次の日

「龍之介様、2番隊隊長獅子丸です。ただいま結界の調査を終えました」

「あ・・・うん、ご苦労様。」

龍之介は少し思いつめた表情のまま念を使い調査に行った獅子丸と脳内で通信をする。

「・・・結界の報告なのですが、やはり日に日に強度が弱まってきております。このままではいつ結界が崩壊するか・・・」

獅子丸は龍之介のどこぞとない雰囲気に違和感を持ちながらも報告を述べる

「・・・・・・・」

それを聞いている龍之介も先ほどと同じように落ち込んだ様子で報告を耳にする

「弱まっているということは霊力が薄れてきているということですので、奴らは何か良からぬことをたくらんでいるとしか・・・」

「・・・・・・・」

龍之介は沈黙の状態で耳を傾ける

「やはり龍之介様のおっしゃる通り、不測の事態に備えて体制を整えるのが先決かと・・・龍之介様?」

「・・・・・・・」

獅子丸は龍之介の沈黙に違和感を覚え問いかける

(ごちゃごちゃうるせーーんだよクソガキ!!いいから黙って俺の言う通りにさせればいいんだよ!!何度も何度も念を使って俺の名前を呼ぶんじゃねえ、耳障りだ!!)

(愁人君・・・)

龍之介は先日の愁人との会話を思い出しながら考える

(どうして君があそこまで単独行動にこだわるのか、僕らにはさっぱりだよ・・・)

