祭の打ち上げの時のことを思い出した。

「どうしたの?驚いた顔して?」

意思田はそんな二人を不思議そうな目で見つめる

「木葉、それって・・・」

夢菜は木葉の方に目を向ける

木葉は目をそらし沈黙をしていた。

(コートの男の人がいるってことはあれは夢じゃなかったんだ・・・)

木葉は灯とともに迷い込んだ白命郷の事を思い出す

(灯ちゃんが言うにはその人は龍之介様のお兄さんって言ってたけど、でももしそうならなんでまた私の所に・・・というかなんでこの学校の居場所を知ってるの?)

そう心で呟きながら木葉は恐怖を感じていた

(もしかして・・・私の知らない何かが・・・・・お兄ちゃん!?)

木葉は首から下げている、戒からもらったお守りを目にすると不意にそう思考がよぎった。

「時野さん?」

木葉が目線を元に戻すと教室の引き戸の所にいた意思田が木葉の目の前に立っていた。

木葉は一瞬驚く

「どうかしたの?なんかすごい思いつめた顔してるけど」

「あ、いえ、特には・・・」

意思田の安否に木葉はとりあえず応答をする

(灯ちゃんに言った方がいいかな?いやそれは駄目!灯ちゃんはせっかくあの時の記憶を忘れているんだから、これ以上厄介なことに巻き込むのはいけない)

木葉は心の中で決を意をする

(とりあえず、龍之介のお兄さんに会ってみよう。うん、そうしよう。何か私にとって大事なことがあるのかもしれないから!)

木葉は席を立つ

「え?木葉!?あんた行くの?」

夢菜はそんな木葉を驚きの表情でうかがう

「うん。せっかくのお客さんだから帰ってもらうのも悪いし、それに・・・私もその人に会ってみたいから」

木葉は笑顔でそう言ったが、夢菜にはその笑顔はいつもの笑顔よりもどこか悩みを抱えているように見えた。

「木葉・・・あんた」

「じゃあ時野さん、あなたは正さんのいる職員室の方に向かって。先生は少し用があるから」

「はい、分かりました。わざわざありがとうございます。意思田先生」

木葉はぺこりとお辞儀をし意思田にお礼を述べる

「どう・・いたしまして・・・」

意思田はいつもは律儀にお辞儀なんかをしない木葉を不思議な表情で見つめていた。

木葉は教室の引き戸を開け廊下に出ると引き戸を閉め、正のいる職員室に向かった。

「・・・・先生・・・その正ってひと、一体どんな感じ」

夢菜はそう言いながら意思田の方に目を向け固まる

意思田は、普段の明るくて軽い雰囲気からは想像もできないような、とても真面目で深刻そうな顔で教室の窓側を見ていた。

そして意思田は何も言わずに、その目線の先にある窓辺の席に腰を掛けている一人の少女の方に進んでいく

他の生徒たちはその真剣な表情で足を運ぶ意思田の姿を唖然とした表情で見つめていた。

「・・・井上さん、ちょっといいかしら?」

「はい?」

毎日恒例の趣味の読書で昼休みの時間を潰している女子生徒、井上 泉は意思田の問いかけに顔を向ける

「あなたに、お話があるんだけど」

意思田の目は鋭い目つきで井上を直視していた。

「分かり・・・ました」

井上は突然のことで躊躇しながらも本にしおりを挟んで閉じ、席を立つと意思田と一緒に教室の外に出た。




「ふぅ~やっぱ針金ってすごいわね、屋上の南京錠でも時間を掛ければ開けちゃうもん!」

灯は額の汗を拭き鍵を開けるのに使用した針金を見つめるとポケットにしまい、階段を下りていく

「いや絶対にあそこのステージはアイテム使わない方がいいって!」

「何言ってんだよ、あのアイテム持っていると敵から奪われるんだぜ?」

灯は階段の下から聞こえてくる男子生徒たちの声に耳を傾け足を止める

その声は今朝廊下であった雄二を含む仲良し3人組が雑談だった

「ああ、また夢菜の所ね・・・」

灯はそう呟き階段を再度降り始める

「なあ、黒峰?お前はどう思う?」

「黒峰?・・・優!」

灯は声がした廊下の方をのぞき込む

「いや~僕ゲームあまりしないからわかんなくて・・・」

そこには雄二と改と武蔵の3人と一緒に歩いている

「優・・・」

灯は優の姿を見ると先ほど自分が下りてきた屋上の方に目を向ける

「・・・・・私も屋上で告っちゃおうかな?」

灯は微笑みながら階段を下りていった。

「あれ?」

その時下の階に見覚えのある人影が見えた

灯は階段越しにしたの階をのぞき込む

そこにはさきほど一緒に教室で座っていた木葉が階段を下りて1回の方に向かっている光景だった

「あ、木葉じゃん。木葉ーーーー!」

灯は木葉に呼びかけをしたが木葉は返事をせずに1階に消えていった

「なにしてんの・・・あの子」

木葉の姿が消えると灯はその場で立ち止まり独り言をつぶやく

(・・・まあ大方、告白の予行練習にでも行ったんでしょ)