「龍之介様?いかがなされましたか?」

獅子丸の呼びかけに龍之介は返事をする。

「え?・・・あ、ごめん。そうだよね信じてあげるのが一番だよね!」

「はい?」

「ああ、いやなんでもないんだ忘れて」

龍之介の様子に獅子丸は疑問を抱き失礼ながらも龍之介に問いかける

「龍之介様・・・ひょっとして・・・愁人元隊長の事ですか?」

「・・・・・・」

龍之介はまたしても沈黙をする

「やはりそうなのですね。彼に一体何が・・・」

「獅子丸君」

獅子丸は龍之介の呼びかけに発言をやめる

「彼は多分・・・いや絶対に僕たちが思っている以上に過酷な十字架を背負って今まで生きてきたんだと思うんだ・・・」

「十字架・・・ですか?」

「うん・・・」

龍之介は10年前のことを思い出す


「何だって!?時野 木葉が黒命郷に足を踏み入れたって!?」

龍之介の驚きの表情に昴は説明をする

「はい、ただいま愁人隊長から報告がありまして時野 木葉殿が身に着けている霊力を愁人隊長がとらたので、間違いないかと」

龍之介は苦悶の表情を見せる

「誤算だった・・・まさか奴らがこんなに早く事を運ぶなんて・・・このままじゃあ白命郷も生者の世界も・・・」

「龍之介様」

結界の方に向かっていた愁人から念を使い龍之介に通信が来た

「愁人君?どうしたんだい?」

龍之介は愁人に問いかけをする

「私が今から、結界から黒命郷に入り、時野 木葉を助けてきます。」

「な、何を言っているんだい!?」

龍之介は慌てふためく

突然大声を出した龍之介をみて昴や霞、他の兵士たちも驚く

「ダメだ、そんなことをしたら君が・・・」

「ええ、タダではすまないでしょうね・・・」

愁人は龍之介の警告に軽い口調で答える

「愁人君、考えなおすんだ!」

「考えている暇なんてどこにもありませんよ、それじゃあ」

愁人は龍之介との通信を切断した

「愁人君!?愁人君!?聞こえる!?」

「どうなされました龍之介様?」

龍之介は昴に安否を確認されながら涙目で愁人に問いかけをした、しかし愁人はその問いかけには応じない


「さてと・・・行きますか」

愁人は背伸びをして結界の方に足を運ぶ

「た、隊長。一体何をするおつもりで?」

一人の兵士は愁人の背中に声をかける

「獅子丸」

愁人は振り向き獅子丸の肩を叩く

「後は任せたぞ、獅子丸隊長!」

「・・・・え?」

愁人の突然の言葉と笑顔に獅子丸は目が点になった

バッ

そして愁人は再び獅子丸たちに背中を向け結界の方に全力疾走をする

「あ、隊長!愁人隊長!!」

獅子丸は大声で愁人を呼び止めようとしたが愁人は足を止めない

「まさか・・・隊長・・・」


愁人の目の前には薄い灰色の結界があったその結界の奥では禍々しい霊力が蠢き、まるで亡霊の住まいの様だった

愁人はそんな結界にもひるまずに走る速度を上げ突っ込んでいく。

「待ってろ・・・俺たちの希望!!」

愁人はそう叫びながら右手を突き出し結界の壁に当たる

バチィィ!!

「くっ!!・・・」

愁人の右手は結界の衝撃により黒く焦げ痛みと邪悪な霊力で跳ね返されそうだった。

「きぃぃ・・・・」

(愁人・・・あなたはせめて、ここでママの分まで生きて・・・)