灯は心の中でそう推測をし、教室に向かうべく歩みを始める

ペタペタペタペタ・・・

灯の上靴が止まった

灯は先ほどを見かけた1階に消えていく木葉の姿を思い出すと、とてつもない嫌な予感が自分を襲ってきた。

灯は再び歩みを始める




ガラガラガラガラ

「ちぃーす、夢菜!戻ったぜ!」

武蔵のいる1組で昼食をとってきた雄二は武蔵を含む3人を連れて3組の引き戸を開けた

「あ、雄二。灯見なかった?」

夢菜は雄二の姿を見るたび問いかけてきた

「ん、何だよ突然?城戸なら見かけてないぜ、なあ?」

雄二の問いに改と武蔵は頷く

「どうかしたの?木谷さん」

脇から優が夢菜に聞く

「実はね、さっき意思田ちゃんが木葉を職員室に向かわせたの」

「職員室?なんでそんなところに?」

雄二の疑問に夢菜は答える

「それがね、木葉にお客さんが来てるって言っていたの・・・コートの男の」

「え!?コートの男!?」

雄二と優は驚き、その二人を改と武蔵は訳も分からず見つめていた。

「ちょっとまてよ、それってこの前言ってた・・・!」

「うん、恐らく・・・だから灯にも伝えようとして女子トイレに行ったんだけどどこにもいなくて・・・」

夢菜は心配そうな顔で事情を話す

「おい、どうかしたのか?」

「ちょっと悪りい、少し黙っててくれ・・・」

改の質問に雄二は沈黙を要求した

「それってさ、何分前とかわかる?」

夢菜は教室の壁に駆けられている時計を見つめて伝える

「多分・・・4分ほど前だったと思う」

「4分か・・・それだったら木葉ちゃん、その例のコートの男の人に」

ガタン

後ろから音が聞こえてきた

雄二たちは振り向く

そこにはスポーツドリンクを買いに売店から戻ってきた風哉が唖然とした表情で立っており、買ってきたスポーツドリンクを落とした光景だった。

「あ・・・青神・・・」

「今の会話、聞いてたの?・・・」

雄二と優は恐る恐る唖然としている風哉に問う

「木葉・・・・!!」

風哉はそう口にすると全力疾走で1階に降りていった。

「か、風哉君!!」

「待って!私たちもっ!」

「改、武蔵、悪いけど教室に戻っていてくれ!」

優と夢菜と雄二は風哉の後を追うように1階の職員室に向かった

「・・・なんだあれ?」

「わかんね」

残された武蔵と改はそう言うと雄二の言われた通りに、自分の組1組と2組に戻っていった。




トン

木葉は1階に降りると角を曲がり職員室の方を見る。そこには先ほど風哉に対する告白の予行練習を見つけた野崎教師と3週間前の洞窟で遭遇したコートの男が会話をしていた。

「あの人だ・・・」

木葉は自分への来客者があの時のコートの男だと確信した瞬間、言いようのない恐怖感が現れた。

「・・・・・・・」

木葉はその場でしばらく立ち止まるも意を決してコートの男のいる職員室に足を運ぶ。

「いやですから、これは原則必要なことですので・・・あ、時野!」

「・・・・・」

野崎の発言にコートの男も木葉の方に目を向ける

木葉は真剣な表情でコートの男の前まで歩く

「どうも・・・」

木葉は怖いと感じながらもコートの男に挨拶を交わす

「・・・時野 木葉さんですね?」

コートの男は冷静な口調で木葉に問いかける

木葉は頷く

「時野、失礼だけどこの人本当にお前の親戚か?何を聞いても重要なことだから話せないって正さんは言うんだけど」

「正・・・」

木葉は龍之介の顔を思い出す

「あなた・・・龍之介様のお兄さんですか?」

コートの男は少しの沈黙の後口を開く

「お兄さん?・・・・なるほど、彼女からそういう風に言われたのですね。誠に恐縮ですが私は龍之介様の兄ではございません。」

「彼女」

木葉は今目の前にいる男が龍之介の兄でないということよりも、彼が発した【彼女】という言葉に疑問を抱いた。

「あなたの友人の城戸 灯さんの事ですよ。龍之介様から聞きました」

「・・・そうですか。」

「・・・・・え、これどういう会話?」

野崎は二人の会話を聞いて唖然とし独り言をつぶやく

「それで、今日は私にどういったご用件ですか?話によると3週間前から私たちの後をつけてきていたようですが・・・」

木葉は普段は見せない鋭い目つきで正の方を見る

「それは大変失礼いたしました。何故、あなた様は私たちにとって希望そのものでございますので、事が終わっても監視をする必要があったものですから。」

正はそう言うとポケットから袋を取り出し、その中に入っている赤い飴玉を一つ、口に放り込む

(今の飴玉、あの時明日音さんからもらった奴と同じ・・・それに監視って・・・)

野崎はさっきよりも頭を悩ませ木葉に聞く

「・・・・おい時野、この人さっきから一体何を」

「どういう意味ですか?もっと分かりやすく言ってください!」

木葉は事の真相を知るために正に強く問いかけた。

「・・・分かりました。では単刀直入に言います・・・木葉さん・・・」

正は飴玉を飲み込み木葉に目を向け、語り掛ける

「私に・・・」

正はポケットに手を入れる

「殺されてください」

正はそのポケットからナイフを取り出すと木葉に向かって襲い掛かってきた。

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