「大人しく壊れろっ!!」

愁人は左手で結界に開かれたわずかな穴を掴み両手で横に思いっきり開くと、その先に見える黒い空間に足を運んだ。


数日後

「・・・介様」

「え?」

幻霊館の窓で遠くから結界を見つめていた龍之介は自身の脳に聞こえてきた声に驚きの声を上げる。

「龍之介様聞こえますか?」

「その声は・・・愁人君!?」

龍之介は数日前に黒命郷へ単騎突入していった愁人の声を聴き安否と疑問を抱く。

「愁人君、今どこにいるの?」

愁人は薄暗い檻を見渡して龍之介に伝える

「今、監獄の中にいます」

「か、監獄?・・・」

龍之介は恐怖と心配の感情を胸に秘めたまま愁人に問う

「監獄って、君大丈夫なの!?」

愁人は少し笑みを浮かべ龍之介に答える

「ええ、今のところは。ところで時野 木葉の事なんですけど」

愁人は今までの黒命郷の出来事を洗いざらい語り始めた

「彼女はちゃんと私が逃がしてやりました。」

「あ・・・そうか。じゃあこれで」

「いいえ、まだ終わってはいません」

龍之介が安心したのもつかの間愁人は深刻な表情で通信をする。

「え・・・どういうこと?」

龍之介は恐る恐る愁人に尋ねる

「残念ですが・・・奴らは彼女に紫の霊玉を飲ませました。」

「そんな・・・」

愁人の説明に龍之介は落胆をする

「申し訳ありません。私がもっと早く駆けつけていれば・・・」

愁人の謝罪に龍之介は慰めを入れる

「愁人君のせいじゃないよ、君はよくやったって!それに、彼女には霊力の加護が入っているお守りがあるんだからまだ終わったわけじゃないって」

「そのことなんですけど・・・」

愁人は冷静な口調で龍之介に話を始める

「何?」

龍之介も愁人の声に耳を傾ける

「今度行われる鷁霊祭でもう一度彼女を白命郷に呼び出すことは可能でしょうか?」

「もう一度・・・・そうだね。いくら加護があるからと言っても油断は出ないもんね、じゃあ今度の鷁霊祭で彼女を招いた後赤の霊玉で・・」

「いえ」

愁人は龍之介の提案を拒否した

「愁人君?」

龍之介は愁人の拒否に疑問を抱きながら口を開いた

「それだけでは油断ができません・・・奴らの霊力の扱い方は異常です。今だって私が開いた結界を霊力によって前以上に強力な修復をしております」

龍之介は窓から見える結界が数日前よりも色が薄くなり、邪悪なるオーラを放っていることを確認し頷く

「彼女を救うためには霊玉だけではなく+α(アルファ)が必要です。」

「+α?」

愁人の説明に龍之介は再び疑問を抱いた

「霊神力です」

龍之介は驚く

「霊神力って・・そんなの無理だよ!だって彼女の血縁は・・・」

「落ち着いてください龍之介様」

愁人は興奮している龍之介を落ち着かせる

「なにも今から彼女の親族を殺せなんて言ってません。まだ彼女の加護は10年ほど効果は続くでしょう・・・だからその間に新しい霊力の管理者を招くのです」

「それって・・・一体。はっ!?」

龍之介は先代の主の記憶をたどり察する

「・・・・戒君かい?」

「その通りでございます」

愁人は龍之介の推測を正解だと伝えた

「いやだからと言って、彼を殺すなんて!・・・」

「殺す必要はないはずです」

愁人は落ち着きながら口を開く

「彼にも霊玉は与えてあるわけですから、彼を生きたまま白命郷の管理者にする素質は十分にあるはずです。」

「・・・・・・」

「それに3年もあれば霊力の管理方法や技術を習得することも可能なはずです。」

「・・・・・・・」

「ですので龍之介様、今夜・・・彼をもう一度白命郷に呼び出してはいただけないでしょうか?」

「・・・・しかし」

龍之介は愁人の提案を聞くも不満を抱いていた

「龍之介、もうこれ以外に方法はございません。これは時野 木葉だけではなく、世界を守ることでもあるのです。」

龍之介はしばらくの考察の後愁人の意見に妥協をした

「・・・わかった、君がそこまで言うんだったら検討してみよう。でももし彼が嫌だって言ったら・・・」

「大丈夫ですよ」

「え?」

愁人は少し笑いながら語る

「彼は自分の妹や母親を大切にしているいい人です。彼なら絶対に我々の味方になってくれますよ」

(これで・・・これで木葉や母さんを守れるのでしたら僕は構いません!!)

(きっとあの時みたいに今回も言うはずだ・・・彼の目すごかったもんな・・・)

愁人は心の中で昔の記憶を思い出しながら呟いた

「ところで愁人君、君はこれからどうするつもりなんだい?」

龍之介は話を変え愁人に問いかけをした

「私は・・・・しばらくの間ここで暮らします」

愁人は壁にもたれて龍之介に伝える

「そ、そんな。それじゃあ君は!・・・」

龍之介は慌てながら愁人に問いかけるが愁人は笑みを浮かべて説明をする

「わたしがここで奴らの作戦などを探ってみます。もしかしたら奴らには他の計画があるかもしれませんから、ですので詳しい情報などが入りましたらまた改めて通信いたします。」

「探るって・・・そんな事できるの?」

龍之介の心配そうな問いかけに愁人は答える

「ええ、思わぬ収穫がありましたから・・・」

愁人は不気味ににやけそう口にした

「収穫?・・・」

「では、龍之介様なにかわかりましたらまたお伝えします。」

愁人は龍之介との通信を切ろうとした

「あ、ちょっと待って愁人君!」

「あ、そうだ。龍之介様」

「・・・・何?」

龍之介は耳を傾ける

「獅子丸を隊長にしてください、あいつは俺が見込んだいいやつです。」

プツン

そう言うと愁人は龍之介との通信を遮断した

「愁人君!愁人君!」

龍之介は再び目をつむって愁人と念で通信をとろうとした

ザーザザーザー

しかし念を使っても全く応答はせず通信はできなかった

「くそっ、やっぱり無理か・・・」

龍之介がそう口にしたときある疑問が脳裏によぎった

「え・・・じゃあ・・・愁人君はどうやって念を使えたんだ?」


「・・・・・・・」

愁人は自身の右手を見つめていた

しばらく見つめ終わると窓から見える薄暗い空を眺め口を開いた

「親父・・・お袋・・・俺やってみるよ。この十字架、壊してみせる」

愁人は見つめていた右手を強く握りしめた




「彼はここに、白命郷に来た時から。何か事情があったんだよ・・・彼にしか知らない、事情が・・・」

龍之介の言葉を獅子丸は沈黙のまま聞いていた。

「どうなってんだよーーーー!!」 「主だせや!この使えない兵士共!!」

龍之介は大声が聞こえる幻霊館の外の方へ振り向き、窓を開け館外を確認する

ガチャ

そこには白命郷の住人たちが幻霊館の門の前まで押しかけており兵士や使用人たちが必死にその住人たちを抑えている光景だった。

「落ち着いてください!!、落ち着いてください皆様!!」

住人たちはそんな忠告を無視し集団主張を起こし続ける。

バタン

龍之介はその光景を目のあたりにするのがとても耐えがたかった。

(木葉ちゃん・・・ごめんね、君をこんな悲惨な事に巻き込んじゃって・・・僕は・・・主失格だよ)

龍之介は窓を閉めると涙を流しその場に両膝をつく




「獅子丸隊長・・・私、何やら胸騒ぎがするのですが・・・」

獅子丸の部下である兵士がそう口にした。

「ああ、分かってる。俺も同じだ・・・」

獅子丸は背中を向けた状態のまま返事をした。

(今、この白命郷で何かが起ころうとしているのは事実だ、恐らくこの白命郷壊滅にもなりうる事態になるかもしれない・・・)

獅子丸は心の中でそうつぶやくと回れ右をし、兵士たちに告げる

「いいか皆の者!もうじき黒命郷の軍が攻めてくると思われる。だが怯むことはない、我々には龍之介様のご加護や聖なる霊力を備えている猛者、そしてなにより!」

獅子丸は片手を胸に当てる

「人を守るという正義がある!!」

その言葉で兵士たちも目を見開いた

「だから我々は負けない、負けてはならないのだ!!大丈夫、我らの勝利は必然だ!!」

「うぉーーーーーーー!!」

獅子丸の言葉に兵士たちは雄たけびを上げる

(愁人隊長、あなたからの教えまだ忘れてはいません・・・心配しないでください、あなたや先輩に変わってこの白命郷と龍之介様をお守りいたします。絶対に!!自分は2番隊隊長獅子丸です!!)

獅子丸は心の中で強く誓い立ち入り禁止地域の更地から外に出た。


ひゅーーーーー ひゅーーーーーー

その後、1陣の風が吹いてきて結界の異変の事が記載されている号外が、立ち入り禁止地域の更地に飛ばされていった。

だが紫色に変色した巨大な結界の壁に当たってもその号外は灰には化さなかった。

しかし

ピキィ!

ヒビが入った




「おはようございます」

「ああ、おはよう」

石櫻高校の門に立っている生活指導の小野は毎朝恒例の正門挨拶を行っていた。

「おはようございます。」

「おはよう、今日もがんばれよ!」

木葉と灯は小野と挨拶を交わすと下駄箱に足を運び、上履きを履く

いつもなら風哉や優も一緒に住んでいる寮から誘って登校をするのだが、さすがに今日ばかりは風哉を誘う勇気はなかった。優はチャイムを押しても出ることはなかったため置いていくことにした。まあ恐らくまだ寝ているのだろうと灯は思う。

「やっぱりみんなまだ、夏服だね・・・」

冬服で登校した木葉は周りの生徒たちを見渡しながら感想を述べる

「・・・・まあ、気にしなさんな」

灯は少し表情が曇っている木葉に向かって笑顔で慰めた

「うぃーす時野、城戸!!」

後ろから聞き覚えのある声が聞こえた

振り返ると仲良し三人組である、雄二・改・武蔵が一列になって廊下を歩いていた

「あ、雄二君おはよう」

「あんたたち相変わらず元気ね・・・その元気木葉に分けてほしいぐらいよ・・・」

「ん?なんか言ったか?」

雄二は灯の小声の発言を聞き返す

「あ、いやなんでもないわ、おはよう浜田君!」

灯は慌てて否定をしながら挨拶をした

「あれ?夢菜ちゃんは?」

木葉は普段なら雄二と一緒に登校してくる夢菜の姿がないことに気づき雄二に問う。

「あ、あいつなら先に登校したってさ、何かわかんないけど今日は早起きできたんだって」

「そうなんだ・・・へえ」

木葉と灯はいつもは眠たそうな目で登校してくる夢菜の姿を想像しながら相槌をした。

「お前たちこそ、黒峰と青神は?」

雄二の質問に灯が答える

「優はまだ眠ってるみたいで、風哉は・・・」

灯は木葉の方に目を向ける

木葉は少し照れた様子で下を向いていた

「あ、あれ青神じゃね?」

改は窓から見える別棟の廊下を指さしながら答えた

見て見るとそこには風哉と一人の女子生徒が何やら会話をしている様子だった。

「何やってんだあんな人気のないところで?」

武蔵が疑問を抱く

「プロポーズじゃねえの?あいつモテるし」

改が笑いながら推測をした

「え・・・・・」

木葉は小声で口にした

「何やってんのよあいつ!」

灯の突然の大声に木葉と雄二たちは驚く

「ど、どうした城戸?」

雄二が灯にそう投げかけると

灯は木葉の手を引っ張り風哉のいる別棟に足を運んだ

「あ、おい!城戸」

灯と木葉はまるで青春アニメのように廊下を走っていく。




「やばい寝過ごしちゃった!」

優は食パンを加えたままいつもの学校へ行く道を走っていた。

こちらも青春アニメのような恰好をしていたが、曲がり角で出てくる転校生の女子はいない

「あ、黒峰。今日は遅いな?」

小野は正門の前で慌てて登校してきた優に声をかけた

「あ、小野先生おはようございます。実は昨日からジョギングを初めて、やりすぎて眠たすぎてその・・・じゃあ!」

優は一通り説明をすると下駄箱に向かって行った。

「よし、何とか間に合ったな。」

優は独り言をつぶやきながら下駄箱へ向かう

「あれ?」

優は下駄箱の光景を見て不意に口を開く

「ん?あ、黒峰君・・・」

「安藤さん」

いつもは下駄箱で会うはずのない二人が今日は珍しく会った。




「竹田君、一昨日の演劇輝いてたよ~?」 「え、そうかな//」

「あれ恵令奈は?」 「またどうせ遅刻でしょ・・・」

「あ、立中君おはよう!」 「・・・どうも」 「・・・何あの愛想無いあいさつ」

「おい、魅島。今日さ家帰ったらクエスト誘ってくんね?」 「え、いやだよお前あのチケットめちゃくちゃレアなんだぜ?」

「中井先生にプリント渡したいんですけど、どこにいるかわかりますか?」 「あ、それがね中井先生、今日お休みなんだって。小野先生が言ってた。」

「いやマジ最近のMy tuberってさ・・・」


様々な会話が響いていく廊下の陰で灯は風哉に怒りの表情を見せていた

木葉はその横で下を向きながら沈黙をしており、風哉は申し訳なさそうな顔で灯も見つめている

「つまり、プロポーズはプロポーズだったんだけどちゃんと断ったってわけね?」

「あ、はいそうです・・・」

灯の事情徴収に風哉はまるで職質をされた若者のように答える

「だってよ木葉さん?」

少しため息をついた後灯は木葉の方に目をやる

「え?・・・あ、うん私なら大丈夫だから」

木葉は下に向けていた顔を灯の方にあげ返答をした

「ってか何で今日はお前そんなに不機嫌なんだよ?」

風哉は納得のいかないような表情で灯に問う

「なんでって・・今日あんた木葉と放課後に屋上で会う約束しているんでしょ?」

灯は木葉を指さしながら質問をして、木葉は少しビクつく

「あ、そうだけど?」

風哉は疑問を抱いたままの表情で灯に返す

「それなのによくあんた他の子のプロポーズを聞けるわね?」

灯は少しイライラしながら風哉に語り掛ける

「は?どういう意味だよそれ?」

風哉はまるで意味が分からない顔をしていた。

「・・・・もういいわ、教室に戻りなさい」

「・・・・・」

灯は呆れた顔で風哉にそう命令すると風哉は命令に従うように教室に戻っていった。

「・・・・どうやらこの10年間であんたの天然が風哉に移ったのかもしれないわね?」

灯は少しに焼けながら木葉に問う

「・・・・・」

木葉は少しもじもじしている状態で灯の言葉を聞く

「でもそんな風哉があんたは好きなのよね?」

「・・・うん」

木葉は灯の問いかけに頷く

「・・・もう我慢なんてしなくていいわよ、風哉はあんたの気持ちまだ気づいていないみたいだけど、あんたがちゃんと告白すれば思いは届くと思うから!!」

灯は木葉の手を両手で握り目を両目でしっかりと見つめ語り掛ける

「・・・・でも、私ちょっと怖い・・・」

「え?」

木葉はまたしても顔を下に向け呟く

「風哉君はただ私を守りたいっていう願望だけでここまで私を守っていてくれただけで、本当は私の事なんて全然・・・私バカだし、料理もそんなにできないし・・・・スタイルだって・・・」

「何言ってんの!?」

灯の大声に木葉と廊下を通っていた生徒たちがその声のする方に目を向ける

「あ・・・ちょっと木葉こっちこっち」

灯は人目のつかない階段の陰に木葉を連れていくと木葉に真剣な表情で語り掛ける

「いい木葉、恋愛の一番の敵は自己嫌悪なの」

「自己嫌悪?」

「そう、自分なんか駄目だ。自分なんか好きになってくれるわけないという感情が告白という名の進路を妨害していくの(わからないけど)

だからね告白するときはそんなものすべて取っ払ってあんたの全てをぶつけていきなさい!!」

灯は木葉の目の前で拳を突き出す

「ぶつけ・・・る?」

木葉はその拳を見つめたまま灯に問い返す

「もし風哉があんたのことを好きじゃなかったら告白しまくって好きにならせればいいのよ、大丈夫あんたは十分可愛いわよ!あたしと同じくね!!」

灯は木葉の両肩に両手を乗せウィンクをする

「・・・・・そうだね灯ちゃん私が間違ってたよ。わたし・・・・もう迷わない!!」

木葉は灯の目を見て両手でガッツポーズをとる

「そう、それでこそ私の親友、時野 木葉よ!!」

「じゃあ私チャイムが鳴るまでここで告白の練習してるね」

木葉は真剣な表情で灯に告げる

「うん、頑張ってね!」

灯はそう言い階段の方に向かう

「木葉!」

「何?灯ちゃん」

木葉は声のした階段の上に目を向ける

灯は階段から顔を出して木葉に伝える

「屋上の鍵開けておくから」

「・・・・ありがとう!!」

木葉はとびっきりの笑顔でお礼を言った




「やっぱりわたしっておせっかい焼きかな~悪い癖だわ」

灯は下から聞こえてくる木葉の告白の練習声を聞きながら階段を上っていく

「へ~じゃあ安藤さんダンス始めたんだ」

ん?

灯は廊下の向こうから聞こえてきた優の声をとらえる

「うん、でもやりすぎて疲れちゃって寝過ごして・・・」

「あ、僕と一緒だ」

廊下を見て見るといつもなら並んで登校したりしない優と真紀が肩を並んで歩いていた

「優・・・真紀ちゃん・・・」

灯の声に二人は振り向く

「あ、灯ちゃんおはよう!」

「おはよう」

二人は灯に笑顔で挨拶を告げる

「あ・・・うんおはよう」

灯は少し残念じみた顔で挨拶を返す

「どうかしたの?顔色悪いけど」

優の問いかけに灯は少し沈黙をし思い切って問いただす

「あのさ・・・二人ってそういう関係だったの?」

「そう言う関係?」

灯の問いかけに真紀が疑問を抱いた

「そ・・・その一緒に登校をするっていう・・・仲・・・」

灯は目線を左右にずらしながら二人に問う

「・・・あ、違うよ!さっきたまたまあっただけで、ねえ安藤さん!!」

「そうそう、私たち別に灯ちゃんが思っているような関係じゃないよ!」

二人は照れながら否定をした

「え?そうなの」

灯は目線をもどし二人の方を見る

「うん、そうだけど・・・」

優の言葉を聞いて灯は笑顔になる

「なんだそうだったの!!脅かさないでよ~あはははは、あはははは」

優と真紀は笑いながら教室に戻っていく灯を不思議そうな目で見つめていた

「灯ちゃんってああいうキャラだったっけ?」


灯は教室の自分の席に座ったまま顔を伏せていた。

別に眠いからではなく、自分の気持ちの整理をしていたからである

(灯ちゃん、おはよう)

先ほどの優の笑顔を灯は脳内でよみがえらせていた

「・・・・・・」

灯はしばらく顔を伏せている状態から顔を上げ、窓の方に目を向ける

そこにある景色は昨日と全く同じように雲一つない快晴だった。

(私も人のこと言えないわよね・・・・決めた!木葉が終わったら次は私だ!!)

灯は快晴を見ながら心の中でそう誓った




「・・・・風君、私ずっと前から風君の事・・・」

木葉は人気のない階段の陰で壁を相手に予行練習をしていた

木葉は脳内で風哉の事を思い出しながらただひたすら告白を述べている

「私、風君と出会ってから、その・・・いろいろと教えてもらったから・・・・今度は私が・・・って何言ってんの私!」

木葉は顔を赤くしながら自分の顔を左右に振る

「気持ちを・・・・ぶつけて」

木葉は目の前にある壁を風哉に見立て、真剣な表情で口を開く

「・・・・風君!私と」

「なにしてんだ時野?」

後ろから男の声が聞こえた

木葉は慌てて振り返る

そこには自分のいる隣のクラス3年4組の副担任、野崎 克信(カツノブ)が立っていた

「あ・・・先生」

「なにやってんだ?もうすぐでHR(ホームルーム)始まるぞ?」

「あ、はい失礼します!」

木葉はそう言い残し階段を駆け上がっていく

そんな木葉を道峰は不思議そうな顔で見送った


木葉は階段を上る途中、先ほどの灯の言葉を思い出した

(もし風哉があんたのことを好きじゃなかったら告白しまくって好きにならせればいいのよ、大丈夫あんたは十分可愛いわよ!あたしと同じくね!!)

「灯ちゃん・・・」

木葉はその言葉を思い出すと自然と胸が熱くなり、階段に差してくる日差しがとても清々しいようにもみえた。

(私ってやっぱり幸せ者だな・・・)

灯や風哉達や自分の母親、兄である戒。夢で出会ったであろう明日音や龍之介のことを思い出しながら木葉は心の中で改めて実感をする。

(私の周りにこんなにいいひとがいっぱいいたなんて)

木葉は教室のドアの取っ手に手をかける

「灯ちゃん、お母さん、お兄ちゃん、そして・・・お父さん。私・・・大人になるよ!!」

木葉はそう独り言を言いドアを開けた。





ゴクッ

愁人は石櫻高校の近くある木に隠れながら紫の霊玉を一つ飲み込んだ。

その後、愁人は校庭に設置されてある時計の方に目を向ける

時計の針は13時22分を指していた。

「もうそろそろか・・・」

愁人がそう口にしたとき、コートの男が学校の正門から昇降口へ入っていった。

「・・・・親父、お袋。行くよ」

愁人は消を使い姿を消すとコートの男と同様に正門をくぐった。




「あの、すいません」

コートの男は職員室のドアを開け、職員の人に話しかけた

昼休みということもあり自分の席で休んでいた教師たちはそのいきなり訪れたコートの男に驚きながらも冷静な対応で迎え入れる。

「・・・はい、何でしょう?」

野崎がコートの男にそう問いかける

「時野 木葉さんってこの学校にいますか?」

「時野さんですか?」

野崎は少し間を置き答える

「ええ、彼女なら本日出席しておりますが・・・」

コートの男は言う

「会わせてもらいたいのですが・・・」

コートの男から唯一見ることのできるその目は、どこか闇を抱えている雰囲気で野崎や他の職員たちに不気味さを与えた。

「・・・・・わかりました、失礼ですが時野さんとはどのようなご関係で?」

「遠い親戚です。彼女に伝えたいことがあってきました」

男の即答に職員室前でしばしの沈黙が流れた

「それはわざわざありがとうございます。・・・・で、一応お名前お伺いしてもよろしいでしょうか?」

「・・・・・・」

男は答えない

「あの・・・・・」

「・・・・・・・」

コートの男はなおも答えない

そんなコートの男にさらなる不気味さを覚えながらも、野崎は教師の仕事をまっとうする

「お名前教えていただけないで」

「マサ」

「え?」

コートの男の発言に野崎は聞き返す

男は先ほどよりもはっきりとした口調で名乗りを上げる

「正(マサ) 彰吾です」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る